荒れる結婚式
最終話になります。
「だと、思ったのよね。」
婚約発表しかり、祝勝会しかり、レイクリフと正式な場に出るとろくな事ない。
完璧に仕上げたウェディングドレス姿のマーガレットがため息をつく。
空は快晴、晴れてはいるが、風が強い。夜半過ぎから吹き出した風は、日の出前には突風の渦に王都を巻き込んだ。
朝になって明るくなると、災害の状況が判明したのだ。王都を流れる川に架かる橋が2箇所も崩壊し、多数の家屋も損害を受けたようだ、人的被害はまだ把握できていない。
近くの港に停泊中の軍船も甚大な被害の報告が届いた。
父と兄は橋の視察、レイクリフとジルベールは軍船を停泊させた港に行っていない。
結婚式だというのに!
外は早朝程ではないが、強風が吹いている。おさまりつつあるとはいえ、予断はできない。
式に参列する者達も集まりだしているが、何分この風である。開始時刻がせまっているのに、新郎はいない、招待客もまばらである。
結婚式をする大聖堂の窓からマーガレットが覗くと、街の鐘突塔が揺れているのが見えた。
「塔のレンガが崩れ落ちている!」
強風で傷んだ塔は、直ぐに崩れ落ちるかもしれない。
「鐘突塔が壊れそう、街の人々を避難させなければ!」
ウェディングドレス姿のマーガレットが教会を飛び出し、式後のパレードの為に待機していた馬車の馬を外して飛び乗る。
戦争のヒーローであるレイクリフの結婚とあって、盛大な結婚式が予定されていた。レイクリフの姉は王妃であり、王家も参列することになっている。
式の参列に来ていた数人の貴族男性が馬に飛び乗り、マーガレットの後を追う。
豪華なウェディングドレスのマーガレットは、風に翻らないようにドレスを押さえて馬を駆けている。
慰問に訪れている孤児院に馬を繋ぎ、男性達と塔の近くに向かう。
風に繊細なレースの白いドレスをたなびかせ、礼服の男性達を従えて歩む様は、抒情詩にでてくる女神のようでさえあった。
「私はグラント公爵令嬢マーガレット!
鐘突塔のレンガが落ちてきて、倒壊する危険があります。直ちに避難してください。」
塔の前の広場で風にもかかわらず店を出していた者や、住民達の誘導を始める。
大丈夫だろう、と言う者もいたが、公爵令嬢の指示に逆らう訳にもいかない。
ガラガラ、レンガの落ちる音が大きくなっていく。
弱くなっていた風が一瞬突風になった瞬間、塔が大きな音をたてて崩れ落ちた。
土煙が治まると、店や住居にレンガの塊が直撃していて、大きな穴が開いていた。塔は上半分が崩れ落ちて、中の階段がむき出しになっていた。
音に気付いて駆け付けた自衛団に現場を預けて、マーガレットは孤児院に向かう。
「あら、貴方ケガをしているわ。」
マーガレットが貴族男性に声をかける。
「レンガの破片が飛んできたのです、大したことありません。」
「軍は、未明の突風で被害のあった地域に出動していて、とても手が回らない。我々が動けてよかったです。
今、貴族の誇りを感じてます。」
嬉しそうに言う若い貴族男性達に、マーガレットも返答を窮する。
この結婚式に参列するほどの家柄である、高位貴族に違いない。
「マーガレット姫、数々の噂を聞きますが、貴女は人々の為に動くのですね。」
男性の一人が、マーガレットの行動に感嘆する。
いや、それ違うから、たまたま目についただけだから、マーガレットの言葉は出すことがかなわない。
父の指示を守って、微笑んでおしまいにする。
勝手に想像してくれ。
埃まみれで孤児院に戻ると、馬車で来ていた侍女達がマーガレットを取り囲む。
ドレスの埃を落として、化粧をなおす。教会に置いていったベールを被せ、花嫁姿に戻った。そして連れて行った先は、孤児院に併設する教会、グラント公爵とギリアンが待っていた。
「やぁ、マギー綺麗だね。
さっき橋の視察から帰って来たとこだ。」
ギリアンがマーガレットの手を取り、公爵の元に連れて行く。
「綺麗だよ、マーガレット。」
公爵はマーガレットの手を取ると、自分の腕に回させた。
「お父様。」
公爵のエスコートで向かった先には、レイクリフが立っていた。マーガレットを見ると、眩しそうに微笑む。
その側には、一緒に戻ってきたであろうジルベールと副官のイースがいる。
シスターや子供達に祝福され、レイクリフとマーガレットはその教会で結婚式を挙げた。
参列者は、ジルベール王子、グラント公爵と嫡男ギリアン、イース、マーガレットと共に大聖堂からきた貴族達。大聖堂での絢爛豪華な式ではなかったが、参列者全てから祝福された。
風がおさまった教会の外には、たくさんの市民達が集まっており、二人が出て来ると大きな歓声が沸き上がる。
「私、幸せだわ。」
マーガレットの言葉にレイクリフも余韻に浸る。
これからずっと、マーガレットが幸せに過ごせるようにするんだ!
花嫁姿は言葉にできないぐらい綺麗だ、俺は幸せだ。
「今だから言うけど、貴方って、私の中では評価マイナス215点、早く原点になるように頑張ってね。」
ニッコリとマーガレットが微笑む。
「え?!」
常に主導権を握られているレイクリフには、課題がいっぱい。
がんばれ、レイクリフ。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
1/16~2/21 31話
まだまだ、前途多難そうなレイクリフとマーガレットですが、これで完結とさせていただきます。




