第109話 戦略を立てるようです
仲直りが出来た俺とジュリは少しいつもの距離感が掴めずぎこちない感じで皆の元に戻った。
「も、戻ったぞ」
「その様子ですと、上手くいったようですね。ジュリ様もお許しになったのですよね?」
「え、ええ、そうね。全部許したわ」
ちょっとジュリさん?なんかいつもよりハキハキしてませんよ?
「ん?ちょっと待って。皆集合」
突然女神が、俺とジュリだけ省いて皆を集めた。
皆小声で話しているが、俺には聞き耳スキルが勝手に発動するという事象が起きるので全て聞こえてきた。
「女神様、どうかしたんですか?」
「いや、あれどう見てもジュリおかしいでしょ?」
「た、確かに……!」
「多分あの人がなんかした」
「マスターは時々何するか分からなくなるもんねー」
「しかし、ジュリ様があんなになるなんて結構大事ではないか?」
「皆がジュリみたいになるとした、どんな事された時なの?私は会ったばっかりでよく分からないから教えて」
「私であったら、それは手を握って付き合ってくれと言われた時だろうな……」
「あたしは好きなだけ食べろって言われた時?」
「マスターがふにふにしてくれる時ー!」
「私は主様と愛を確かめる時でしょうか?」
「わ、わたしだったらキスしてもらった時かなぁ」
「「「それだ!」」」
「ということは、主様はジュリ様にキスをしたということに……」
「でもあの人の事だし、ヘタレたんじゃない?変なとこで初だし」
「そうなの?私と出会った時は私の裸見たわよ?」
「それはフェイがあたしと同じ背格好だから」
「とりあえず、これは聞いてみないといけませんね。再重要案件です」
好き勝手言いやがって……!でも全部当たってて悔しい……!
話し合いが終わった皆はこちらに向き直り、全員正座をする。
そして、女神がジュリに問いかける。
「ジュリ被告に聞きます。あなたは彼からキスをされましたか?」
「…………キャッ!」
「黒です!こいつ黒ですよ!」
「フェイ裁判委員。落ち着いてください。ではジュリ被告もう一つ問います。どこにキスされましたか?」
「おでこ……です」
「「「あぁ……」」」
あぁ……ってなんだよ!俺頑張ったんだぞ!そんな反応じゃなくてもいいじゃん!
「おでこなら許容範囲。もし口だったら強制的にあたしもしてもらってた」
「「「うんうん」」」
俺がいる所でそんな事言うのやめてもらえる?恥ずかしいんだけど。
「口じゃなかっただけ良しとしましょう」
レンがそう言ってくれたおかげでこの話はここで切れてくれた。
良かったぁ。あれ以上は俺のライフが零を通り越してマイナスになって頭がおかしくなる所だった。
「そんな事より、今はフェイとの結婚の事どうするか決めなければなりません」
そうだ、皆が好き勝手やるせいで忘れるところだった。
そんな時、ジュリがその事について話を始めた。
「その事についてなんだがもう少し俺に話をさせてくれ。あと一つ言ってないことがある」
そうして俺は、フェイを強くして帰るという啖呵を切った所までの経緯を話した。
「そんな経緯があって結婚を決めたのね」
「まぁ、そういう事だ。やられっぱなしっていうのが癪だったからついな」
ジュリからはため息が漏れる。まぁ俺も今となっては同じ気持ちだ。
「私がフェルトよりも強く……?」
「俺達なら出来ると思って、そんな啖呵切ったんだ」
「ほぼチート能力によるものだけれどね」
「ほっとけ!」
まぁその通りなんだが!
でもこれからレベル上げに行くし、フェイも仲間として行けば確実に強くなるだろう。
「じゃあ、私はあなた達と一緒に行くことになるの?」
「そういう事になる。だが、それもこれも結婚してからの話になるがな」
そう。全ては結婚に直結する。どうすればいいのやら。
「結婚のことについてだけれど、どうにかしてあの二人に復讐してやりたいわね」
あの二人とは帝王様とフェアリア様で間違いないだろう。
「そうは言うが相手は国のトップだぞ?あんまりやりすぎるとやばいことになるだろ」
へたすると指名手配からの死刑まっしぐらという事態になりかねん。そんなの俺嫌だぞ。
「あなたの頭の中ではどんな事をしてるのか分からないけれども、そんな事にならない様に復讐するのよ」
「なるほどな。で?ジュリは何かいい案があるのか?」
「ここはいつもの私達らしい、馬鹿で真面目で無茶苦茶な案が私にあるけど聞く?」
馬鹿とか無茶苦茶とかの自覚はあったみたいだが、真面目と言われると悩むな。
それにそんな案は大抵ザルで、穴ばかりの案だと思うんだが。
「ただまあ聞くくらいならしてやろう」
「ふふふっ!よく言ったわね!心して聞きなさい!この作戦はあなたとフェイ、それにゼロが一番関わってくるのだから!」
俺とフェイはまだ分かるのだが、ゼロもとなるととたんに何をしでかすか分からない。
「それじゃあ説明するわよ。まずは・・・」
そうして語られたジュリの作戦は、俺達の色にぴったりで、尚且つ面白そうなものであった。
色々前準備が必要だったりするが、やってみたいと思う。
「この作戦の構成上、決行日は結婚式当日ということになるわ。でも、まだ結婚式の日程とかは知らされていないし、どんな感じで結婚式を挙げるのかも分かっていないから、所々変わることはあるかもしれないわ」
「しかし、それを差し引いてもやってみたいと思うぞ。まあフェイとゼロがいいって言えばだが」
「わたしやってみたーい!おもしろそうなのー!」
「私もやってみる。流石にお父さんもお母さんもやりすぎだし罰を受けてもらって反省してほしい」
二人からは了承を得ることが出来た。
「ちなみに私を含めた、残りもメンバーはアシストとに回ってもらうわ。私が念話を飛ばすときはその通りに動いてくれればなにしててもいいわよ」
「ん。分かった」
「了解です」
「わ、分かりましたっ」
「心得た」
「はいはーい!私に任せてー!」
作戦はほぼ決まった。後は準備をして、結婚式の内容が分かれば完璧だな。
「この作戦が決まればあの二人に一泡吹かせる事が出来るし、楽しみだわ」
「全くだ。もうこれに懲りて嘘を付くなんて事をしなくなってくれればいいんだがな」
今からその日が楽しみで仕方がない。フェイには悪いが悪質な事をされて腹が立っているのだからこれくらいしないと腹の虫は収まらん。
それからはいつも通りの夜を過ごし、眠りについた。
そして次の日の朝。俺達が寝ている時に部屋の扉がノックされた。
ノックの音で起きた俺は返事をして、この部屋に招き入れる。部屋に入って来たのは昨日の使用人の人だ。
「おはようございます。朝食の御用意が整いましたのでお呼びに上がりました」
「毎度毎度ありがとうございます。……ほら、皆起きろ。朝だぞ。朝食も出来てるらしいから急げよー」
「「「ふわぁ……」」」
皆がほぼ同じタイミングで起き始める。なんと珍しいことがあったものか。
すると、使用人の人は続けてこう言った。
「朝食後に帝王様から、結婚式についての大事なお話があるようですので、忘れずにいてください」
結婚式。その一言で皆の目は一瞬にして覚めた。
昨日の夜に結婚が決まったのにもう日程が決まったんか。早いな。それだけこの国にいて欲しいのだろう。
そして俺達は、少し軽い足取りで朝食に向かった。