第134話 猛攻のようです
ーside:主人公ー
俺達が休むつもりでやってきた広場で、強大な力を持っているであろうイフリートが降臨した。
疲れが溜まっている状態でイフリートと戦うのは少しきつい。だが、ここで戦って勝たなければならない理由もある。
「ふぅ。四大精霊のイフリートか……。ジュリが精霊魔法で呼び出すサラマンダーとは格が違うな」
『拳を交える前に我の力量を測るのは良いが、我が息子と比べては意味をなさんぞ』
「えっ。サラマンダーの親ってイフリートなの?」
『サラマンダーは我が生み出したのだ。人間の言葉で言えば親と言えるだろう?』
「そうなる……のか?」
『我とて人間を良く知っているわけでもないのでな。親と言う事にしておけば何かと都合が良いだろう』
「確かに都合は良さそうだ」
「なんで敵どうして世間話しちゃってるの?まぁ楽しそうだからいいけど」
今回は女神の言う通りだな。
しかしなんて言うか、こう、イフリートは敵という感じがしないんだよね。多分、どっからどう見ても悪い奴には見えないのが原因だろうな。
『敵に諭されるとは、我も老いたものよ。だが久しぶりの戦いなのだ。存分に楽しもうぞ!』
イフリートの身体が激しく燃え上がる。
「あっちい!なんて熱量なんだ!」
『この程度で音を上げていては我には到底敵わんぞ!』
「うわぁ、大変そう……。まぁ頑張ってね!」
クソ女神め。人ごとだと思って……!
『ぬ?あの小娘は戦わんのか?』
「女神はどんな事があっても戦えないんだと。守るだけなら言いらしいがな」
『……あの小娘、神であったか。それならばあの小娘に内包されている力が強大なのも頷ける』
えっ。女神ってそんなに強いの?やっぱり腐っても神は神なのか……。力を悪用しないことだけを祈っておこう。
「そういうことだから、俺と一対一だ」
「ニャ!」
「そうだったな、シロもいるから二対一だな」
『よかろう。我もお主との戦いを望む。勿論、そこの進化途上のネコもな』
ついに俺とイフリートは臨戦態勢に入った。
『いざ参る!』
先手はイフリートにとられた。イフリートは俺に接近して、炎で包もうとしてくる。
唯それだけの事だが、自分が確実に死んでしまう事を容易に想像させる。俺はその炎に包まれないように、水球をイフリートに向けて放つ。
『その程度の水など、恐れるに足らん!』
その言葉通り、水球はイフリートに当たる前に完全に蒸発してしまい、イフリートへのダメージは一切なかった。
イフリートはその間も俺に迫っており、もう包まれる寸前であった。
「くっ……。転移!」
俺は逃れる為に転移を使い、出来るだけ離れた所に行く。
『ほぅ、転移という事は時空魔法が使えるのか。その年で大したものだ。しかし、転移しただけで背後に気を配らないのはまだまだ幼いな』
「しまっ……!」
俺は背後から迫り来る炎に気付かずに飲み込まれてしまった。その炎から出ようともがくが、炎に意思があるかのように俺を逃がさない。
『我が炎の力を思い知るがいい。大圧炎!』
イフリートが拳を握ると俺を包んでいた炎が凝縮され小爆発を起こした。
「がはっ……!」
俺は爆発をもろに受け、全身を大火傷してその場に倒れる。自己再生は怪我が多く間に合っていない。
だが不思議なのは、俺が炎無効のスキルをもっているのに火傷を負ったことだ……。
『……なんなのだ、その回復力は?お主本当に人間か?』
「……それ……よりも……イフリートの使う……炎の正体を知りたいぜ」
喉もやられているのか、飛び飛びでしか話せなかったが言いたいことは言えた。
『お主、我の扱う炎が他の炎と違う事を見破ったとでもいうのか?』
