第7話「女神に願いを叶えてもらう夢を見ました」 【
冒険者ギルドの一角で、換金をしていた。
「スライム十匹討伐完了確認しました。銅貨十枚となります」
「ん。あんがと」
お金を受け取ると、その半分をシュティに渡した。
「ごめんな。シュティ。俺が新人のせいで、お前の取り分まで少なくて……」
「そんなことありません。バトリスくんのおかげでパンの耳から卒業できたのです」
「そうかもだけど。新人って最低一か月は下積み期間があるなんて知らなかったよ……」
俺ががっくり肩を落としていると、シュティも苦笑いした。
「冒険者は新人のうちが、一番死亡率が高いですからね。こればっかりは致し方ありません」
「規則って奴ね。思っていたのと、なんか違うんだよな。それより晩御飯まだでしょ? 俺がステーキ奢ろうか?」
シュティは目を輝かせた。
「よろしいのですか?」
「もちろん」
だってこちとら二日に一回ドラゴンの群れやフェニックスなんかを狩りまくっているんだからな。
冒険者ギルドだと注意されそうなので、商人に直接買い取ってもらっている。
日銭で金貨百枚ほどだ。もう王都に来て二週間になるから、金貨七百枚ある。
師匠も無理なく稼いでくれるなら助かると、見逃してくれるようになった。
装備もオリハルコンの剣とストロングブルーフェニックスの生地でできた青い冒険者服を装備している。
ちなみに相手に合わせて魔力を調節して、ギリギリのバトルをしていることは内緒にしている。
またパンの耳は嫌だからな。
最近は新人冒険者なのに、毎日ジャンボステーキを食べている。
身の丈にあっていないので、シュティには兼業していることを話して納得してもらっていた。
シュティはどうも最近は大活躍のようであれから二週間でBランク冒険者になっていた。
まだFランクの見習いの俺とは大違いだ。
まあ。出世にはさほど興味はないからいいけどね。
それより俺はもっと力をつけてエンシェントドラゴン討伐のための仲間を集めなくてはならない。
帰ったら剣術書と魔術書二冊に、魔力トレーニングとフィジカルトレーニングを千回だな。
負荷はもちろんギリギリ。
師匠にもお前は一体何処まで強くなるんだとドン引きしていた。
そりゃ王都に来てから負荷をいつもの二十倍にしているのだから当たり前だ。
それに加えてAランク魔獣たちとの魔力を調節したギリギリの戦いにより、実力はめきめき上がっている。
フィジカルも魔力量も今までの三倍ほど強くなっていた。
技術も師匠と通常の魔力で互角に戦えるほどだ。
脳内で色々考えを巡らせていると、ステーキハウスへとたどり着いた。
「バトリスくん。今日も美味しい物を奢っていただいてありがとうございます」
「仲間なんだから当然だろ。気にするなよ」
「仲間……ですか。ふふふふふ……」
ああ。また病んじゃったよ。だからって嘘ばかり吐いて取り繕うのもシュティのためにならない。
俺なんかよりいい男を見つけて幸せになって欲しいものだ。
ステーキハウスへ入ると、執事服の男が出迎えた。
「ようこそお越しくださいました。バトリス様」
「ええ。今日もよろしくお願いします。ジャンボステーキ十個とミディアムステーキ一つ。ライスは十杯。白パンとスープをひとつ。紅茶を一つ。しゅわしゅわのジュースを十杯お願いします!」
「かしこまりました。調理までお時間がかかりますので、ごゆるりとお待ちくださいませ」
「はい」
俺は素っ気なく答えると、ピンっとチップを一枚渡した。執事は悪い顔をした。
「あと十分でご用意します。お待ちください」
「はい」
結局世の中お金なのだなと、つくづく思ってしまう。
しかし、魔獣討伐は本当に儲かるな。
これで効率よく栄養や書物を手に入れてどんどん強くなれる。
睡眠時間は二日に一回になっているが、超熟睡できるように、エクスポーションとマジックポーションを飲んでから寝るようにしているので、質は十分に保たれている。
一日十二時間くらい寝ている。
二日起きていても不思議と大丈夫なのだ。
ジャンボステーキを食べ終えた俺たちはすぐに解散した。
シュティとは毎日食事しているが、もう俺を褒めて愛を囁き、帰り際には頬にキスまでしてくる。
なんかいい子なんだけど、期待に応えてやれそうにないのが、少々可哀そうな気がした。
