心の結晶
白い髪が絹のように輝く中に、二つの蝶が光を放っている。
「お前も妹のゆきのようにお前も霊力がもっと多ければなぁ」
ひし形の瞳孔ににらまれて、蛙のように縮こまる。
「ねぇねは何でたくさん吹雪をだせないの?ねえどうして?」
白い長髪をハーフアップツインテールにした妹の嘲笑の目に肩が震えた
「おとうさん・・・ごめんなさい。もっとれんしゅうするから」
ひし形はもうこちらを見ていない。
床に視線を落として涙をこらえた。
里はいま二つのグループに分かれて喧嘩している。
ゆきはすぐにかっとなって大きな声をだしながら吹雪で里中全部を凍らせる
私は形が綺麗で大きな雪の結晶を上手に作れるだけ。
わたしのことをほめてくれる人たちは私はゆきと違ってちゃんと頭で考えて力を使えると言ってくれるけれど、ゆきみたいに強い力はない。
「人間の担任があてがわれるようなクラスにいるのも納得だな」
足音が遠ざかっていく。顔を上げることができない。
「ちゃん・・・せつなちゃん、お外いくよ?」
急な声にハッとして目を開けたせつなちゃんに手を差し出す。
外遊びの時間だ。今日の天気は快晴。少し暖かくなってきたから園庭の草木を観察するのだ。
夏になったら朝顔で色水遊びをしようと砂ちゃん先生と計画している。
子供たちは楽しそうに花をつついたり葉を触ったりしている。
キャッキャと楽しそうな会話があちこちから聞こえてくる。
花の名前や様々な植生の説明を子供にわかるように言いながら、視線をまわす。
「シロツメクサすきなの?」
「・・・うん。雪で初めて作ったらお母さんがほめてくれたの」
せつなちゃんがうっすら微笑んだ。
その笑顔はスノードロップが花開くようにかわいらしいものだった。
「大好きな花なんだね」
「うん」
せつなちゃんの目から涙がこぼれた。
「え?」
「あ!さくら先生!!あっちの子たちの方見てくれる?」
「はーい!」
砂ちゃん先生がせつなちゃんの隣にしゃがみ込んだ。
午睡の時間に砂ちゃん先生が連絡帳を書きながら声をかけてきた。
「せつなちゃんのお母さんは妹のゆきちゃんを産んですぐ亡くなってるの。雪女、雪男の里では今族長をしている二人のお父さんが一人で育ててるんだけどね、里の中で次の族長をせつなちゃんかゆきちゃんのどっちにするかで完全に分断してるんだ。」
「そうなんですね。じゃあ話題選びミスでしたね・・・」
「知らなかったんだから仕方ないよ。それに前まではお母さんの話題を楽しそうにしてたんだけどね。里の分断が始まってからはあの通り、ほんと心配で」
「分断・・・?」
「せつなちゃんは頭も良くて冷静で、力の制御を四歳にしてほとんど完璧にこなせているんだけど、妹のゆきちゃん・・・三歳さんにいるんだけど、とにかくわがままで癇癪がひどいの。里でも特に力が強くて、癇癪を起すと山のふもとにある里丸ごと凍らせちゃうくらいの猛吹雪が発生することもあるみたい。最近はゆきちゃんを次の族長にしたい人たちがあることないこと吹き込んでるみたいで姉妹仲も・・・」
「ひゃー・・・大変ですね・・・」
砂ちゃん先生が渇いた笑いで補足説明をしはじめる。
「せつなちゃんを次の族長にしたい人たちは、力の強さよりも判断力などのいわゆる頭の良さを重視してて、ゆきちゃん派は単純な力を重視してるみたいなんだよね。
あ、せつなちゃんの力が弱いわけじゃないの。むしろ族長の血をしっかり受け継いでるくらい十分に力が強いのよ。でも、お父さんはゆきちゃん派の筆頭なの。頭脳はすべて側近に任せるべきでとにかく族長は象徴的なものだとね」
「うわぁ・・・」
「引くよね。わかる」
砂ちゃん先生は引きつった笑いをしながらお便り帳を書き終えておもちゃの消毒をし始めた。
私も慌てて保育室の掃除を再開した。
じんくんが目を覚ましてしまい、他の子たちも続々と目を覚ましたのですぐに保育室の準備を短縮して午睡後の保育が再開された。
四歳児クラスともなれば未満児クラスに比べて午睡時間が少なくなっている。五歳児クラスでは午睡はもうなくなっている。学校に行けば午睡なんてないから慣れさせるためでもある。
「人間とあんまり変わらないというか、結構普通ですよね」
「あはは、そんなもんだよ」
子供たちは私の持ち込んだ人間の世界の娯楽・・・特に子供向けのアニメやキャラクターが気に入ったらしく、キャラクターを書いてほしいというリクエストされることが増えた。
「ぴゅあるりのびゅあハート書いて!」
「はーい」
ゆきちゃんもお友達に手を引かれてこちらにやってくる。
「ゆきちゃんも見て見て!先生の書いた絵すごいよ!一緒にピュアるりごっこしよ!!」
「うん!いまいくね!」
午前中の外遊びの時の様子はみじんもない屈託のない笑顔だ。
しかしその笑顔がどこまで本物なのか、ただの保育園の先生である私たちは知ることもできない。
私の絵を見て目が輝く子供たち。
特技がここで発揮されるだなんて誰が想像しただろうか。
「さくら先生イラスト得意なんだね」
「砂ちゃん先生は歌が得意ですよね」
砂ちゃん先生はもともと砂かけ族の里で巫女をしていたらしく、民謡をはじめとした数多の曲が歌える。しかもその技術はプロ並みで、里にはファンもたくさんいるらしい。
「歌だけね。楽器は保育士するために練習したから最低限出来るけどやっぱりいなみせんせいには敵わないよ」
「あーこの園で使われているリトミックとかお歌の曲の作曲をしてるんでしたっけ?」
ウサギの耳が特徴的ないなみ先生は少し苦手だ。会議中や廊下ですれ違った時に少し嫌そうな顔を向けてくる。正確には嫌そうというよりつらそうな顔と言うか・・・
「いなみせんせいはさくら先生抜きにすると最年少の先生でね。人間の振りして音大を卒業してる音楽のエリートなの」
だから私たちよりいろんな人間を見ているし、人間の体のもろさもよく知ってる。大切な人を亡くしたって園長先生から聞いてるし、あんまり無理に仲良くなろうとはしなくていいよと砂ちゃん先生は笑った。
「そっかあ・・・」
子供たちが帰って静かになった保育室には、不自然なほどきれいな夕日のオレンジ色の光が差し込み幻想的な雰囲気を醸し出していた。
明日も元気な子供たちを問題なく迎えるために。




