STEP68 運命の時
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『さーてさて、議長閣下の演説まで後10分となりました――クソ兄貴様はいかがお過ごしでしょうか? ま、聞くまでもないか』
エミリアは鼻で笑ったように言った。
これを聞いた兄が、いつ力を奪ってくるかもわからない。
『今からボクの優秀な相棒がお前のお宝を盗みに行く――首洗って待ってるんだな』
通信を切った。カメラの映像から誰もかれもが大慌てで発信元を探しているのが分かる。
「言ってくれますね……俺が失敗したらどうする?」
「しないだろ? なんてったってボクの最高の相棒なんだぜ、キミ達は」
「はぁ……昔っから、お前は人使いが荒い」
ネロはため息をついてマフラーを巻きなおす。
「行ってくる」
「うむ、期待してるぜ」
管制室の扉が開け放たれる。彼は外へ飛び出す。
それを見届けたエミリアは我慢をやめ、胸を押さえた。
「っぐ……てて――思ったより早いな、クソ兄貴様」
聖杯により与えられる力は限定的なものだ。所有者が望めば力を授け、望まなければ力を失う。
彼女に与えられていた数多の特性は全て聖杯の力によるものだ。
故に、議長の不信を買えば、すべて無くなる。
「あぅっ!」
瞳の色は、赤からきれいな青へ。
髪は真っ白ではなく少し灰色がかった銀髪に。
「……思ったより、体が重いなぁ」
筋力も、長大な寿命も、後天的に与えられたものはすべて失ってしまった。
自分自身で得た物以外は。
「あとは、頼んだ……」
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「全ては、運命の通り……こうして、君と出会うのも予定通りだ――運命の子よ」
「そりゃ、エミリアが触れ回りやがったからな」
議長はデスクの上に秘宝を全て並べていた。
赤黒く輝く卵型の宝石――ブラディオニキス。
炎のようなオレンジ色に煌く紡錘形の宝石――フェニックスライト。
純銀のゴブレット――禁じられた聖杯。
黄金のペンダント――アポロンの炎。
今にも崩れ落ちそうな羊皮紙の束――シヴィラの書。
後はまだ見ぬ最大の秘宝、センターオブユニバースがそろえば世界の再構成が始まる。
「あんたが運命を知ってるなら――諦めて降参してくれないかな? あんたは“力を制御できずに死ぬ”」
「そうだな。シヴィラの書には、そう書いてあった――故に私はエミリアを求めたのだ」
議長はネクタイを緩め、上着のボタンを外す。
「彼女の血を得れば、私も運命に縛られなくなる」
「どうかな……俺にはそう思えないがな」
「冥土の土産に、成功の秘訣を教えてあげよう」
ネロは右手にヨミ、左手にエドをそれぞれ構える。
「それは“耐える”事だ。どんな強者でも、どんなに困難な壁でも、時間の前では等しく無力であるからだ……」
「けっ! 言ってろ……」
先に手を出したのはネロだった。
反射的に飛び出し、上段斬りを繰り出す。左腕で防がれるが、鋼鉄のようで斬ることができない。
「ふむ、いい腕だ……予定通り、君から仕掛けてきたな」
「じゃあ運命通り、消えてくれよな!」
力は拮抗していたが、押し飛ばす力に負ける。
負けじとネロは足下を狙うが、こちらも固すぎて斬れない。
「どうなってんだよ……っ!」
「とある星域には、鋼鉄の体を持つ種族がいる。その力だ」
下腹部に蹴りが命中する。胃の中身が出そうになるのを必死でこらえる。
「姿は違えど、君と私が戦うのは運命。君は戦場をさすらう傭兵として、私は連盟軍の最高司令官として」
「……デーク・タイター将軍が起こした要人暗殺計画が成功し、瞬く間に各国を征服した。その最中で秘宝が終結、オニキスの感情に支配されたサラ王女が両軍を崩壊させた」
「その通り、その運命では、確実に私は死んでいた」
ぶれるように議長の姿が消える。体中に強い衝撃が走り、先程嵌め直した肩が再び外れ、エドを取り落としてしまう。
反射的に、ヨミを振り上げると、その腹の部分に蹴りが命中する。
一度も刃こぼれすること無かったそれにひびが入った。
再び蹴りが命中する。
ひびから歪み、折れてしまった。
「くそっ!」
「運命は、確実に変わってきている。私に利する方へ」
議長はネロを押さえつけ、その腕に注射器を刺す。
「君の血が、私に勝利をもたらすのだ」
採取した血を聖杯にそそぎ、一気に飲み干す。
「さあ、君の運命が決まる時だ……」
「まだ――終わっちゃいないっ!」
ネロは取り落としたエドを引き寄せた。しかし反対側からも引き寄せられる。
「素晴らしき力だ」
「ざ、けんなっ! それは俺達の武器だ!」
引き合う力が拮抗する。
「エド、とは……言い得て妙だ」
「なん……だと?」
「穢土は生者のいる穢れた世界……一度死んだ君には――冥界の方がよく似合う」
奪われた。仕方なくヨミを構える。
折れかけの剣でどこまで戦えるかわからない。
「楽にしたまえ」
ヨミがへし折れ、切っ先がマフラーを裂く。
「エミリアには、君の生首をプレゼントしよう。そうすれば私に再び忠誠を誓うことだろう」
