Episode69 もう…
春季大会を約1か月後に控えている。そんななか、白城は自分の実力不足を実感するものの、自分の武器は基本であると気付く。しかし、久井と森田の関係性を目の当たりにして「今まで自分だけ舞い上がってた」と思ってしまう。最悪な現実を否定することができず、思考が停止する。そこに、白城のプレーに腹を立てている雄星が現れ冷酷な言葉を浴びせる。
白城は久井を避けるようになり、またテニスのやる気もなくなっていた。楽しみが消え、急に一日が長く感じるようになり、授業もほとんど寝るように…つまらない日々を過ごしている。
あの日から一週間ほど経った。毎晩、というかいつでも思ってしまう。「どうして好きになったんだろう」って。あの人のことが嫌いになったわけじゃない。呑気に過ごしていた自分に、ありえない理想に縋っていた自分に嫌悪を感じてる。
皮肉なものでテニスの調子はどんどん良くなってきている。雑念が無くなったからだろう。
内田さんにも褒められるようになった。雄星も普通に話してくれるようになった。もうこれ以上望むのはワガママな気がする。レギュラーになりたい、それだけ思って今日も過ごす。
「久井さん!」
「どうしたの、白城君」
「森田さんと付き合ってるんですか?」
「そうだよ…」
(なんで顔赤くするんだよ…)
「僕、久井さんのコト…ずっと好きでした!」
「えっ…」
「僕と付き合ってください!」
「ごめんね…?」
「どうして…」
「だって白城君カッコよくないもん」
「え?
「身長も低いし、テニスも上手くないし…亮に勝ってること何もないよ?」
「…」
「諦めて?ごめんね」
「…!!」夢かよ…。冬なのに寝汗でパジャマが湿っている。
もう久井さんのことは諦めきれた、ハズ…。もう夢にも出てこないでほしい。現実でも会いたくない。話しかけてこないでほしい。もう期待させるようなことはしないでほしい。ふとした瞬間に思い出して、笑えなくなる。いつも思い出すのは笑顔だけ。その笑顔の明るさが、余計に心を苦しめる。
「よーし、それじゃあ席替えするぞ」
「頼む、今回こそは後ろの席がいい!」
「知、二連チャンで一番前だもんな」
「まじで嫌だわ。隣が男とか…」
「おいおい、そりゃあ言い過ぎだろ…」
「(小声で)なぁ、やっぱり隣は美波ちゃんがいいよな…」
「美波ちゃんと隣なったら俺勉強する」
「お前この間の模試、いくらだったん?」
「94/600(点)…」
「俺の半分以下じゃん!」
「あんまり笑うなよ、俺が馬鹿ってバレるだろ…」
(みーんなそう思ってるけどな…)
そんな感じで話をしていたら、いつの間にかくじを引く出番がきた。番号は…「29」。
「知、何番だった?」
「俺29」
「俺は12。これで隣は回避だな。寂しいだろ、俺と離れるって」
「誰が寂しいかよ!」
「よーし、じゃあみんな席移動して」
(席は…!!!よっしゃ、校庭側の一番後ろやん!これで隣美波ちゃんだったら神席だな…まあそんな奇跡起こるワケ…)
「あっ!知君、席そこ!?」
「あっ、うん…」(えっ、美波ちゃん…?)
「やったぁー!よろしくね!」
(やばい、嬉しすぎる…!!!!!!)
退屈な日々に一筋の光が差し込んだのだった…




