STEP38 お前は残れ
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【レーダーの捕捉を逃れました。しかし、見つかるのは時間の問題かと】
M.I.C.はさらに情報を付け加える。
【状況的に、接近するチャンスはもうありません。今逃げ出せば警戒網は強化されるでしょう】
「お前がハッキングして軍のシステムをダウンさせることはできないのか?」
【不可能です。マスター、私がいくら宇宙一のAIでもできないことはいくらか存在します】
相手は連盟の軍隊、それも精鋭だらけの特殊部隊。使用している機材も一筋縄ではいかないだろう。
そんじょそこらのAIに敗れたとなれば面目丸つぶれである。
「で、どうやって潜入すればいい?」
【スイングバイ航法で惑星に最接近し、その瞬間に着陸用のシャトルを射出することで突入は可能です】
「つまり、入ってからはどうなるかわからないって事だな」
【はい】
エミリアはやけに反っている腰を治しながら考える。
一か八かの突入作戦。しかも母船の安全は保障できないかのような言い方をしているではないか。
それならば、やることはただ一つ。
「ネロ、お前は残れ」
「……ああ、わかった」
「やけに素直じゃないか。いったいどうしたっていうのさ?」
「何の理由もなしに留守番って言われることはない。そう思っただけだ」
彼女は思わず頬を緩めたが、すぐさま引き締め、ラズワルドに向き直る。
「と、いうわけで、付き合ってもらいますよ。お師匠様」
「やれやれ……人使いの荒い弟子じゃ」
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ここは、どこだろう……?
さっきまで、王宮にいたはずだけど、今は見知らぬ場所にいる。でも、どこかで見覚えがある。
ドームで覆われている空、だがそれでいて不思議と明るい。
そして何より、人々の活気で溢れている。
ああ、わかった。シェオルだ。ブラディオニキスのあった、あの星。
だがどうして、こんなにも人がいるのだろうか。
文明は滅び、人などいないはずなのに……。
道を進むと、誰かの肩がぶつかった。
謝ろうとしたら別の誰かとまたぶつかる。そしてまた、また、また……悪意のあるようにわざとぶつかられているように思えて仕方ない。
思わず膝をつくと、また場所が変わった。
神殿だ。あの宝が収められていた。
そして入口の前には、一人の老人を先頭とした一団が列をなしていた。皆が皆、若く健康的で、特に一番後ろの少女は働き盛りのようにも見える。しかし、誰もが暗い表情をしていて、まるで葬式に参列しているかのようであった。
老人が扉を開けると、若者たちはゆっくりと中に入っていく。
知っている、この先には犠牲を強いる関門があること。そして察しがついてしまった。何のために彼らが連れられているのか。
生贄にされるのだろう。種の繁栄をもたらすために。
一人目の青年の首が切られた。噴き出した血が空間に吸い込まれていき、道が開ける。
そして当たり前のように彼の亡骸を引きずって一団は奥へと進んでいく。
ずっと、こんなことを続けていたのだろうか? どんなに繁栄を続けていても、いずれは滅びる。
だからあの巫女は、自然に滅びを待つのではなく、自らすべてを終了させたのだ。
私は後をついていき儀式を観察することにした。
とはいっても、この後彼らがどうなるのか、私は知っている。おそらく、あの老人以外は皆殺される。そのための生贄なのだから。
最奥の神殿へ――ブラディオニキスの収められているフロアに到達した。
ここへ来るまで10人近くの人間が命を落としている。私たちは三人で――実質二人でよく突破できたものだ。
老人が指示を出すと、四人の青年が台座に歩み寄り自らの身を犠牲にして生贄の少女が通る道を切り開いた。一番後ろをついてきていた少女は、自分の役割を初めて知ったのか、恐怖のあまり後ずさっている。
「いや……」
引きずられるように台座の前に膝まづかされている。
私は彼女を助けようとしたが、どうにも体が動かない。
まるで、彼女が命を失うのを、私が求めているかのように。
「嫌っ! まだ死にたくないッ! 離せッッ!」
老人は、無理やり少女にブラディオニキスを触らせた。
そうか、触れるだけで死ぬんだ。わざわざ殺さなくてもいいのか。
だとしたらなぜ私は生きている? しっかりと、この両手でつかんだというのに。
「ッ私は――――」
彼女の背中から、赤黒い血が噴き出した。そしてそれは、触手のようにうねり、老人や台座への道を切り開いた青年たちに絡みつく。彼らは瞬く間に体中の血を抜き取られ、ミイラのように干からびてしまった。
何て美しいのだろうか。
私は彼女を見てそう思った。
「終わらせてやる……」
うねる血は、彼女の体へと還り、ブラディオニキスはより一層輝いた。
「この穢れた国を――――終わらせてやるッッ!!」
その瞬間、私は全てを理解した。
なぜあれを触ったのに、生きていられるのか。
頭の中でしきりに響く声はなんなのか。
どうしてこの体が、おかしくなっていたのか。
私が――――秘宝に適合した人間だったからだ。