露わになった首を掴まれる。
抵抗しようにも、鋼鉄の体には何もできない。
「後は私に任せたまえ」
――永い、夢を見た……
議長の腕に紐が巻き付く。
首を取ろうとしていたのを、思い切り引かれた。
「……我が子と共に、安らかな日々を過ごす夢を」
「母さん……」
それを引くのは、黒いイブニングドレスに身を包む女性。
「……それを、ただの夢にはしたくない」
「シヴァ・カムイ……できそこないの暗殺者め」
飛んできたメスを、議長はエドで弾く。
紐を切り裂くとネロを離し、彼女の方へ向き直る。
「私は運命に味方されている。君に勝ち目はないぞ」
「……母は、子を守るためならば勝ち目がなくとも戦う」
シヴァは包帯から作った紐を繰り、攻撃をかわしていく。
彼女の本領は、不意打ちや騙し討ちからの暗殺。正面戦闘は得意ではない。
「君も、日傘を使わなければ大したことはない」
「……」
隙が無い。気のゆるみや、油断、そういった弱体化が。
だが、ネロは自分に意識が向いていないのに気付いた。
「ふん、伝説の暗殺者も、私の前では無力だ……」
紐を使い果たしたシヴァは身を固め、後ずさりする。
ネロはヨミの断片を掴み投げつけた。当たらなくてもいい。一瞬、気をひければ。
「!? 無駄なこと――うっ」
議長はそれを躱した隙に、シヴァは隠し玉として持っていた紐を彼の首に巻き付けた。彼は慌ててそれを切り裂こうとしたが、シヴァに距離を詰められ、腕を弾かれ組み伏せられる。
ネロは聖杯を引き寄せ、握り締める。それが伸長し、王笏のような形状となる。
「悪いけど、あんたに宇宙を消させはしない」
議長の体が脈打つ。
「な……に?」
「母さん、離れて!」
シヴァは包帯を手放し、距離を取る。
禁じられた聖杯は、人体を好きなように改造するための秘宝ではない。
ブラディオニキスに蓄えられた生命の設計図を管理し、新たな世界で知性ある獣を生み出す装置。
設計図を書き換え続ければ、いずれは破たんする。
「言ったろ。“力を制御できずに死ぬ”って」
聖杯を正しく使わなければ、血に宿る感情の力も同時に取り込むこととなる。平穏な心を持つうちは均衡が保たれていても、感情が高ぶれば崩れる。
「死にたくない……っ! 私は! 永遠に生きるために生まれてきたのだッ!」
「成功の秘訣、忘れたのか? 耐えてみな」
運命は、変えられない。
ネリーと、マラク・タウスの戦いは、ネリーが勝つ。
そしてすべての秘宝を手に入れた彼女は――
「予告通り、お宝は全部いただくぜ」
議長の体は、煙のように消え失せてしまった。
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「――っここ、は?」
「目が覚めたかい、お嬢さん」
ラズワルドは四本の腕を押さえる手を緩めた。
「私は……何を?」
「マラクのやつが死んだのだろう。それであんたにかかっていた暗示がすべて消えた」
彼は体の誇りを払った。周りの壁がえぐれていることから、相当な激戦であたっことがうかがえる。
「…………」
「ん? どうかしたのかい?」
「あなた、あの伝説の宇宙飛行士、ラピス・ホープ?」
「その名では呼ばれたくはないがな」
「つまり……何千年も生きてる、すごいっ!」
全身を四の腕で押さえつけられる。
「すごい! すごいよっ! そんなに長生きする生き物、初めて見たっ!」
「……おいよだれが出ておるぞ」
「調べさせて! あなたの体の、隅から隅まで!」
「はあ?」
どうやら、厄介な人物に目を付けられてしまったようだ。
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――――エミリアの船
「――――――ッひょ~本当に全部そろったなっ!」
すべての秘宝を前に、エミリアは子供のように興奮していた。
「あの……危なくないですよね?」
一度痛い目に遭っているサラは遠目にそれを見ていた。
【全てスキャンしましたが、全く問題はありません。時にサラ氏――ラブコールですよ】
「っ!? ちょ皆さんの前でそれを言わないでくださいよっ!」
「ラブ……お前、恋人いたのか?」
「ネロさんには関係ないですッ!」
彼は自分の部屋に引っ込んでしまった。向こうは向こうで大変そうだった。
「ネロ、お前はいいのか? (自称)お母様と別れちゃっても」
「いいんだ。ずっと一緒にいても、別れるのがつらい」
ネロは切り裂かれたマフラーを編み直しながら言った。
「なにさ、ボクのことはいいから一緒にいればよかったのにな……はぁ、いいなぁ」
思わず、すべてを打ち明けてしまいそうになった。
なぜ一緒にいれないのか。
なぜ別れなければならないのか。
「――M.I.C.コード137」
【了解しました――G-ドライブ、起動】
M.I.C.を完成させたときに組み込んだコード137。
それは、終わりに向けた合図だった。
「おいネロッ! どういうことだッ!?」
「手に入れるんだ。センターオブユニバース――宇宙の原石を、な」
【座標特定完了。目標地点:太陽系第三惑星――地球。ワープを実行します】




