第111話 冒険の話とクエストとサボりのようです
話し合いの結果、お金を稼ぐ班と留守番兼準備をする班に分かれて解散した俺達。
ちなみに俺は帝都から出れないので、強制的に留守番兼準備の班に入ることとなる。
また、同じ理由でフェイも留守番。その他大勢はクエストを受注する為に冒険者ギルドの方に向かっているところだろう。
というで、今はフェイと二人っきりという事になる。これもいい機会だし、あれやっておこう。
「さてと、じゃあ始めるぞ!」
俺がフェイに呼びかける。
「一体何を?」
「そりゃあもちもんフェイ強化特訓だ」
「えっ。なにそれ聞いてない」
「だって俺、言ってないもんな」
帝王様達にあんな啖呵を切ったというのに何もしないというわけにはいかんからな。
「軽く帝都内を走って持久力を上げるぞ!」
「そ、そんなのいきなり言わないでよ!第一私がするとも言ってないのに!」
「むぅ。確かに……。じゃあ何ならするんだ?筋トレか?それとも魔法の練習?」
何ならスキル習得でもいいと思う。
「そんな事今しなくてもいいでしょ!それにろくに動いてこなかった私が急にそんな事出来ると思ってるわけ!?」
「……そういえばフェイは引きこもりだったな……。思ったより活発的だったから忘れてたわ」
「ま、まあ、あんたといると何故かこう気分が上がるっていうかなんていうか…………はっ!わ、私は一体何を言って……!」
ふむふむ。これが世間でよく言われるデレというものか。初めて見……てはないな。いつもゼロがデレデレだからな。何ならその他もデレているまである。
「そ、そんな事よりあんた達の冒険の話を聞かせてよ!」
冒険かぁ。……そういえば流れで旅してるだけで冒険っていう冒険してなくね?
「あんまり冒険っていう冒険してないんだが、それでも良ければ話すがあんまり面白くないかもしれんぞ?」
「それでもいいから!私、仲間になるし、そういうの知っておきたい」
まあそういう事なら話さないわけにはいかんな。
じゃあ、ジュリに言われた仲間に隠し事はダメってやつもあるし、一番初めから話してやるか。
……だが、その前に一つ訂正を。
「フェイ。お前はとっくに俺達の仲間だからな。そこんとこ間違えるなよ?」
「うん!」
元気がよろしくて、結構結構。では早速。
「まず冒険が始まったのは、俺がこの世界に来たことから始まる」
「……ちょっと待った。この世界に来たってなに?」
「ん?ジュリ達に聞いてないのか?俺は転生者だぞ?」
「ええぇぇぇ!!!」
そんなに驚くことないだろ。俺の周りには異世界から来た奴多いし別に普通だろ。……いや、よく考えたら普通じゃないな、うん。
「て、転生者ってそんな事が……」
「話を進めるぞ?」
「う、うん」
「俺がこの世界に来たとき、王都のある森の中にいた。さて、どうしようかと考えていたら、そこにゼロが現れたんだ」
「えっ?あんな子供のゼロが森で一人?」
おっと、これも知らないか。どうやら何も知らない人に俺達の事を説明するのは骨が折れるみたいだ。
「あーゼロは元々スライムだからな。森にいても何ら不思議ではないだろ?」
「ゼロがスライム……?何をバカな」
「年齢も五十歳って言ってたろ?あれ、スライムの時も合わせてってやつだ。フェイは何も不思議に思わなかったのか?」
「だって、見た目も中身も子供そのものなんだもん。子供の冗談だって思うのも仕方がないと思わない?」
「まぁそれも一理ある」
「……ちょっと待って。三十歳前後って言ってた、レンとリンも……」
「お察しの通り、元々魔物だ。というか正確には武器だな」
「武……器……?もうダメ……。私の理解を超えてる……」
まぁ初見はそうなるよな。ガランドの街のギルマスをしていたリリアスさんも同じ感じになってたしな。
この際だ。ジュリとミル、それと女神にエルシャさんについても言っておこうか。
「さらに混乱するかもしれんが、ジュリは王都の王女でありながら俺と同じ転生者で、ミルは魔王の娘、女神は文字通り女神様で、エルシャさんは最年少でSSランクの冒険者になった猛者で俺に好意を寄せている人だ」
「……転生者が魔王の娘の王女で女神様だからSSランクの冒険者になった猛者で好意を寄せてる……?」
「色々混ざり過ぎてよく分からんことになってるぞ」
「うー!!頭が痛くなる!」
「更にそこに、帝都の引きこもり幼女で王女な奴が加わるってんだからびっくりだよな」
おっと……!これはいかん!間違えて幼女って言ってしまった!
「あははー、そうだねー」
只今、フェイは白目を剥いて混乱中なようで俺が言った事を理解出来てないようだ。良かった良かった。
「まぁ詳しくは各個人に聞いてくれ。その方が混乱せずに済むだろうしな」
「う、うん」
「さて、話の続き聞きたいか?この先また色々あって俺とジュリが結婚する話とか、魔王と協力して転移者と戦う話とか出てくるけど」
「い、今はやめておく……。これ以上は私の頭がおかしくなっちゃうから……」
「賢明な判断だと思うぞ、うん」
フェイは頭を抱えたまま天井を見つめ、ぶつぶつと何かを唱えている。恐らく頭の中を整理しているのだろう。
……ちょっと覗いてみるか。
『あの人は転生者で、ジュリと同じ?ジュリは王女であの人と結婚してるから、あの人は今王子で、その人と結婚しようとしてるのが私?という事はこの人の妻が二人になる……?』
おや?なんか方向性が変わってきてないですかね?
