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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
68/80

STEP65 全てを捧げて

☆☆☆


『認証完了。特別コード00734。解錠します』


 特別捜査官のIDはまだ失効していなかった。滅ぼすのだから、そうする必要もないということだろうか。

 デビーは専用のリフトに乗り込み、管制室のある階のボタンを押した。


「うっ……」


 胸を締めあげられるような痛みを感じ、膝をつく。口から血の混じった咳が出る。

 体の節々も痛む。できることなら今すぐ横になりたい。

 だが、この痛み、監禁されているままの苦しみのに比べれば何ともない。

 暗い部屋に閉じ込められ、ろくに食事も水も与えられず、自由になれるともわからない恐怖。

 今もこの胸を蝕む苦しみなど、肉体の痛みに比べれば何ともない。

 彼が感じている苦痛に比べれば。


「恋、ですか……」


 復讐に生きる自分がするとは思ってもいなかった。その復讐も、終わってしまっている。

 その先の人生など、考えたことは無かった。


『――サラ・オルタンス・カリナン元女王ですか?』


 あの時声をかけたのは、そういうことだった。惚れてしまっていたのだろうか?

 いずれにせよ、出会えばわかる。


「――君には失望したよ」


 管制室には先客がいた。

 良く見知った男だ。


「フレデリック・ソーン……あなたが、なぜ?」

「議長命令ですよ。ここにいろ、と。まさか、君がここに来ることは推理できなかったが」


 体が思ったように動かない。目の前がくらくらとし、立っているのもやっとだ。


「どきなさい……! 実力を行使しますよ」

「やれるものならやってみたまえ。やれるものならね」


 痛いところを突かれた。

 精密機械が多いこの部屋での放電は危険だ。

 破壊すれば、二度と牢の扉は開けられなくなる。


「警告はしましたよ」


 銃を抜き放ち、引き金を引いた。

 が、弾はあらぬ方向へ飛んでいく。


「どこを狙っているんだい?」

「っ……」


 反動に耐え切れず、しりもちをついてしまう。

 彼女の体には、もうその力も残っていなかった。

 命を削っての放電、それ以外にできることは無かった。


「これは、予測できましたか?」


 左腕を持ち上げ、傍らのパネルに向ける。

 微弱な電流を流し、機械を誤作動させた。


「うん、そうすると思ったよ。目的のためになら何でも行う、君の動きは実に読みやすい。解き放ったところで、彼が君の所までくると思ったのかい?」

「思っているわけないでしょう……全力を出すためですっ!」


 最後の放電。

 辺り構わず電撃の槍が貫いていく。ディスプレイが砕け、中の基盤を焦がしていく。

 電熱で服が焼け焦げ、眼鏡のフレームは溶けていく。

 電灯が明滅し、砕け、カラスの欠片が降り注ぐ。

 

「ぁ……あぁ」


 体中から煙が上がっている。

 皮膚は焼け焦げ、両腕はもうピクリとも動かない。

 足は辛うじて地面を踏みしめているが、もうふらついている。

 目はろくに世界を捉えてはいない。

 耳は音を拾わない。


「――――――」


 命を削っても、斃せなかったか。

 きっとあの男は、逃げ出した囚人たちを捕らえに行くだろう。抵抗すれば、容赦なく殺す。

 

「……っ!」


 もう電気を生み出すことはできなかった。

 止めなくては――なぜ?

 もう思い出せない。

 この男を、自由にさせては……。






























☆☆☆


「――んがっ!?」


 大きな音で目が覚めた。

 サラは慌てて周りを見渡した。牢のドアが開いていた。

 思わず飛び出しかけたが、留まる。

 逃げ出したところをズドンとやられるのではないのだろうか?

 警戒して外をこっそり窺う。


「あっ!」


 廊下を走っていたほかの囚人たちが散弾銃で撃たれていた。

 

「なるべく、ひと固まりでいてくれ。その方が一発で済む」


 会いたくなかった人物がいた。フレデリック・ソーンだ。

 

「どうせ、隠れていたって殺すのに変わりはない。とっとと出てきてくれないかな?」

「ぅ……」


 ゆっくり息を吸い込んだ。血を操るのが能力、体中の血を操って身体能力を向上させる。それができれば――突破できるかもしれない。

 体を巡る血を感じ取る。体の隅々まで巡っている、暖かい力の流れ。


「ふぅ……っ!」


 両足に力を込め、跳び出す。

 想像の何倍も跳べている。そのままの勢いで壁に激突した。


「……その動きは予想外だったよ」

「ば、なかにしないれくらさい」


 鼻から噴き出す血を押さえてサラは言い返した。

 銃口が向けられたので鼻血を操って盾にする。


「なんだい? それは」

「秘密です!」


 ショットガンの弾を全て防ぎきれず体をかすめていく。だが、流血すればするほど操れる血も増える。

 しかし、攻撃をすべて読まれ、逆に避ける先に銃弾を放られダメージを着実に重ねていく。

 読まれるのなら、そのさらに先を読む。二手三手先を読んで行動する。

 裏の裏を考え、その先を行く。

 

「!」


 右足に被弾した。

 たまらず転がり、血の操作が止まってしまう。


「やれやれ、読むのにとても苦労した。君が敵でなければ、良い友人になれただろうに」

「――“まだ終わりではない”」


 体が自然と動いた。右足が痛むがお構いなしで動いていく。


「いったたたたた!」

『我慢して! あなたに死なれては困る!』


 憑依されているのだ。サラの中にあるわずかなスピカの血が干渉して体を動かされている。

 だが感覚はサラの物だ。右足が地面を蹴るたびに耐え難い痛みを感じる。


「うぎゃっ!」


 なにかにつまずいてしまった。

 誰かの体だ。

 そばに焦げた捜査官の認証カードが落ちている。

 煤を払うと、辛うじて文字が見える。

 

“Debbie Dorothy”


「デビー、さん……?」


 サラは、足の痛みも忘れ、呆然とそれを見つめたのだった。





――――議長演説まであと20分























☆☆☆


 銀髪碧眼の少女は思った。

 この男は、あのキラキラの持ち主なのではないか、と。


「エミリア、いい名だね」

「……?」


 この男に取り入れば、キラキラを手に入れられるかもしれない。

 少女は、生まれて初めて“生きる”こと以外の為に頭を使った。


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