第120話 作戦の内容のようです
なんやかんやであっという間に一週間が過ぎた。今俺達はフェイと俺が着替える為の控え室にいる。
この一週間で、当面の問題であった金はギリギリで何とかなっている。稼いだ分がほとんど食費に飛んでいくからしょうがないのだが。
金の問題以外にも、作戦に関わるちょっとしたことや大きなこともやったりした。
その他でいえば、俺がフェイに演技指導してもらってたらなんのプレイだと言われてロリコン達に追いかけられたり、ゼロに結婚式での作戦のことを伝えていると二股かと言われてロリコン達に追いかけられたり、はたまたクエストに行ってる分身が戻ってきた時になんのハーレムだと言ってロリコン達に追いかけられる。
あれ?俺って追いかけられてばかりじゃね?
……いや、気のせいだ。俺のこの記憶は偽物だ。うん、そう。絶対そう。じゃないと俺泣いてしまう……。
「現実逃避するのはいいのだけど、ちゃんとやる事はやってもらうわよ」
俺が現実逃避をしているなんて事を知っているのは思考を読めるジュリくらいだ。
「当然だ。どれだけ演技の練習してきたと思ってる。それと普通に思考を読むな」
「はいはい」
いつもの事ながら軽い返事だな……。もう今更だけど。
「マスター!わたしも準備出来たよー!」
ゼロがそう言って俺に抱きつく。
「こらやめ!今のお前は俺と同じ姿なんだからなんか気持ち悪いぞ!」
「そっかぁ……」
そう言って、しょんぼりしながらゼロは離れる。
さっきも言ったがゼロは今俺と瓜二つの背格好をしている。ゼロのスキルで俺と同じ形に変形しているのだ。
何故ゼロが俺と同じ姿をしてるのかという説明をするには、まずは作戦の事を話しておかなければならない。
作戦は、簡単な事でよく見るものなのだが、結婚式に乱入者が現れて花嫁を攫うというもの。
役割としては俺役がゼロ、乱入者が俺、花嫁がフェイ、その他が裏方だ。
何故俺が俺役でないのかは、花嫁を攫うのは危険が伴うからその時のためだ。……って後から聞いた。
ちなみに花嫁を攫うのは結婚式場だ。しかしその場以外でも俺は姿を見せ、民衆を動揺させる事が仕事だ。
そこでこの一週間に仕込んだ仕掛けが重要になる。
その仕掛けとは"正義を執行するタキシード仮面なる者が時々現れるらしい"という噂を流すことだ。他にもタキシード仮面なる者の姿形や、どんな正義を執行してきたかなど様々な噂を流した。
余談なのだが、悪事を働いていた貴族が最近になって、軒並み捕まったらしい。捕まった貴族は口を揃えて、タキシードを着た仮面の奴が現れたと言うらしい。なんでだろうね?
まあそんな事もあってタキシード仮面はこの帝都内では英雄になりつつある。
そのタキシード仮面が結婚式、それも王女の結婚式に現れたりしたらどうなるかなんて事は想像つかないが、多分混乱はするだろうな。
しかし、民衆の混乱が大きくなればそれだけ攫いやすくなるというもの。そこは俺の頑張り次第だ。
そして、その混乱に乗じてゼロが俺の姿のままフェイから離れ、一般市民へと変形して民衆に混ざる。そうすれば民衆には俺が逃げたからタキシード仮面が執行する正義が正しい、と民衆に思わせることが出来る。
その後はフェイを攫うだけ。簡単な仕事だ。
だが、王女を攫うとすれば、国家反逆罪として指名手配されるのだが、そこはフェイがなんとかするらしい。
「これで完璧ですね。フェイ様素敵です」
「そ、そうかな?えへへっ」
さっきまで、レンに髪の毛やらなんやらのセットをしてもらってたフェイ。普通なら使用人の人がやるはずなんだが、それだと俺とゼロの入れ替わりがバレてしまうのでレンが代わりにしている。
「ど、どうかな?」
ドレス姿を見せて、俺に感想を求めるフェイ。
「いや、まぁ、うん。似合ってると思うぞ?」
「なにその腑に落ちない感じ」
「だってフェイの体格が……グホッ!」
「体格が何だって?もし小さいとか言おうとしてたなら私の拳が飛ぶけど?」
「も、もう飛んで……る……」
鳩尾にクリーンヒットだ……。さすがの俺でもこれは痛い。
俺が痛みに悶えていると、部屋の扉が三回ノックされた。
「はいどうぞ」
俺は誰かに見られるとまずいので一旦隠れ、声の出せない俺の代わりにジュリが答えた。
「凱旋の準備が整いましたので、お呼びに上がりました」
「わかりました。こちらも準備は整っていますので、そちらに向かいます」
「では案内させていただきます。フェイ様と花婿殿はこちらへ」
そうして、フェイとゼロが使用人の所へ。するとフェイが懐から一枚の封筒を取り出して、使用人に渡した。
いや懐って言ったけど、ドレスに懐とかなくね?どこから出したの?
