エピローグ
―――とある神の住まう空間。
妾はようやく己の職場に帰還する。
長く苦しい戦いだったが、我ながらいい仕事をしたと思う。
「主が今帰ったぞ」
妾の帰還に気付いた神様見習い共が一斉にこっちを向き、微笑む。
「お帰りなさいませ、フェイト様。随分と楽しい休暇だったようで何よりです。さあ、これからは休憩分取り戻すように仕事をしてください」
引きつった笑みを浮かべながら見習い達が次々と塔の様な書類を次々妾の机に乗せてくる。
「ま、待て。妾は今仕事帰りで、その……少し休憩をじゃな」
「別に構いませんが、仕事量は時間とともに増えていきますよ? 今回は我々に『任された』とのことだったので、大幅に転生対象者の枠を確保しておきました。全て目を通しておいてくださいね」
「………………」
膨大な数の対象者のプロフィールに妾の目が点に成る。
昨今の若者の死亡率は多いとはいえこれは多すぎではないだろうか。
適当に幾つかプロフィールを抜き取ってみる。
42歳男性職歴なし、女性経験なし。
選抜理由:今まで女性経験がないままトラックに轢かれて死んだため。
37歳男性サラリーマン、女性経験なし。
選抜理由:今まで女性経験がないままトラックに轢かれて死んだため。
33歳女性OL、男性経験なし。
選抜理由:今まで男性経験がないままトラックに轢かれて死んだため。
40歳無職、35歳無職、28歳無職、65歳無職、男女経験なし。
選抜理由:今まで性経験がないままトラックに轢かれて死んだため。
「だぁ~~~っ!!! 鬱陶しいわっ!!!」
似たような文章が永遠と並んでいることに嫌気が差し、妾はプロフィールをくしゃくしゃに丸めて捨てる。
この世界のトラックは一体どうなっておるのじゃ。
妾はそのまま机に突っ伏す。
こんなものをいちいち見てはいられない。
転生するにしても死んでからの期限とか諸々あるのだ。
一先ず妾は優先順位の高いやつから処理することにする。
「――――とりあえず20歳未満で非業の死を遂げたやつだけ妾の元へ連れてくるが良い」
妾は見習い共にそう言うと、現世と神界の間に位置する『冥会室』に転移した。
†
―――冥会室。
「……と言う訳でお主は異世界に転生することとなる」
妾は転生者にいつもの簡単な説明を終える。
相手の方はまだよく事態が読み込めておらずぼおっとしているが、直に飲み込めてくるじゃろう。
「所で主は甘いモノが好きかや?」
妾は個人的にいつもしている質問をする。
相手はコクリと頷いた。
「おぉ、好きか。ならばとっておきの能力をくれてやろう。なに、サービスじゃ、気にするな。それを使い自由に生きるがいい。あぁ、じゃがその能力を使い甘いモノを迫害してはならんぞ? 怖い怖~い神様が降ってくるかもしれんからの」
――尤も、迫害しなくても甘いモノがあれば神は降ってくるがの。
妾は舌舐りをしながらニヤリと笑った。
ご愛読ありがとうございました。