140 今宵のわらわは冴えておる!
錬金ギルドに突撃して、受付の人に相談していると、後ろからヒョイっとハーカセさんが現れて別室に案内された。そこまで特別扱いしてくれなくても良いんだけど。
「薬効をお湯で煮出す布袋、ですか。もちろんありますよ。うちで扱っているものだと、シルクスパイダー製のものが一番目が細かくて高性能ですね」
私の話を聞いたハーカセさんがあっさりと、最高級品らしい白くてつやつやすべすべの布袋を用意して渡してくれた。
手触りがとても良い。そして、やっぱりいるんだね、糸が有用な蜘蛛。
「これ以上となるとテンテンサンのものになりますが、あれは入荷が難しくて」
安定入荷ができるならぜひ置きたいのですねーと言う。
昭和の歌姫のような名前がちょっと気にはなるけど、このシルクスパイダーのやつで十分な気がする。
「これで試してみます。ありがとう」
あ、ドンガン親方に頼み忘れた、ミルっぽいものもあったりするかも?
「こう、このくらいの大きさの物を粉にする道具もあったりします? 石臼より手軽なやつというか」
「ああ、それなら別の者が詳しいので、呼びましょう。多分今日はいるはずです」
ハーカセさんが呼んでくれたのは、小柄で痩せていて目があまり開いていない感じの人だった。部屋に入ってくる足取りも少しふわふわしている。
そのゆっくりとした動きを見たハーカセさんが心配そうに眉をひそめた。
「イーズ、今日は駄目な日ですか……。こちらはサキさんです。小型の破砕機の説明をお願いしたいのですが……」
「……大丈夫です。いけます。失礼しました。イーズと申します。ん?」
こちらに向き直り、気合で開いたのだろう目を、その顔を見て思った。微妙に見覚えがある気がする。向こうも考えている。
「ああ、サキさん。とても良い菜種を持ち込まれた方ですね」
思い当たったというようにイーズさんが一つうなずいた。
あっ、そうか。菜種油絞りを頼んだ時の職員さんだ。あの時となんだか印象が違うし、私は人覚えがとても良くないのでわからなかったけど。
抽出が得意な人って、この人だったのかな。そうか、油を絞るのにも、原料によっては破砕作業があるだろう。
「あれはとても良い油が絞れたので、限界までやれて楽しかったです。今度は何を絞りますか?」
楽しそうに聞いてくれる。
「えっと、これくらいの豆を粉にする道具はありますか?」
えっ、絞らないんですか。と少し寂しそうにしたイーズさんは、それでも小型の手回し破砕機について丁寧に説明してくれた。ふむふむ。いろいろあるのだね。
「これをください」
何個か機構を見せてもらいながら試してみた中で、想像していたコーヒーミルに近いものを購入。ダイヤルを回すと細挽きから粗挽きまで調整できる破砕機を購入。
よし、次はどうしようか。街に来たついでに、ジルじいのところにも寄って、ルーナにも会いに行こうかな。あ、パンも買いたい!
ものすごい勢いでやりたいことを片付けて、小屋に荷物をたくさん持って帰る。
畑は、片付けないといけなかったところは綺麗に片付けられ、土はふかふかに耕されているし、草取りや手入れや収穫もばっちり。
いつもだってサボっているわけではないのだけど、こんな綺麗な畑だったっけ? ってくらいピカピカだ。
あ、ミミ、まだ手を付けてなかったところまで耕してくれている。
そんな盛り沢山な一日を過ごして。
夜を迎えた。そして、問題発生⋯⋯。
「眠れないねぇ」
「おめめぱっちり」
「今宵のわらわは冴えておる!」
あまりに眠気が来ないのでトランプでババぬきをやった。
確かにキララは冴えていた。何回やっても一抜けだ。私が一番負けている。なんとか勝ちたい。
たくさん動いて疲れているはずなのに、どうしてか眠気がこない。とてもなんというか。
昼間シャッキリ動けた高揚感がまだ残っている気がする。
そして、今見返すと、私の描いた絵はひどすぎた。どうしてこれで大丈夫だと思ったのだろう。それでもわかってくれたドンガン親方がすごすぎる。
ついでにかなりなんというかこう、テンションが高かったな、今日の自分。
やはりカフィ豆にはかなりなカフェインかカフェインに近いものが含まれているのでは。
「カフィ豆はあまり常飲には向かないかもだね」
そう言いながらキララからまたジョーカーが私のもとにやってきた。これミミが引き取ってくれないかなぁ。
うーむ。飲むたびに興奮状態になって夜ふかししてしまうのはちょっと問題かも。
「もうのめないの?」
「美味しいのにのう」
ババ抜きじゃなくてカフェインを抜けたらいいんだけどね。
そういえばデカフェというのがあった気がする。
最初聞いた時はでっかいサイズのコーヒーのことかと思った。デカフェ。大きそう。
あれはどうやってカフェインを抜いているのだろう。蒸留、は違うだろうな。アク抜きだと灰を使ったりするけど。
抽出?
抽出かぁ。
これはまた錬金ギルドに行く案件な気がするね。
くう、また負けた。
ということで相談に来たのだけど。
「サキさん。まず、これはなんなのか、一応確認のためにお聞きしても良いですか?」
にっこり笑うハーカセさん。
こないだは現物は持ってこずに相談したので、今回持ち込んだカフィ豆を見ての良い笑顔だ。
「ちょっとした伝で手に入れたカフィ豆です……」
「そうですか。そうですね。カフィ豆ですね。とても貴重な錬金素材です。私もこの品質のものを見るのは初めてです」
にっこにこだ。
ちょっと怖い。
「で、この貴重なカフィ豆を煎って粉にしてお湯に成分を出して、お茶のように飲みたい、と」
「はい⋯⋯」
トントンとこめかみをリズミカルに叩いたハーカセさんが、笑みを深めた。
「炎傘をお鍋、マシラチクはジャム、でしたか。カフィ豆はお茶、なるほど。素材をどう扱うかは採集した人の特権です。わかっていますとも」
笑顔の圧力マシマシ。
「ただ、少し心配が。そのような摂取の仕方では薬効のコントロールが難しいのでは」
あーやっぱり。摂りすぎ危険問題はやっぱりあるのね。
「えっと。豆の融通と引き換えに、有効成分を抜く手伝いをしてもらえないかと」
「有効成分を?」
うん、多分カフェインな有効成分をなんとかこう抽出してもらって、残った物を飲料として利用すればいいのではないか、と。
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