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117. 異変の後

 万智は、たった今ひばりによって新たにメグと命名された子犬にニコリと微笑んだ後、それからひばりの方を向くと、ひばりの魔法少女のコスチュームを上から下まで、じーっと観察した。


「……えっ? でも……お姉ちゃんって、黄色の魔法少女なんだよね。昨日パパから受け取ったのって、黄色の石だったはずだし……なのに、なんで桃色の魔法少女のコスチューム着てるの? もしかして、黄色の魔法少女のコスチュームを持ってないから、代わりに桃色のを着てるの?」

 万智は不思議そうな顔をした。


「ええ、ひばりは黄色の魔法少女で間違いないそうよ。」

 洋子が万智の疑問にすぐに回答した。


 それに対し、ひばりは自信満々な表情で立ち上がると、これみよがしに自分の桃色の魔法少女姿を見せつけるように堂々と胸を張った。

「ふふふ……実はこれ、コスプレの衣装なんかじゃないんだよね。私がさっき部屋で魔法少女になりたいって願ったら、変身して勝手にこの姿になっちゃったんだ。昨日パパとママから、私は黄色の魔法少女だとか言われたけど、実は間違いだったんだよ。本当は私、やっぱり桃色の魔法少女だったんだよ。」


「えっ? あ、うん……」

「あら、ひばりよかったね。桃色の魔法少女になれて。」

 万智はお姉ちゃんが本当に魔法少女になったという話につき合おうとしたのを少し後悔して微妙な顔になると、洋子はひばりが黄色の魔法少女でも桃色の魔法少女でもどうでもいいような能天気な顔をキープして、ひばりに適当に返事した。


 確かに、今ひばりの着ているコスチュームは、音色の魔法少女マジカルクインの桃色の魔法少女のコスチュームそのものだったので、どう考えてもひばりがいつものコスプレをしているようにしか見えず、その恰好で自分が本物の魔法少女になったんだと主張されても……それで信じろという方がどうしても無理があった。


 その時、メグが口を挟んだ。

「いや、お前は黄色の魔法少女だ。お前は私が用意した黄色の魔法少女の衣装を着ることを拒絶し、単に自分の願望を押し通したに過ぎん。お前が桃色の衣装を着ようが何色の衣装を着ようが、お前が黄色の魔法少女であることは変わらない。お前は決して桃色の魔法少女ではない。お前も心の中では、すでに気づいているはずだ。自分が桃色の魔法少女ではなくて黄色の魔法少女だということに。確かに、桃色の魔法少女は6色の魔法少女の中でも群を抜いた能力を有しており、それまでの戦場の風景を一変させるような特別の華がある存在といえるだろう。だからといって、桃色の魔法少女じゃなきゃイヤだとか、そんなワガママを言う魔法少女に今まで出会ったこともない。長年魔法少女を見てきた私にとっても、こんな事例は初めてのことだが、まあいい加減受け入れることだ。自分が黄色の魔法少女だということを。それに……いちいち紛らわしいし。」

 メグは最後に吐き捨てるように言った。


「うっ!」


 メグの至極真っ当な指摘に対し、露骨にイヤな顔をしたひばりであったが、その横でひばりとメグの会話をなんとなく聞いていた万智が洋子に確認した。


「でも……桃色の魔法少女って、つかさちゃんじゃなかったっけ?」

「そうね。確かに薄珊瑚さんのつかさちゃんが桃色の魔法少女だって、パパも言ってたわね。」

 洋子も万智の意見に同意した。


「な、何!?」

 それまで落ち着いて、そのポーカーフェイスも一度も崩すことがなかったメグは、二人の会話を聞くなり驚愕の表情になると、茫然と二人の方を見つめた。


「なんと……まさか、桃色の魔法少女もすでに見つかっていようとは……なんという幸運。……よし、ひばり。外出の準備をせよ。すぐに確認に向かうぞ。」

 メグは、今までにない興奮した口調で、ひばりに指示を出した。


 それに対し、ひばりは先ほどよりイヤな顔をすると一言、

「……イヤだよ。」

 そらから少し間をおいて、

「それに……もう遅いし……」

 そう付け足すと、メグの指示を断固拒否する姿勢を示した。


 だが、メグの方もまったく諦める気配はなかった。

「いや、今すぐ行かなくてはならぬ。このままお前と一緒にいても、万事うまくいく気がしない。それに、もしもこのまま私がお前としか会話できない状況が続くこととなれば、お前が私の代弁者になり得るとは到底思えないので、私とこの世界とのコミュニケーションの断絶は永久に解消されないままだろう。そのためにも、もしもそのつかさという少女が本当に桃色の魔法少女だったなら、取り急ぎ私に『ワールドスピーカー』をかけてもらう必要があるだろう。」


「ワールドスピーカー?」

 ひばりは、ワールドスピーカーという聞きなれない言葉に反応すると、怪訝そうな顔をしてメグに聞き返した。


「何? 知らぬのか。ワールドスピーカーというのは桃色の魔法少女がもつ間接魔法の一つで、この魔法をかけられた者は、同種属の生物だけでなく、この世に住まうあらゆる生命体とのコミュニケーションが可能になるという異種間翻訳魔法だ。」

 ひばりが知らなそうだったので、メグは親切にワールドスピーカーの説明をしてあげた。


「ふん。嘘だね。そんな魔法存在しないよ。」

 だが、ひばりに軽く一蹴されてしまった。


「えっ? ……いや、そう自信満々に否定されても……桃色の魔法少女を創造した張本人があると言っているのだから、あると思うんだけど……」

 メグは少し困惑した。


 だが、確かに「5色の魔法少女」のアニメの全29シリーズで、今までに作中でワールドスピーカーという魔法が出たことは一度もなかったので、ひばりがそう思うのも無理はない話だった。

ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、

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