141 素人はだまっとる!
錬金ギルドにて、カフィ豆から有効成分を抽出しよう作戦の戦況についてハーカセさんとイーズさんから説明を受けた。どうやらかなりの戦果を得たらしい。
その結果として、目がギンギンに開いたイーズさんにとても感謝されることになった。なんというか人格もちょっと違うくらいテンションが高い。
喜んでいるところに水を差すようだけど言わねばならない事がある。
「あの、多分それ元気の前借りなので……」
「大丈夫です!」
大丈夫じゃなさそうだから一応忠告したのだけど……。被せるように言われてしまった。お願いだから用法用量を守って使用してほしい。
他にも、なにやら北部の一日の大半を眠り続けている美姫に投与予定だとかハーカセさんから聞いた。
糸車のつむに指でも刺されたのだろうか。
「ただ、完全に有効成分を抜くことはできず……」
申し訳なさそうに眉を下げて言うハーカセさん。
「ああ、なら丁度いいかも」
デカフェを目指してもらったけど、適度にカフェインが残った状態になっているようだ。ということは通常のコーヒーとして飲めるのではないか。
少しずつ採れる量が増えてきたカフィ豆の実。そのまま実の状態、コーヒーチェリーを渡して、果肉からも成分を取った後、コーヒー豆状態になって返ってきたものを受け取る。
見た目はキララに果肉を除いてもらったのと変わりなく見えるけれど、これが使用後、ならぬ抽出後か。
さて、これで勇者たちに美味しいコーヒーを!
親方に作ってもらった手回し式の焙煎機が火を吹くぜ! じゃなくて、火に炙られるぜ?
イーズさんに紹介してもらった破砕機もいい調子だ! これで勝てる!
と思ったのだ。
最初は、桃瀬さんに飲んでもらおう!
喜んでくれるかな?
「お姉さま。コーヒーというものはですね……」
私が、まずとりあえず成功実績のあるお茶パックでコーヒーを淹れようとしたのを見て、桃瀬さんが思わずといった風に口を開いた。そして言い出したら止まらなくなったのだろう。
長々と説明されたけど、ごめん、半分くらいしか理解できない。
こだわりがあるのはわかった。すまなかった。雑に手を出してはいけない領域だったのだね。
「ああ、どうして私が買ったものは出せないのでしょうか。あのコーヒーフィルターがあれば!」
身をよじり嘆く桃瀬さんをなだめる。どうどう。
「これでなんとかならないかな……」
じゃじゃーんと取り出したシルクスパイダーの袋を見た桃瀬さんがすっと目を細めた。
「ネルドリップ方式ならとのお考え。わかります。昔からありますもんね。ええ、わかります。でも、ネルの取り扱いはとてもとても面倒なのです! 素人が手を出すのはおすすめできません」
実感がこもったその言葉。これはあれだね。
「てことは桃瀬さん、やり方、知っているのね?」
「ええ……」
じゃあ問題ない。桃瀬さんに任せれば良いのだ。素人はだまっとる!
どうやら、焙煎や挽き方にもこだわりがあるようだったので、もう全部お任せだ。
自分で焙煎、やったことがあるのだろう確かな手元。深煎りというのだろうか、けっこうしっかり色が濃くなるまでじっくりと。そして、挽き方は粗め、なのかな。粒の大きさを慎重に調整している。
ネルじゃないけどシルクスパイダーフィルター。使う前に煮込むとか知らなかった!
そうして、桃瀬さんに淹れてもらったカフィ豆のコーヒーは絶品だった。
私にもわかるこの美味さ。この香り、コク、喉越し。うっまー!!
え、コーヒーってこんなに美味しいの? 今まで私が飲んできたのは何だったの?
そして、面倒だと教わった布製フィルターの保存はとてもあっさり解決した。
「私のストレージ、時間停止付きでした!」
桃瀬さんはとても良い笑顔だ。
そう、時間を止められる勇者たちのストレージがあればフィルターを水につけて水が悪くならないように頻繁に替えるとかしなくて良いのだ。ストレージでのフィルター保存、簡単。すごい。便利。
それに、淹れたての最高のコーヒーを入れておけばいつでも最高の状態で飲める! のだ。
こうして、勇者たちはいつでも飲める美味しいコーヒーを手に入れた。
うん、カフェインが程よく抽出されているので、覚醒作用も程よく、集中力を増したり、眠気をさましたりするのに最適だ。
乱用しなければカフェイン有用。コーヒーブレイクは作業効率アップに有効だよね。いい匂いでリラックスできるし。甘い物との相性もばっちりだ。
ちなみに、コーヒーに合う甘みはなにが好きかを勇者たちに聞いてみたところ。
「私はやはり、チーズケーキが至高かと」
桃瀬さん、チーズケーキ好きなのか。んー私が覚えてるレシピの材料、こっちでそろうかなぁ。
あ、スフレでいいならおじさん印のふわふわなやつなら購入履歴があるはずだ。ワンホール500円で昔は買えたから。
「ポテチ!」
あ、うん。わかった。美味しいよね。うん、ポテチは何にでも合うからね。揚げ物の衣にするのも良いし、サラダのトッピングにも良いからね。
「……羊羹」
緑川くん、わかる。美味しいよね、ねっとりとした甘みがたまらない。特にタイガー屋の羊羹大好き。食べたくなってきたな。もらい物を食べていたから買った履歴があるかあやしいし、あっても千円だとミニしか無理だけど。百均で買ってた4個入りのやつでいいかな? これもちゃんと美味しいやつだし。
「1個ずつ包まれてるビスケットだ」
ああ、良くディーラーとかで待ち時間に飲み物と一緒に出てくるあれか。個包装のビスケットでシンプルで美味いやつ。
本家じゃないけど、似たやつなら業務スーパーで買ったことあるな。
赤木くんがその大きな手でちまちま包装を外している姿を幻視してくすっとなった。
「アーモンドチョコですかね」
くいっとメガネを押し上げた青井くんが目を細めた。
あーチョコね。チョコとコーヒーは相性が良いね。そしてアーモンドチョコはカリカリとしたナッツがたまらない。チョコレートと言えばパイナップル。パイナップルケーキも美味しいよね。私はアーモンドチョコならグーの時に三歩進む会社のやつが好きだ。好きなのにあまり見かけなくて見つけると嬉しかった。
ということで、千円リピートでそれぞれお好みのコーヒーのお供を出したら、桃瀬さんにキッと睨まれた。
いやーでも良いじゃないか。今日くらい。美味しいコーヒーを飲むためなら!




