Episode53 君がいい
(内田さんside)
思った通り、小川・白城が勝ったか…。小川・秦は相性が悪かったからなあ。特に秦が問題で、相手を下に見る癖がある。自分のプレーもまだまだ未熟なのに自分より下手な人間を馬鹿にする。そういうところが、団体戦でチームカラーを悪くする。そんなやつを4番手に入れたくなかったから、あえてペアを崩してみた。
案の定、ペアを変えることを伝えたら鬼の形相で自分の所にやってきた。「内田さん、どうして今更ペアを変えるんですか!?」なんて聞いてきたが、テキトーに返事をして追っ払った。
まあ、秦のことは置いといて。しかしなぁ…。小川・白城が4番手か。正直今のままでは4番手止まりだろう。結局の所、もしもの時の保険の4番手でしかない。これから春季大会までの残り1か月でどこまで小川たちが成長できるかが大事だな。よし、早速明日から練習でこの二人をシゴこうか。
(久井side)
どうしたものかな…。思うようなプレーが全くできない。今日の校内戦でも、由衣のおかげで勝てた。私はミスばかりしてサーブレシーブも一回ずつミスをした。この調子で春季大会で勝てるわけがない。でも勝たなきゃ。みんな期待してるんだ。だからこそミスなんてしてる場合じゃないのに…。
(白城side)
しばらく勝利の余韻を味わってから俺は雄星と一緒にトイレに行った。
「いやぁ知ぅー。やったね!」
「いやぁマジで嬉しいわ。本当にありがとな雄星!」
「何言ってんの。知が今まで誰よりも練習を頑張って来たから勝てたんだよ。実際何回もいいプレーしてたじゃん。」
「そうかな。」
「てかさ、てかさぁ?」
「どうした雄星。急におかしくなったか。」
「あれから久井さんとはどうなんだよ。」
「はぁ?」
確かに雄星と夏合宿の夜に話して以来、一切久井さんの話をしなかった。もうあれから半年が経とうとしていると思うと非常に恐ろしい。
「まだ好きなの?」
「どうだろうね。本当に俺、久井さんのこと好きなのかな。」
「何だよ、まだそんなことで悩んでんのかよ。」
「そんなことって…。だってよ?久井さんは俺と違ってみんなからカワイイって思われてる人だぞ?」
「それがどうかしたの?」
「俺が好きになったのは久井さんがカワイイからで、人としては好きになってないんじゃないかって思う。」
「久井さんの好きなところはないのかよ。」
「そりゃあたくさんあるよ。俺なんかにでも優しく接してくれるところとか、ちょっと甘い声とか。」
「そんだけ出てくるのに、好きって言えないのか。」
「いや好きだよ?でも本当の意味で好きなのかが分からない。」
「そうかよく分んねぇ。僕には知が自分自身に対して自信がないだけのように思えるけど。」
「自信なんてねぇよ。」そう言って俺はトイレのそとに出た。
人の気配がしてふとそちらに視線を向ける。そこには久井さんがいた。なんだ久井さんか…久井さん!?
「えっ、なんで久井さんここにいるんですか?」
「なんでって、コンタクトがずれたから直しに来たの。」
「知ー、そろそろ久井さんに…」そう言いながら雄星がトイレから出てくる。俺は急いで雄星との距離を詰めて「おいおいおい!」といって無理やり黙らせた。「どうしたんだよ知。急に…」雄星が久井さんがいるのに気付く。
俺たちは慌てて何事もなかったように振る舞う。そんな恥ずかしい様子を久井さんにしっかり見られていた。「ハハハハ。」と久井さんはカワイイ声で笑いだす。
「何してるの?仲いいんだね二人。」笑いすぎて涙が出てきたらしい。
そんな笑う久井さんに俺は見惚れていた。そして思った。俺この人の笑顔が好きなんだ。顔がカワイイはもちろんだけど、カワイイ顔の中でも笑顔が一番好きだ。こっちも笑顔になるような笑顔が、つい見惚れてしまう笑顔が、優しい笑顔が、世界で一番好きだ。
でもあなたの笑顔を見ると、気持ちが和むと同時に、心が苦しくなる。あなたが素敵だから、素敵すぎるから、苦しいんだろうな。俺なんかが釣り合うわけがないと思ってしまうから。
俺が久井さんと同級生なら、もっと顔が良かったら、もっと自分に自信があったら、久井さんが俺のコトを好きだったなら、どんなに良かったことか。
あぁ、好きになるほど苦しいだけだな…。




