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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第五章 希望の炎
42/80

STEP39 歌う殺し屋、再び

☆☆☆


――???年前


「くくくっ……よーやく化けの皮を剥がしたのぉ」


 でっぷりと太った男が顔汗を拭きながらエミリアを見下した。

 彼女は両腕を後ろ手に拘束されており、無理やり膝をつかされていた。


「ありましたぜ、旦那」


 配下の男は彼女の上着のポケットから大粒のダイヤモンドを抜き取った。

 見事な装飾がなされており、光がそれらを一層際立たせている。


「ほっほっほっ……くくく。その品は、吾輩が財産の半分を注ぎ込んで作らせたものでの。賊が侵入したと聞いてぞっとしたわい」


 屋敷の主である太い男は、自分の腹の脂肪をゆっさゆっさと揺らしながら前へ歩く。

 両足で支えきれない重さをステッキで補ってはいるものの、それもきしんで今にも折れそうであった。


「吾輩の部下には、とても耳の良いものがおってな、貴様がどんなに足音を消そうとしたところで無駄のあがきじゃった、ということだ」

「それで? もうキミにお宝は返したし、開放してくれないかな?」

「……よいぞ。ただし――」


 指示を受けた配下の男たちは、エミリアの体を持ち上げ、窓の外――切り立つ崖の下の川へ投げ飛ばした。


「生きていれば、な。くくくく」













 水というものは、液体のくせして存外に固い。

 高くから着水すれば、固い地面に叩きつけられるのと大差のない結果となる。

 いくらエミリアの体が頑丈とはいっても、限界はあるのだ。


(やっべ、ひざの関節外れた)


 川の底に沈みながら呑気に考えていた。どうせ、息を止めたままでも半日は死なないのでそんなに焦りはない。

 それに、“相棒”を信頼しているので何とかなると思っている。

 ぐい、と体が引き上げられる。


「――――っぶはっ……あー死ぬかと思った」

「……そのまま死ねばよかったのにな」


 死なないとわかっているので“彼女”からの扱いは雑だった。


「酷いこと言うなよ、ネリー」

「っほら、手ぇ出せ」


 ネリーの剣の腕はかなりのものだ。相手の肉だけを的確に切り離すことができる。それゆえ拘束具を破壊することなど造作もない。


「ふぃ~何とかうまくいったぜ……っぅぇ」


 エミリアは飲み込んでおいたブツを吐き出した。

 盗みだした本物の宝石だ。勿論、懐に忍ばせていたのはよく似たレプリカである。


「はぁ……その石ころ、売ればいったいどれだけの人が苦しまずに済むんだろうな?」

 

 ネリーは、ずぶぬれになってしまった服を脱いでいると、何やら視線を感じた。

 

「……なに?」

「いやぁ……こうして改めてみると、キミも女の子だったんだなぁって――――ぶっ!?」


 最後までセリフを言わせてもらえなかった。思い切り蹴り飛ばされた。


「ってて……冗談だって――――おい、その傷は?」


 彼女の括れた腰の辺りに拳大の弾痕があった。


「ああ、これか……昔、兄妹を庇って、な」

「ふぅん……ボクにも知らなかったことがあるとは……この際だし、もっと詳細な身体検査をぅぐ!?」




















――現在


 気が付くと、海を漂っていた。

 どうしてこうなったのか、エミリアは詳細に思い出すことにした。

 

 M.I.C.の計画の通り、惑星内に突入したまではよかった。しかし、数秒後には軍のレーダーに引っかかり、あっさりと撃墜されたのだ。


(お師匠様から逃げられたのはよかったけど、この展開はおいしくないなぁ)


 下手に浮上して軍艦に見つかるとよろしくないので、直感に従って泳いでいく。

 体がバッキバキになっていたが、無理にでも動かした。かつてのように“相棒”の助けは無いのだから。


 岩礁を見つけた。

 上に軍の施設がないことを祈りつつ、登っていく。


「――ふぅ」


 何もない、孤島のようだった。

 少なくとも、軍事衛星に捕捉されるまでは休めるだろう。


「さーて火でもおこそ――」


 どうやら、先客がいたようだ。

 暖かい気候なのに、マフラーを巻いていて、黒いワンピースを身に着け、これまた黒い編み上げのブーツに、背中の一対の剣。肩まで伸びた薄紫色の髪に、覇気の欠けたけだるそうな表情。


「……まさか、こんなところで」


 かつて、エミリアたちを窮地に陥れた殺し屋、セイレーン。

 こんなところで、偶然出くわしたのだった。


















☆☆☆


「やれやれ、勝手にはぐれおって……出来の悪い弟子じゃのぉ」

「喋るな!」


 ラズワルドは銃口を突き付けられ、しぶしぶ両手をあげる。

 敵の数は20前後、どれも一筋縄ではいかないつわものばかりだ。

 しかし、こんなもの、かつて味わった恐怖に比べれば何のことはない。


「やれやれ……老いぼれには――ちときついのぉ」





 






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