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『事件の実行犯』
目の前に仁王立つ少女は、確かにそう言ってクエストを見下ろしていた。
一方、クエスト本人には意味がわからない言葉だった。黒煙を上げるネイジの家から脱出するために全力を使い切り、頭が言葉を理解するまで回復していないのかもしれない。
出来ることと言えば、倒れ伏したままでもどうにか動く眼球で、この少女を観察するくらいだろう。それも不明瞭な視界でおぼろげではあったが――月明かりにぼんやりと映し出される輪郭から、彼女が裾の広がった、魔女めいたワンピースを着込んでいることがわかった。
やがて白濁した視界が多少なりとも晴れてくると、その色彩も確認出来る。影のように見えたのは、そのワンピースが闇夜を飲み込むような光沢のない、おぞましい赤黒さを誇っていたからだろう。さらには腰ほどまでの小さなマントが夜風にはためき、深紅の裏地を炎のようにゆらめかせている。
それらはまとめて、まさしく魔女然としていた。ただし小柄な体躯と幼い顔立ちのせいで、単に魔女ごっこに興じる子供のように思えてしまう。帽子は被っていないが、その代わりにと長い銀髪の左右、そして後ろにも付けているらしい大きな三つのリボンが、なおさらその幼さを強調している。
大きな瞳でこちらを見下ろす少女は、クエストが内心でそんな下した評価に不服を示すように眉を吊り上げ、勝気な生意気さを見せ付けていた。
それらをじろじろと観察し終える頃には、クエストの身体に多少の余裕が戻ってきた。最も酷いのは爆風に飛ばされ階段を転げ落ちた全身の痛みだったが、それでも言葉を発することは出来る。
「えぇと……実行犯?」
「そうよ、実行犯!」
聞き返すと、少女はクエストが回復するのを待っていたかのように、即座に繰り返した。というよりも実際、待っていたのだろう。彼女はクエストが口を利けるようになったことを確認すると、早口でまくし立ててきた。
「ついに捕まえたわよ実行犯。あんたがやったことは全てお見通しよ。それでもなにか申し開きがあるっていうなら、喋ることくらいは許してあげるわ。聞き入れるかどうかは別だけどね」
「…………」
まだ多少の疲労が残る頭では、彼女の言葉を理解するのにしばしの時間を要した。クエストは今しがた聞いた内容をひとつひとつ思い出していき……しかしやはり、その言い分は理解しがたい内容であったため、首をひねった。
というよりもわからないことが多すぎて、混乱がそのまま口を出る。
「いや……そもそもお前は何者なんだ? なんでこんなことするんだ? それにこれって魔法、だよな? お前まさか、魔法使いなのか?」
「一度に色々聞くんじゃないわよ、実行犯!」
以前にも別人から言われたことのあるような叱責と同時に、だんっと倒れ伏したままの眼前で足を踏み鳴らされ、クエストは一時的に口を閉ざした。僅かな砂埃が収まるくらいまでの時間だけ沈黙し、その間、少女が再度ひとつずつの質問――彼女が言うには申し開きか――を待っているように黙していたので、クエストは改めて尋ねかけた。
「俺にはその『実行犯』ってのもわからないんだが。なんの犯人にされてるんだ?」
「ふん、白々しい。誤魔化したって無駄よ、あたしは知ってるんだから――あんたがあの女の手先だってことをね!」
そう言って、背後の方向にそびえる巨大な建造物、魔本堂を指差す。それによって示されるだろう人物について、クエストは一人しか思い当たるものがなかった。
「あの女って……店長のことか?」
「店長……?」
少女は眉を吊り上げ、鋭く魔本堂の方を振り返った。忌々しげに、鼻の頭にきついしわが寄るほど顔をしかめ、深い怨嗟のこもった瞳で店を、あるいはその奥にいるだろうネイジを睨む。
しばらく怨念を送るようにそうしてから、彼女はクエストにしてみれば全く不可解な怒りを抱いたまま向き直った。
「なにが店長よ……ここは元々、私の店だったのに!」