俺みたいなクズより、もっといい人たくさんいると思うんだけどな。
それでも自分の追放されていた原因を解決されたら、そりゃあベタ惚れするのもわかるっちゃわかるが、シュティ曰く、一目惚れらしく、それだけが原因とは言えない。
つまりこのヒョロガリ女顔が女子には意外とウケがいいらしい。
俺的には剣王バロスのようなワイルド系のイケメンになりたいんだけどな。
宿に入ると、師匠から手紙が置いてあった。三日ほどストロングドラゴン。つまり赤魔竜やら黒魔竜などを倒してくるらしい。
それは俺が倒したい奴なのに、早くSランクの魔獣と戦いたい。
ぼやいても仕方がないので、今日の日課を始めた。
まずは読書から。
俺は次々と日課を終えて、あっという間に睡魔の中に消えた。
☆☆☆
白い空間だ。何もない。そこにひとりの見目麗しい美女が玉座に座っていた。
「あなたがバトリスですね。ようこそ神界へ」
「へ? どうして俺の名前を知っているの?」
見目麗しい銀髪の美女は白いローブをはためかせて手を胸に当てた。
「それはわたくしが女神クリミスだからですわ!」
「は、はあ……」
この人頭大丈夫かな。それよりもこれはきっと夢なのだろう。
だったら別にかしこまる必要もないな。
俺はその場に足を組んで片頬を手で支えた。
「それで? その女神様が何の用?」
女神クリミスはやれやれと頭を抱えた。
「これは信じてもらえていませんね。それでもかまいませんわ。あなたの無礼を許しましょう」
ああ。面倒臭い夢だな。さっさと終われよ。
俺はイライラしながら、貧乏ゆすりをしていると、女神クリミスは慌てだした。
「イライラしていますね。こほん。では用件を伝えます」
女神は続けた。
「あなたは今夜のトレーニングで世界最強の魔力量と身体能力を手に入れました。もう事実上この世界にあなたを超える生物は存在しません! あなたは周りに過小評価されていたのです」
「なんだって!?」
なんて恐ろしい夢だ。まさか俺が最強とかそんなの強敵とのバトルが楽しめなくなるじゃないか。
つまり単独でエンシェントドラゴンどころか、魔王や世界の災厄たちにも楽勝で立ち向かえるということになってしまう。
そんなのはつまらない。圧倒的な力ほど無意味な物はない。
どうせ夢だ。これは夢。落ち着こう。まだ慌てる時間じゃない。
女神はそんな俺に提案を申し出てきた。
「つまりわたくしはあなたを勇者と認めました。世界最強になった褒美として、何か特別にひとつだけ願いを叶えてさしあげましょう」
なんだか胡散臭い夢だな。師匠が勇者なのに、俺が勇者に認められるわけがないだろう。
とにかく夢でもなんでもいいから、叶えてもらえるものは叶えてもらっておこう。
俺は口を開いた。
「だったら、世界中の俺以外の人間とか生物とか魔獣とか魔族とかありとあらゆるものを百倍強くしてよ? ちなみに成長速度や才能も百倍だからね?」
女神は目が点になった。
「は、はい? いまなんとおっしゃいましたか?」
俺はイライラしながら答えた。
「だからぁ。世界中の俺以外のありとあらゆるものを百倍強くしてくれってこと。生物も無機物もね? ちなみに成長速度や才能も百倍。ここ大事だから!」
女神は頭を抱えた。
「せっかく世界最強になれたのに、あなたは何故周囲のライバルを強くするのですか? もしかすると二度とあなたが史上最強になることはないかもしれないのですよ?」
俺はけらけらと笑った。
「それこそ上等だよ。俺はまだ見ぬ強敵と戦いたいんだ。相手が強ければ強いほど脳汁が出る!」
女神はくすくすと笑った。へぇ。笑うとけっこう可愛いじゃん。
「ふふ。わかりました。あなたのような者は生まれて初めて見ました。まさか一生に一度の女神への願いをそのように使うとは。まさにあなたは勇者の器ではありませんね。言ってしまえば戦神。そう戦神バトリスです!」
「あ、そういう設定ね。はいはい……」
俺の脳はとんでもなく痛いらしい。残念な自分の脳を呪いたいくらいだ。
女神は最後に清々しい顔で語った。
「あなたの修羅の道にどうか幸あらんことを!」
修羅の道って。大袈裟だな。
さあ。そろそろ目が覚める気がする。
くだらない夢から目覚めて、早く明日の夜にタイラントオーク討伐に向かいたい。
そう思って意識がだんだん覚醒していった。




