139 お茶パックでなんとかなる?
というわけで。
薬研と石臼で豆を粉にしてみたカフィ豆。
とてもいい匂いがする。コーヒーのあの香ばしい匂い。この匂い好き。
めちゃくちゃ匂う。くらくらする。酔っ払ってしまいそう。
「いいにおい」
鼻をぴくぴくさせたミミがうっとりと目を閉じる。
「それをどうするのじゃ?」
目を細めたキララに聞かれる。
「それが、私、粉のコーヒーを淹れたこと、なくてね」
顎に指を当てて考える。どうやればいいのか。
「やりかたわからない?」
ミミに言われて頷く。
「うん……」
厳密には、パックになってて組み立ててマグカップにひっかけて使うやつなら粉のやつも淹れたことがある。なんだったっけ、昔からある化粧水みたいな名前でよく宣伝が入っていたやつ。
でもちゃんとフィルターを使ってってのはやったことがない。つまり、コーヒーフィルターを買ったことがない。意味なく無漂白のコーヒーフィルターが欲しかった時に買っておけばよかった。百均のくるくるした折りたたみのコーヒードリッパーが話題になった時にちょっとやってみたかったのに。
フィルターがないとなると、ネル? うん、ネルドリップとか聞くけど、聞いたことがあるだけでどんなものかよく知らない。ネルってなんだ? 何かを練るのか? カタカナだから何か外国語の略なのだろうけど。
まあ適当にフィルターっぽいもので濾せばなんとかなるのでは。あっ、お茶パックじゃだめかな?
お茶もコーヒーも、成分を抽出して飲むというのは同じなのだから、なんとかなるのでは?
お茶パック、昔の履歴なら108円で100枚だ。最新の履歴だと92枚と微妙に減ってきている。マチ付きの自立するタイプでなければまだ100枚入りのものもあるのだけど、自立するやつが好きなので数が減ってもそっちを買っていた。
「なんとかなるかも!」
やってみよう。
4枚を5円で出して、コーヒーの粉を入れてみる。袋の口を折り返すけれど、そのままだと粉が出てきてしまいそうだ。もう一枚の袋を被せて二重にしてみた。
これにお湯を注いで蒸らせば、なんとか、ならないだろうか。
理想としては粉をこんもり山にしてその頂点に上から細くお湯をゆっくり注いで蒸らすんだろうと思う。何かで読んだんだろう。そんなイメージがある。
しかし、私は適当が好きだ。色と味が出ればきっとなんとかなる。真のコーヒー好きが見たら悲鳴を上げるかもしれないが、今ここにはいない。ちょっと脳内の桃瀬さんが「やめてください!」って言ってる気がするけど幻聴だ。
お茶パックにお湯を注いで待つ。匂いは完全にコーヒーだ。あの香り。そして色も薄いけど出てきている気がする。これ、ゆすったり絞ったりしちゃ多分駄目かな。雑味が出そう。
じっと我慢してコーヒーを見つめる。ミミもキララも私につきあって真剣に見つめてくれる。視線で穴が開きそうだ。視線には力がある。
なんとなく見られているとわかる。
あと、意味はないのだけど、自分が見ていなければ相手からも見られないのではないかという気がする。だからコミュ障は目が合わせられない人が多いのではないか。そんなはずはないのに。
お湯の力と、視線の力で抽出された茶色い液体。少し色は薄いがなかなかいい感じの色になった。これはきっとコーヒーだ。
「キララ、確認だけど、これ飲めるよね?」
植物のことはキララに聞けばなんとかなる。そんな信頼がある。
「もちろん飲める!」
キララのお墨付きだ。よし、飲みましょうとも!
一口、コクリと飲んで驚いた。苦い。とても苦い。無理!
うべえという顔をしてしまう。苦いの苦手だ。色は薄めだけどかなり濃いぞ、これ。
お砂糖と、ミルクを求む!
コーヒーフレッシュ? あの白いやつは厳密にはミルクじゃないらしいし、粉のやつも、牛乳からできているのはごく一部だ。
なので牛乳を千円リピートで出して混ぜた。お砂糖も投入。
「ん!!」
これは美味しい。思わず口元がほころぶ。
私にコーヒーの良し悪しはわからないけど、ちゃんとコーヒーの味だ。正確にはミルクコーヒーの味。
私の毒見がすんだので、待ってくれていたミミとキララにも味見をしてもらおう。
結果。
「いい匂い。ミルクいれないほうがすき」
というミミ。
「うーむ。お砂糖追加じゃ!」
と山盛りの砂糖を入れたやつが気に入ったキララ。
どちらも匂いが特に気に入ったようだ。
うむ、とりあえず、成功かな。
えっと、これからこのコーヒー豆をできるだけ増やして、育てて。
それから焙煎するのに良い道具を親方に相談して。
コーヒーミルみたいなのも頼めないかな。
あ、桃瀬さんたちに試飲して貰う前に、フィルターも考えるべきだよね。目の細かい茶こしで代用できるっていうのを思い出したぞ。錬金ギルドに使えそうなものがあるかもしれないから相談するのもよかろう。
なんだかどんどんするべきことが浮かんでくる。
「ぼく、ちょっと畑をたがやしてくる!」
「わらわも収穫作業をやろうかの!」
「私は、ちょっと出かけてくる!」
「ドンガン親方! これお願いします!」
勢いのまま押しかけたドンガン親方の工房。ちょうど休憩中だった親方を捕まえて紙を差し出す。
とてもわかりやすく焙煎機の図を描いた。詳しく描いたつもりだ。いつもより上手く描けた気がする自信作。
「こりゃなんだ? 丸くて持ち手がついてることしかわからんぞ。こっちのは持ち手のついた箱か?」
え、丁寧に描いたつもりなのに。おかしいな。
「小さめの、このくらいの金属製のザルをパカって合わせて直火であぶれるようにしたやつと、こう取手を回すとぐるぐる回転して、下に熱源をおいてあぶれるように……」
「ああん? こうか?」
サラサラと書き直される絵がすごく上手い。
「ああ、するとこの柄はこう、なって、ああ、なるほど」
なんだかわからないけど描きながらわかられているようだ。
「丸い方は試作ならすぐだな。こっちは少しかかる」
話が早くて、とても助かる。
手焙煎の試作品ゲット!
次は錬金ギルドに行こう。




