Episode50 黎明
(雄星side)
今朝、知とペアを組むって聞いた時は驚いた。中学でも組んだなかったから、幼馴染なのにすごく新鮮な気持ち。今までずっと秦と組んできたけど、正直秦とは組みたくなかった。だってアイツ、自分もミスするくせに僕がミスしたら態度に出す。マジでやめてほしいんだよね。だからこそ猪野・秦ペアには負けたくないんだよね。コイツらにAチームの座は譲れないよ。
知はまだ未完成って感じだけど大丈夫。だって知は誰よりも努力してる。そして誰よりも他人を観察するのが得意。いつも久井さんのフォームとかラケットの出し方とか、足の運び方とか気持ち悪いくらいに見てる。でもその時の眼差しに久井さんへの好意は一切含まれてない。ただ上手くなりたい、その一心で久井さんを見てる。
僕が知に新しい景色を見せるんだ。大丈夫、絶対に勝てる…
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(白城side)
試合は3ゲーム目、再びレシーブゲームとなる。勝利まであと2ゲーム。点数にして8点。俺はゲームが始まる前に雄星に話しかける。
「雄星、ここの1ゲーム大事に行こう。」
「うん?どうして?」
「いやだってこのゲーム取らないと…」
雄星は戸惑った顔を止めない。「何言ってるんだコイツ」と口に出さなくてもそういう顔をしていた。
「どうして大事に行くの?この調子で攻め続ければいいじゃん。」
「そうだけど…」
「知、もしかして勝ちを意識してる?」
「えっ?」
雄星の何気ない一言に虚をつかれた。自然と目線を下げて俺は考え込む。
(勝ちを意識…。そうか、青井スポーツ杯で石井に「苦しい時こそ逃げないで勝負する」ことの大切さに気付かされたのにな…。)
「たしかに今2ゲームリードしている。だけどたかが2ゲームなんだよ。」
雄星の言葉がいつも以上に頭に残る。
「守りに入るも悪くはないよ。でもさ、勝ってるのにチャレンジしないのは『逃げ』だと思う。」
(逃げ、ね…)
「知はさ、自分に自信が持てていないんだろうな。」
「うーん…やっぱりミスが多いしな。」
「誰よりも練習を真剣にこなしてるだろ?」
「そうか?」
「たまには僕をリードしてよ。どんな展開が良いか、どうやってポイントを取りたいか教えてよ。」
「えぇ?じゃあ…」
「レッツプレイ!」幸汰のコールが聞こえた。少し話過ぎたか…
「知、久井さんもお前を見てるぞ。」雄星が茶化す。俺は軽く笑った。その瞬間体の力が程よく抜けた気がした。
「おい、雄星。レシーブミスるなよ?」
「当たり前だよ。知こそ、しょうもないミスすんなよ?」
「分かってるよ。任せろ。」そう言って俺は自分のポジションへと歩いていく。そしてポジションにつき秦の顔を見る。秦は俺に目もくれない。ずっと次のポイントに集中している。
(余裕なさそうだな、秦。こういうときに俺がポイントするともっと嫌だろうな。)
あー、なんとなく思い出してきた。青井スポーツ杯の時、足を怪我しながらも勝てた試合のことを。あの時石井に「焦る必要はない。お前はラリーを続けろ。」みたいなことを言われて、「ラリーを続けるか…」って割り切ったんだった。
割り切ったら気が楽になった。でも今回は違う、ペアに全てを託すわけではない。俺がどうやったらヒーローになれるか考えた。ミスなんて一切気にならなかった。
(1,2ゲーム目で俺はほとんどラリーに絡んでないんだよな…そうなると俺への意識って薄まるよな?さっきから秦も猪野も目の前のボールに集中してるな…これチャンスなんじゃね?)
俺はニヤリと笑う。なんだか楽しくなってきた!自然と今日一番の声が出た。
「さぁ、来い!」という俺の大きな声に一瞬秦がこちらを見た。あーあ、完璧にペースを乱されてるねこれは…。硬くなりすぎなんだよ秦。もっと楽しもうぜ?
体が軽い。気分もいい。なんでも出来そうな気がする。ああ、もうミスなんて考えてる場合じゃない。早く俺がポイントを取りたい。
今までにないくらいのハイになった。そんな俺を誰も止められない…