『このご時世、一夫多妻なんてやってる人はいないのに、それを自らやるなんて……!そういえばあの人は私の裸を見たし、寝る時も男女一緒だった……!』
んー!これは以上は誤解を招いてしまう!
『ま、まさか私達が寝ている間に私達の身体を……!』
「ちょ、ちょっとま……」
「このスケベ!変態!鬼畜!あんたなんて信じるんじゃなかった!」
遅かったかぁ……。
言われもない事で怒られるのってなんか落ち込むよな……。だってさ、その人にはそう思われてるってことなんだからな。
「誤解していると思うからそれを解きたいのだが……」
「やだ……!近寄らないで!妊娠しちゃう!」
「近寄ったくらいで妊娠するわけないだろぉ!」
「きゃあぁぁ!!やめて!私の身体を弄ぼうとするなんて……!このロリコン野郎!」
「お前それ、自分でロリだって言ってるようなもんだぞ!」
「知らない知らない!あんたに捕まるくらいなら死んだ方がマシ!」
フェイはそういって走り去っていく。
俺はまだ誤解を解いていない……!
俺はフェイを追いかけて走り出す。
「待ってくれ!俺の話を聞いてくれ!誤解してるんだ!」
これじゃあ最初に言ってたトレーニングと大差ないぞ!
そうして俺はフェイを追いかけ、帝都の街に繰り出した。
◇◆◇◆◇
ーside:ジュリー
一方その頃、冒険者ギルドに着いたお金稼ぎ班。
ここに来るまで道行く人々に崇められてきた。もうこの街はダメだ。誰かさんのせいでロリコンが爆発的に増えてしまっている。
特に、ゼロは崇められている時に手を振ってからというもの、その道の人から天使だの何だのと言われている。
「あたし、この街嫌いになりそう」
「私もミルと同じ気持ちよ。まさかあの人がここまでの影響力を持っているとは思わなかったわ」
「それがあいつのいい所なんだ」
恋は盲目と言うけど、エルシャのこれは度を越していると思う。やはりあの人は人を簡単に変えてしまうのね。
「この中でも凄い視線を感じますね。崇拝の視線から、強い嫉妬の視線まで。嫉妬している人には、好きでこうなっているわけではないという事を知って欲しいです」
「レ、レンちゃん……。わたし、もう……ダメ……」
「えー!こんなに楽しいのにー!」
「た、楽しんでるのはゼロちゃんだけだよぉ……」
リンの気持ちも分からなくはないけど、クエストを受ける前からダウンしてもらっては貴重な戦力が減るわ。ここは頑張ってもらわないと。
「私ちょっと気分が悪くなったから休んで来ていい……?」
女神が下心満載でそんな事を言い始めた。
実際、私は女神には休んで貰っててもいいと思ってる。だって、女神は一緒に行動を始めてから一度も戦闘に参加していないんだもの。
でも一度、あの人の力が暴走した時にその力を垣間見たけどあれは凄まじいものだったわね。気づいたら助けられていて、しかも被害を最小限に抑えていたのだもの。
「ん。あたしが許そう」
「ははー、ありがたき幸せでございます!……じゃ、また後でね!」
女神はそのまま何処かへ消えて行った。
「……じゃあ、クエスト受けましょうか」
私達はクエストが貼られている板の所まで来た。
クエストは狩猟から採取、お使いなど様々な種類に分けられていた。
「私はこの一番難しそうな、ギャングベアーと戦ってみたいな。報酬も中々のものだ」
「あたしはこのプレミアムボアの捜索、及び討伐がしたい。プレミアムボア美味しいから」
ほぼ同時にエルシャとミルが受けたいクエストを指差した。
私はその二つの内容に目を向けた。
「ギャングベアーは一対狩れば多くの報酬、プレミアムボアは見つからなくても、何処にはいなかったという報告で少ない報酬を貰えるのね」
「という事は、二つ同時に受けてギャングベアーを狩りに行きながら、プレミアムボアを探すという方が効率的ですね」
「そうね。じゃあこの二つ受けましょうか」
「「よし……!」」
エルシャは強敵と戦える喜びから、ミルは美味しいものを食べれる喜びから、ガッツポーズをしている。
そうして私達はクエストを受注し、冒険者ギルドから立ち去った。
◇◆◇◆◇
ーside:女神ー
何処かいい飲み屋さんないかなぁ!
私は帝都の街を観光気分で回る。
朝っぱらから飲むのは馬鹿だと思う人も居るだろう。しかし、だからこそ飲むのが私ってものなのだ!
「ふんふーん♪」
こうやって女神の仕事から解放されて、伸び伸びと過ごせたら鼻唄だってでてしまうよね!
「おっ!あんな所に飲み屋さんはっけーん!」
偶然見つけた飲み屋さん。
ついでに美味しいものとかあるといいね!唐揚げみたいなのとかがいいなぁ!
私がそんな期待を胸に飲み屋さんに向かっている時だった。
前方から何やら大きな声を上げて逃げている女の子と、それを同じように追いかけている男の人が走ってきた。
「はっ!見つかったらいけない!」
私は咄嗟に物陰に隠れた。
あの時聞こえたのは、フェイと彼の声だった。見つかったらやばい事になりそう。
そして私の目の前を走って行く、フェイと彼。
どうやらフェイは必死で逃げていて、彼は凄く困っているような顔だった。
「これは何やら面白そうな予感がする……!」
私は二人を追いかけて一部始終を見学させてもらうことにした。