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chapter x-20「最期の贖罪」

 一刻も早く情報をエリザベス軍へと送り、最前線の危機を伝える必要がある。


 もたもたしていると彼らがしびれを切らして不意にラバンディエへと進行する恐れがある。


「あんた、見かけない顔だけど、どこから来たんだい?」


 魔法アイテムショップの店長らしき老婆が私に話しかけてくる。何世代も前に流行った古そうな服装を着てこちらへと近づいてくる。


「王都からよ」

「王都ねぇ。服装からしてランダンかしら?」

「そうよ。もう二度と戻らないけど」

「急いでるみたいだけど、そんなに急を要するのかい?」

「ええ、一刻も早く伝えないと、この国の存亡にかかわるの」

「そうかい。最近の若いもんはせっかちだねぇ」


 ――若いなんて言われたの、何年ぶりかしら。


 ふと、昔を思い出した。エリザベス女王のいない世界を生きていた私にとって、アリスを追い出すまでの日々が宝であったことに気づかされた。


 私は夢を見ていたのかもしれない。徐々に最悪へと近づく夢に。


 魔手紙を書き終えると、通常であれば伝書鳩に宛先を伝えて持ち運ばせるところだけど、あいにく餌代を用意するお金もなく、周囲には伝書鳩が1羽もいないので、私1人で女王陛下の元へ赴くことに。


 魔手紙には最前線の危機を伝える内容を書いた。


『エリザベス女王陛下、突然のことでご無礼かと思われますが緊急案件です。メアリー女王がエクスロイドに殺され、操り人形となっております。エクスロイドは勢いそのままにクイーンストンを壊滅させ、自らの根城を建てて待ち構えております。このままではあの化け物に国を乗っ取られ、メルへニカは滅びの道を歩むことになるでしょう。ご武運を祈っております。国を想う者より』


 これでよしと。あとはエリザベス女王にお届けするのみ。


「あんた、急用ならうちの魔法陣タクシーに乗っていきな」


 店長らしき老婆が再び話しかけてきたかと思えば、願ってもない助け舟を出してくれた。


「えっ、でもお金持ってませんよ。いいんですか?」

「ああ、国の存亡にかかわるんだろう。あんたはうちの娘によく似てるからねぇ。何だか放っておけないんだよ。なあに、年寄りのお節介だよ」

「……ありがとうございます」


 私の話を真っ向から信じてくれた。ついお礼を言ってしまったけど、人間って捨てたものじゃないわ。


「さあ、ここに乗りな。行き先の名前を叫ぶんだよ」

「はい」


 そう言いながら老婆が星形の赤い魔法陣を召喚する。私は言われるままそこに乗った。


 魔法陣タクシーは空間移動の魔法を使える者が商売でよく使うものであり、馬車タクシーよりもずっと高額ではあるが、命じた場所へと一瞬で移動することができる優れもの。


 目を閉じると、行ったこともない場所の名前を思い浮かべた。


「ラバンディエ!」


 そう叫んだ瞬間、魔法陣が高速で回転し、私の体が一瞬で消えた。


 エリザベス女王宛の手紙を携え目を開けると、ラバンディエの街並みが真っ先に見えた。


 予定よりも早く辿り着けた。さて、確かあの城にお住いのはずよね。


 そう思い街へ入ろうとした時だった――。


「!」


 一瞬、何かが私をドスッと貫いた感じがした。


 目の前にはこちらを敵視するように睨みつけるエリザベス軍の兵士、下を見てみると、長剣が私の腹部から背中にかけて貫いており、刺された場所からは血が流れ、長剣を鮮やかな赤に染めている。


「お前、敵のくせによくのこのことやってこれたな」


 ! ――しまった。


 私はようやく己の過ちに気づいた。使命に夢中になるあまり、敵であるメアリー軍の赤い軍用服のままここへ来てしまっていたのだ。


 気づいた時にはもう遅かった。自らの状況を知ると同時に激痛が私の腹部から全身へと駆け巡った。


「こ……これを」


 精一杯腕を上げ、手紙の入った封筒を目の前の兵士に差し出した。


 刺したままの長剣を抜かれると、私はその場に倒れ、周囲の地面が私の血で染まっていく。


 兵士が長剣に一日を振り払い、鞘に長剣をしまうと、手紙の封筒を受け取り、疑いの顔のまま封筒を開けてから中に入っている手紙を読んでいる。


「――! おいおい、マジかよ……まさかお前、通達兵か?」

「は……はい」


 力なくかすれ声で答えた。段々と意識が薄れていく中、慌てている様子の兵士が目に映っている。


「何故軍用服を脱いでから来なかった? あっ、いや、こんなことを聞いてる場合じゃない。待ってろ。すぐに医者を呼んでくる。早く女王陛下にお伝えしなければっ!」


 兵士がラバンディエ城まで飛行しながら移動する。


 もはや目に映るのは快晴の空のみとなった。


 きっと医者を呼ぶのは後回しになるでしょうね。でもそれでいいのよ。これでアリスが出てくれば、きっとこのメルへニカを救うことができる。


 ふふっ、どうしてまたアリスのことを思い浮かべたのかしら。つい苦笑いをしてしまった。


 ここにきてようやく気づいた。私はアリスが羨ましくて仕方なかった。


 何かある度に問題を解決し、周囲から頼りにされ、王族や貴族たちからも言い寄られているアリスに嫉妬した。私はアリスのような優しく強い人間になりたかった。もっと素直になっていれば……本当の友達になれていたかもしれない。


 それなのに……それなのに……私ときたら、ホント馬鹿。


 目からは涙が浮かび、それが瞳に映る快晴の空をにじませていく。


 きっと今まで多くの人を陥れてきた罰が当たったのね。


 アリス、本当にごめんなさい。あなたを追い出したせいでこのざまよ。


 手紙は無事に届いたかしら。これが……今の私があなたにできる最期の償いよ。


 キャロル、私ももうすぐそっちへ行くわ。もしまた人間に生まれ変わることが許されたなら、その時はあなたと一緒に、うちの実家のジンを一緒に飲んで、色んなことを話しながら飲み明かしたい。


 あぁ……アリスの友達に……なりた……かっ……た……。


 私は目を開けたまま息絶えた。その目からは悔しさのこもった水滴が顔の周囲に流れていた。


 行き場を失った私の死体は、最終的にキャロルたちの眠る軍の共同墓地へと埋葬された。


 数日後――。


 手紙は無事にエリザベス女王の手に届いたようで、この迅速な情報伝達が功を奏し、本格的に戦争が激化する前に決着がついた。


 アリスはメアリー女王とエクスロイドを討伐した。ここに、王位継承戦争が終戦を迎え、メルへニカに再び平和が訪れた。


 私は最期に人知れずメルへニカの平和に貢献したのであった。

今回で最終回となります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

割と濃厚に書けたと思います。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

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