「へっ……やっぱりな……。じゃなきゃ炎無効が効かないのも当然だ」
『炎無効のスキルを持っておるのか!?人間では炎無効など習得できないのだぞ!』
「どうやら俺は人間をやめてるらしいな……」
まぁしょうがないだろう。原因は女神にあるんだ。あの女神がやったことなんて一つもまともなとこないしな。
『己でそれを言うか……』
「ふう。今ので完全に回復したぜ。待たせて悪かったな」
『ぬ。待っていたことはばれていたか』
「俺は人間じゃないんだぜ?思考を読むくらい簡単だ。俺との戦いを楽しみたいという欲が溢れ出ていたぞ?」
『……本当に人間ではないな。そんな我と笑顔で戦おうなどとは』
「お互い様だ。これからは本気でいかせてもらう!」
『よかろう。受けてたってやる』
俺はすぐにイフリートに肉薄して殴った。だが、空を切った感覚しかなくダメージを与えている気がしなかった。
イフリートがそんな俺に出来た隙を見逃すはずもなく、がら空きになった脇腹を目掛けて殴ってくる。
かろうじて避ける事は出来たが、この一手で俺の攻撃が通らない事が分かった。
何か策はないのか……。考えろ……何かあるはずだ……。
しかし、イフリートは俺に考える隙を与えずに、無数の炎球を俺に飛ばしてくる。それは俺が回避する先に追尾してきて、実質回避不能だった。
迎撃するしかないか……!だが、水ではダメだ。他にあるとすれば土を被せて火を消すくらいか?
俺は土魔法で炎球が通るであろう所の上空に土を発現させ、炎球がそこを通ると予定通りに土を被せた。
するとどうだろう。炎は土に押しつぶされて消えた。
弱点は水ではなく土か!ならば……!
「魔力転化!ベース土!」
俺の体が土へと転化していく。
その時だった。イフリートがいた方向から巨大な炎球が襲いかかってくる。
『我が力の弱点を知ったようだな。魔力転化はやらせはせん!』
イフリートは俺の転化を阻止するために全力を出したようだった。
俺が完全に転化を済ませるか。それともイフリートの炎球が俺を消すかの勝負だ。
俺は自分自身に時間を早める時空魔法をかけた。それにより、自分だけが周りよりも早く動き転化も間に合うというわけだ。
そして、俺の転化が終わるのと同時に炎球が俺を襲う。今までの何倍も熱いが火傷をする事もなく、耐えることができる。
俺は炎球が消えるまでの数秒間、熱さに耐えた。それだけで俺の勝利は確定したも当然ようなものだ。
そして、ついに俺の視界が晴れる。
『間に合わなかったか……』
「これでお前の攻撃は、少し熱いサウナの中にいるような感じで俺には効かない」
『サウナというのはよく分からんが、そうだな。しかし、ここで諦めるわけにはいかぬ。敗北を決めるのは己でなく相手ではなくてはならんのだからな!』
俺は向かってくるイフリートを土魔法で使った壁で閉じ込め、遠隔操作でだんだんと小さくしていく。
「初めのお返した!大圧殻!」
『ぬおぉぉぉ!!』
俺はイフリートが限界まで小さくなれる所まで小さくしただけで、それ以降は小さくはしなかった。
「さあ、イフリート。お前の負けだ」
『そのようだな……。我にがかまけたのはいつぶりだろうか……』
俺はイフリートを解放し、こう言い放った。
「イフリート、俺達に力を貸してくれないか?」
『なに?我に力を貸せというのか?』
「そんなに不思議な事か?お前は強かったし、大抵のやつなら簡単に倒せるだろう。だがな、俺よりもさらに上がいるんだ。そいつを倒す手助けをしてくれると嬉しい」
『お主より強いものか……。ふはは、よかろう!お主の力となってやろう!』
「恩に着るぜ、イフリート」
《使い魔にイフリートが追加されました》
こうして俺とイフリートの戦いが終結した。