第128話 分断されたようです
「……どこだここ?」
目の前に広がるのは平和そうな草原。さっきまでいた洞窟とは大違いなんだけど……。
「おぉー!きれーい!」
俺が目の前の風景に呆然としていると、背後から声が聞こえてきた。
「綺麗だけど、この花魔物なんだよねー」
振り向くと、声の主は女神である事が分かった。
「なぜ女神がここに……」
「あはっ!同じ所に飛ばされたみたいだね!」
「飛ばされた?」
「うん、そう。転移トラップが発動したからね」
「あの罠って転移トラップだったのか」
それなら俺が今の状態に置かれているのも納得だ。色々とやばいがな。
「で、その転移トラップに引っかかった俺達はそれぞれ分かれて飛ばされたという事か」
「そうそう。多分皆は二人一組になってるはずだよ。最後に見た時はそうだったし」
「女神が叫んだやつか。えっと確か一緒にいるのが……」
「ゼロとリン、ジュリとレン、フェイとミル、そして私とあなた」
「ニャッ!」
「シロもね」
「ニャ」
なるほど。転移する前に誰かに触れていればその人と同じ所に飛ばされるみたいだな。
だが、俺と女神が同じ所にいるというのはよく分からん。俺の記憶が正しければ転移する時女神に触れてなかったし。
「俺と女神が一緒にいる理由はなんだ?たまたま同じ所に飛ばされたのか?」
「う、うん!そういう事にしといて!」
なんか引っかかる言い方だな。まぁいい、隠すということは聞いて欲しくないんだろうな。
「しかし、よりにもよって女神と一緒とはな……。先が思いやられる」
「なによ!私は確かに戦わないし、文句もいうし、めんどくさいけど、役に立つ情報を持ってるんだから!」
「へぇ。じゃあ役に立つ情報とやらでここがどこなのか教えてくれよ」
「むっ。信じてない顔してる!私がほんとに役立つ事を証明してやるんだから!」
「いいからはやく教えろって」
俺がちょっとだけ凄んで言うと、女神が短く悲鳴を上げて説明を始めた。
「ここはEXステージって言って、転移トラップに引っかかるとここのフロアに飛ばされることになってるの。EXステージって言ってもダンジョンと殆ど変わらないから普通に進んでオッケー。でもただ一つダンジョンと違う所は、罠を発動させたら他のステージのどこかで発動する点なの」
確かに俺のマップのスキルにもここはEXステージって書いてある。という事は女神の言っていることは全て本当だって事か。
「他のステージって飛ばされた皆の所か?」
「そういう事。罠を発動させてしまったら、パーティメンバーの誰かが危険に晒されるっていう精神的な苦痛と、発動させてしまった時の絶望を味合わせるのがこの転移トラップという罠よ」
「なるほどな。確かにそうなんだろうが俺達にはあまり関係ないな。罠を発動させたぐらいでくたばる奴なんて誰一人いないだろうし」
「まぁあの面子だったらそうだろうねぇ」
とは言うが罠の種類にもよるから気を付けなければいけないがな。
「この事を他の皆に知らせる方法は?」
「念話なら繋がるんじゃない?」
「えっ、そんな簡単に繋がるものなのか?」
「いやいや、人間で念話持ちとか普通いないから。あなた達が特殊なだけだから」
「あー確かにそうかもな。フェイは持ってなかったし……ってフェイには念話出来ないじゃん!」
「ミルが一緒にいるから多分大丈夫じゃない?」
「ミルだから心配なんだが……」
「…………きっと大丈夫よ」
その間がとても気になるが、今は気にしない方向でいこう。
「じゃあ皆に今までの情報を発信するか」
『その心配はないわ。あなたの共有と以心伝心で伝わってきたから』
念話をしようとした矢先にジュリから念話が飛んできた。
『フェイにも伝わってるから心配無用』
『お、おう。そうか。それは良かった』
『あたしだってこういう時はちゃんとする』
『そ、その事まで伝わってたのかっ』
『この先気を付けないと、もしかしたら罠が沢山発動するかも』
『すいませんでした!だからそういうのはやめて!』
『分かればいい』
ほっ。共有と以心伝心は便利だが、時々いらん事まで伝わるからな。注意せねば。
『マスター!ここにおっきー水溜りがあって、とてもきれいなのー!なんかしょっぱいし!』
『私達は山の中にある滝の目の前に転移しました。滝ってこんなにも美しいんですね』
『あたし達は石造りの宮殿っぽい所。宝箱がいっぱいある』
『えっ。EXステージってボーナスステージかなにかなの?俺の所は穏やかな草原なんだが……』
なんかトラップと言うにはあまりに平和すぎる。
海とか滝とか草原とかな。特に宝箱がいっぱいある所とか羨ましいくらいだ。
『あ、それは転移トラップを抜ける事が出来たら全部貰えるよ。抜ける時に通った一番最後以外のステージ全部』
女神がそんな事を言い出した。女神の言う通りなら、それこれこそボーナスだ。
『まぁ抜ける事が出来たらの話だけどね。何せこれはトラップなんだし、一筋縄じゃいかないよね』
『確かにその通りだ。上手い話にも裏があるって事か』
『本来ならこの報酬の事は、トラップを抜けてから分かることだから裏も表もないんだけどね』
そうだな。そっちの方が正しいな。俺達が少しずるをしてるだけだった。簡単に言えばチートだ。
『さて、ここでクズクズしてても仕方がない。各自先に進み始める事にするか。念話が使えないフェイはミルが重要なことは教えてやってくれ』
『ん』
『じゃあ、次念話する時に誰一人かけてない事を願っているぞ』
そうして念話を切り、俺は辺りを見回す。目に映るのは平和で暖かそうな草原。この先で一体何が起こるのか、そんな事ばかりを考えていた。