第一幕「不愉快な遺物」
それは、夢だったのか、幻だったのか……。それらのどちらに因るのかしれないが、そのある凄惨な風景から現実へと意識を戻した時、私は咽吐を催すような悪寒と、激しい動俸、溢れ出す汗との中にあった。さんざめく木々の葉の音が、いつになく不気味に感じられる。その音はまるで、私の見ていた光景の続きのように聞こえる。それは、死に逝く者の、命に縋ろうとする思いを、洗い流している音に、等しく感じられるのだ。
その光景は、神の記憶か、あるいは私の遠い祖先の記憶かというに相応しいものだった。ただ、それを懐かしむ、それに郷愁を覚えるといった類の物ではない。あるのはただ、絶望。血塗られたと形容するに最も相応しい、おぞましいものだ。
彼らは今まさに減びゆこうとする愚者たちだった。互いにいがみ合い、罵り合い……。ついには、彼らは、その心を憎しみの炎に燃やし、互いに折り重なるようにして燃え上がり、朽ちていった……。憎しみ、奪い合い殺し合うことが、何も生みはしないということを、彼ら私も悟った。だが、彼らにはもう、それ以上の未来は与えられなかった。神は、彼らへ向けた眼差し、完全に閉ざし、眠りついてしまったのだ……。
そして今、私たちが生きているのは、その破滅過ぎて後の名残とでもいうかのような、静かで何もない時間と空間。そして、この愚かな悲劇を見た前後からは、私たちの視界からは光すらも、その姿を消してしまった。光のない世界。それがどんなものだか想像がつくだろうか。
それは "夜" じゃない。純然たる "闇" の世界なのだ。何も、何一つ、物は見えない。アイカが今どんな姿なのかも知らない。火も、奪われてしまった。今の世界では、それが生じないのだ。私たちが今森の木々の中で、ふたりでなんとか生き抜いているということのほか、何もわからないのだ。
アイカは、ただ静かに眠っている。こんなか弱い少女が、なぜこんな目に遭わねばならないのか。そのやわな心で、今どんなことを夢見ているのだろうか.…。今はただ、普通の幸せが欲しい……。




