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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
66/80

STEP63 秘宝の集結

☆☆☆


「生まれ変わり、ですか……にわかには信じがたいですが」

「俺だって信じられないよ。でも、それが秘宝の力だ」


 背中の重みがなぜか懐かしい。記録から、ラズワルドの居場所を突き止める。地下の独房だ。


「あんた、体力は大丈夫か?」

「問題ありません……左手以外は」


 デビーの右腕は問題なく動いている。老化が早まる代わりに、傷の治りも早くなるようだ。

 それでも、最大火力をそう何度も使わせるわけにはいかない。


「この下だな……」


 入口は瓦礫で埋まっていた。押しのけて、扉を確認する。固く閉ざされていたので斬って開ける。配線がショートして火花が散っている。

 暗い通路からは、時折何かを叩く音が聞こえる。

 閉じ込められたまま、気が狂ってしまったのだろう。


「っ!」


 ネロは剣を引き抜き、鍵を破壊する。

 両腕を広げ、通路を駆け抜ける。

 次々と鍵が壊れて扉が開いていく。


「……行きな! 後はお前らの自由だ」


 扉が開いても、中の囚人は出てこない。それでもかまわずに通路を渡っていく。


「何の真似ですか?」

「体が、勝手に動いた」


 更に奥、最深部のフロアに、ラズワルドは収監されていた。

 少年の見た目から、青年に。

 面影を残しつつ、成長していた。


「それが本当の姿か?」

「ふっ……老いぼれに何の用じゃ」


 フェニックスライトには生命のエネルギーを司り、成長を自由自在に操り時には子供や大人へと姿を変える。その効果が切れれば元の姿に戻る。


「エミリアが操られている」

「ほぉ……あのバカ弟子が」

「それに、秘宝を奪われた」

「!? それは、本当か……?」


 ラズワルドは一気に目つきを変え、立ち上がる。


「まずいのぉ……あやつ、計画をそこまで進めおったか」

「秘宝がすべてそろうと何が起こるというのですか?」

「宇宙が滅びる」


 デビーの問いに、何事もないかのように答えた。表情から、本当であるように見える。


「なっ!? 信じられません」

「ただ滅びるのではない。もう一度ビックバンが起こるのじゃ。その結果今ある宇宙が消える」

「……宇宙が滅びても、生き残る方法が一つだけある」


 ネロにはどうすれば再びビックバンを起こし、適切に宇宙を再構築できるのか、その方法が分かる。


「自分が引き起こす。それだけだ」

「それでは……生き残れるのはたった一人だけ、ということですか」

「ああ、それ故阻止せねばならぬのだ……運命にあらがっても、じゃ」

「…………」


 その言葉にデビーは頷いているが、ネロはそれが無理であることを知っている。

 シヴィラの書は、センターオブユニバースと対になる。全宇宙の出来事を、そのまま記した書物なのだ。本来、ただ一人しか知ることのできない運命を万人に知らしめる効果がある。

 運命は、変えられない。今までの全て、シヴィラの書には記載されている。


「どうする? エミリアがすべてにおいての障害になりうるぞ」


 だが――書かれていない場合もある。例えば、かつてのネロの場合、いわば魂と肉体が分離した状態であった。それゆえ魂の側には運命に縛られることは無かった。

 同じように、エミリアも運命には縛られない。だからネリーが予定外にセンターオブユニバースに接触し、結果ネロという別の人間に転生する羽目になった。


「マラクの洗脳は厄介じゃ。相当強烈なショックを与えなきゃ解けん」

「例えば――死んだ人間が生き返る、とか?」


 ネロは意識してネリーの口調に変化させた。


「死なせたくなかった人間が――あたしが実は死んでなかった、って相当なショックのはずだ」

「……やってみる価値はありそうじゃな」
































☆☆☆


「守るって……どうやってですか?」


 サラは困惑していた。

 散々振り回しておいて、守ってくれはいくらなんでも虫が良すぎる。


「あなたは私と同じくらいオニキスの感情に適合した。そしてそれを乗り越えた。これはあなたにしかできない事よ」

「でも……牢獄の中からじゃ」

「私たちの力を忘れたの?」


 スピカの腕が血に変わる。


「血は私たちの全て。たとえその体を離れても操ることができるわ」

「だとしても」

「あなたが本体にたどり着いてくれれば、止められる。任せたわよ――」

















 意識が戻る。

 

『急いで――時間が――』


 頭が痛い。食事が機械的に排出される。やはり今日も液体のみだ。

 自然に、怪しまれず出血するなら――口の中か。

 人すくいして、わざと噛む。これが固形だったらいいのに、というそぶりで。


「いっ!」


 思い切り口を噛み切った。皿に血がぽたぽた垂れる。


「……う~」


 しばらく本気で悶絶していたら、下げられてしまった。

 慌てて意識を集中する。今、自分の血はどこにあるのか……。

 感じ取れた。見えるとか聞こえるとかでなく、感じた。スライム状にまとまり、するりと動いていく。自然と、オニキスのある方向が分かる。移動している。それを追いかけていく。

 追いついた。誰かが運んでいる。容器の中なのか、接触ができない。


『回収、してきました』

『ご苦労だったね、エミリア』


 水の中で聞いているような音だ。くぐもって聞き取りにくいが、議長とエミリアが話しているようだ。


『……浮かない顔だ。仲間を手にかけたことが、そんなにショックだったかい?』

『いえ、そんなことは――』

『嘘をつくな……君は揺らいでいる。悲しんでいる――やさしさが芽生えている』

『それは……』

『“君にそんな感情(きのう)は必要ない”“辛い過去など忘れてしまえ”』


 声の質が変わった。さっきまでと、今の声。まるで染み込ませるような言い方だ。


『うっ……わたし、は』

『“私に尽くすことが、君の幸せだ”』

『おにい、さまに……尽くす』

『それでいい……』


 洗脳のトリックが分かった。声が違う。普通に話すときと洗脳するときとで声を変えているのだ。ただし、普通は気付けない。

 そんなことより、オニキスだ。到達すれば――

 

「あっ――!?」


 急につながりが途切れた。そこに自分の血がなくなったことが分かる。


「っもう一度――やらないと」


 だが次の食事の時間はまだ先だ。

 それまで何もなければいいが……。























☆☆☆


 全ては与えられたまがい物。

 人格も、感情も、能力も。

 だが――この気持ちは、この気持ちだけは――

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