「ピエール。私に何かあった時はこの封書をお父様とお母様、それとフェルトに見せてくれませんか?」
「かしこまりました」
この使用人ってピエールって言うのか!俺はてっきりセバスチャンかと……。やっぱり、決めつけはダメだな。
「じゃあ皆また後でね」
フェイはそう言って、ゼロと一緒にいなくなった。
「ふぅ。少し時間を置いてから、私達も行くとしましょうか」
俺はシルクハットとマスクを装備し、背筋を伸ばして言った。
「君って役に入り込むと、とことんなりきるのだな」
「今の私はタキシード仮面。正義を執行し、悪を成敗する者。役なのではないぞ」
「ジュリ様。これは重症のようが気がするのですか大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫じゃないと思うわ」
「か、かっこよければそれでいいんですよっ」
「確かにリンの言う通りね。民衆受けが良ければそれでいいのだし」
するとミルが、両手を胸の所で繋ぎタキシード仮面に向かって懇願するよつに言った。
「タキシード仮面。あたしの心を奪って……!」
「お嬢さん、心は奪わせるものではなく奪われるものですよ。奪われてこそ心は一層の輝きを放つのですから」
「キュン……」
「ミルも毒されてしまってるわね。大丈夫なのかしらこの作戦……」
やれやれという感じで頭を抱えるジュリ。
「か、かっこいぃ……」
「ダメよリン!戻ってきなさい!その先は踏み入ってはならな……」
「おっと。美しいお嬢さんがそんなに声を荒らげてはダメだよ。お嬢さんの綺麗な声が台無しになってしまうからね」
ジュリの唇にタキシード仮面の人差し指が当てられ、甘い声で囁かれる。
「あぁ……タキシード仮面様の言う通りですぅ……」
「ジュリ様までもがっ!こうなったらマスクをとシルクハットを!エルシャ様手伝ってくださ……」
「タキシード仮面さまぁ……」
「タキシード仮面素敵ぃ……」
「くっ!いつの間にかエルシャ様と女神様まで!こうなったら一人でもっ」
仲間はやられ、ただ一人残されたレンの孤独な戦いが始まった。
後から近づいても、どれだけ早く動いてもタキシード仮面には通用しなかった。そして、正面から突撃した時、遂に捕まってしまう。
レンはタキシード仮面の甘い誘惑に誘われそうになりながらも、仲間たちのことを思い必死に耐えた。そして遂にタキシード仮面の仮面を外した。
「お、俺はなんて恥ずかしい事を……。死にたい……」
「これはやばいわね……。タキシード仮面に囁かれた女性は強い意志がなければ取り込まれてしまう……。恐ろしい兵器だわ!」
「兵器とかいうな!俺だってしたくてした訳じゃないんだよ!だけどなんかこう仮面付けたら気分が舞い上がって予期せぬ行動を起こしてしまうんだよ!」
「まぁ最悪作戦の事を忘れなければ何でも構わないわ。でも、所構わずナンパするのはなしね」
「言われなくても分かってるつもりだ。次こそは大丈夫!さぁ行くぞ!」
「「「おおー!」」」
そうして俺達は部屋から立ち去った。