命拾い
敗北は確実だった。
死もそこまで迫っていた。
「ここまで、か。死ぬのは嫌だなぁ。痛いのも嫌だなぁ。」
他人事のように感じてしまう。
だが運命は透を見捨てていなかった。突然矢が降る。
「キャンプで暴れた罪人がいたぞ!!」
「死者が出てるんだ!確実に殺せ!!」
革鎧に身を固めた男達が斬り込んでくる。
「あの男だけは殺せ!!友の仇だ!!」
狙いはホスト風の男のようだ。何をしたのか。
「お、俺を守れ!!他はどうでもいい!俺を守れ!!盾になれよ!!」
透を襲っていた侍達が攻撃を止めて一斉に駆け出した。それは透達や革鎧の男達に背を向ける行為である。その背に剣や矢が突き刺さっていく。
「ああっ、逃げるぞ?逃げるぞ!!」
ホスト風の男は混乱をしている。先程までの余裕等欠片もない。それでも侍達は戦い、敵を倒し、己も血を撒き散らして死んでいく。
「南無三」
六角義治が傷をおして立ち上がり矢を放つ。その矢は寸分違わずホスト風の男の太腿を貫いた。
「痛てぇ!痛てぇ!!生意気だぞ!マヌケの癖に!!痛てぇぞ!!馬鹿は俺に利用されてろよ!!」
地を転がり、呪詛と罵声を投げている。
革鎧の男達は大きく数を減らしながらも侍達を倒している。
「今のうちに逃げるぞ。野口様、六角様、平古様はカードに戻さんと危ない。俺もここを離れたらカードに戻してくれ。」
小野善鬼に言われるまでボーっとしていた。そうだ、逃げれるなら逃げないと。それすらも忘れていた。
慌てて皆をカードに戻す。小野善鬼すらもだ。今の革鎧の男達にとって侍は全て敵と見えるかもしれないのだ。事実、小野善鬼達にも矢は飛んできていた。
1人でゆっくり、ゆっくりと後退していく。そんな中で悲鳴が聞こえた。ホスト風の男の断末魔であった。勝鬨と歓声があがる。
わずかの間に色々な事があった。
されど未だ、異世界アザーに来て2日目の昼である。
「これは・・、死ぬかも。」
老衰など夢のまた夢なのかもしれない。