STEP70 食肉植物
減量中
エミリアは内心で焦っていた。
かつての特性はすべて失っている。
超人的なパワーも、銃弾を受け止める程の鎧骨格も。
この絡みつく蔦を、どう攻略すればいいのか。
「んっ!」
足を思い切り引いて千切った。
すると蔦はたちまち枯れていく。彼女はサラを抱っこして――思っていたより重く苦労した――シャトルが植物に浸食される中、辛うじて応急セットを取る。護身用の武器も取りたかったが、辛うじてナイフ一本を手に取れただけだった。
「おいおい……どんなトンデモ植物ですかねったく!」
どうやら、蔦は栄養を求めて成長しているようだ。それを切り裂きながら外へ脱出する。
「――――!」
声が聞こえた。
エミリアは咄嗟に飛んできたものを避ける。
――火矢だった。
「誰……かな?」
飛び道具は、人間が使う武器だ。
まして、火を恐れる野生動物は、それを使うはずもない。
影は、もう一本の火矢をつがえると、放つ。
「っ!?」
それはエミリアたちに向けられていた。
サラが力を振り絞り、血のシールドでそれを防ぐ。
影が慌てたように身構える。
「大丈夫か、サラちゃん?」
「なん、とか……」
火矢を引き抜いて松明代わりにし、森へと足を踏み入れる。
追ってくる気配はない。彼らにとって、植物は何よりの脅威のようだ。
「建物が残ってるの、彼らが使っていたからか」
移住期、人類は全てが地球を脱出できたわけではない。
金のない者、犯罪者、家のない者、様々に。
彼らは最悪の環境の中、子孫を残せぬまま滅びたと考えられていたが、そうではなかったようだ。
しかし、技術が全て残っていたわけではなく、マンパワーも足りず、維持が限界だった。
「あれで逃げてるつもりかね? ボク達を誘っているようにも見えるけど」
獣道のように植物の道ができている。
まるで、ついて来いと言っているかのように。
隣のサラの足取りはおぼついていない。
ガスマスクをしてもある影響――
「植物の放出する、ガスか花粉か……」
マスクは有害物質を優先的に吸着するフィルターを採用している。
通常、有害ではない花粉をブロックすることはできない仕様だ。
「す、すいません……足を引っ張ってしまって」
「仕方ないさ。この状況、引っ張るのはボクかもしれないからな」
ネロの通ったと思われる道の植物は、すべて枯れ果ててしまっている。
誘っているのか、それとも……。
☆☆☆
G-ドライブの製造方法は、謎に包まれている。
基本原理は知られている。
空間をゆがませ、その歪みで縮んだ場所を一気に突き抜ける。
しかし、設計図は一切残されておらず、コピーするほかないというのが現状。今使用されている物は、大半が移住期に製造されたものである。
「……来ないでくれよ」
懇願するようにネロは言った。
「来られたら――決心が鈍るだろ……」
ネリーが持っていた運命、それは――
「あんな別れ方で、ボクが納得すると思うのか?」
「するわけ、無いよな……」
秘宝を収めた袋を置く。
そして背のエドを引き抜く。
「これ以上ついてくるなら、殺す――」
「やってみな」
一足で距離を詰められる。
エミリアは慌てて下がろうとしたが、足にツタが絡みついて転んでしまう。
胸を足で押さえられ、喉元に切っ先を突きつけられる。
「俺はこの世界、そのものを操れる」
「ぐっ……」
植物が彼女の四肢を拘束する。
「分かったら……っ!?」
ネロの目に血が降りかかった。
「サラ……お前」
オニキスが近くにある以上、サラにもそれを操ることができる。
植物の支配が緩んだ瞬間、エミリアは拘束を振り払い、足をつかむ。
「調子に乗るなよッ!」
「言ったろ」
今度は見えない手によって押さえられているかのように感じる。
「俺は全てを操れる」
操っていた血が、サラの体に逆流した。
「ぁっ!」
「だからもう来るな。お前らじゃ敵わない」
再び袋を拾うと、ネロは再び姿を消した。
「……甘いんだよ」
エミリアは端末を取り出し、彼の靴に仕込んだ発信機の位置を探る。
「にがしゃしないぞ」




