STEP37 強行突破
「……それだけは、させませんよ、お師匠様」
話を聞いていたのかエミリアは呻きながら言った。
「なんじゃ、起きておったのか」
「うぐぇ!」
ラズワルドは即座に彼女を逆エビ固めにして行動を封じる。
その体からしちゃいけない音が聞こえるが気のせいだろう。
「あの、そんなにやったらさすがに」
「気にするでない。出来の悪い弟子に仕置きをしているだけじゃ」
心配するネロの声は通じないのであった。
「もとはといえば! あの阿呆に従うからいけないんじゃ」
「っ別にあの人は関係ぃっっっっ!? すみませんすみません私が悪かったですから緩めてっ!」
あの小さな体のどこに力があるのだろうか。不思議でならない。
「小僧、ネロ、といったか。秘宝は危険な存在じゃ……あれは人が御しきれるものではない」
「それは……わかっています。なんなんですか……あれは?」
「材料じゃ。新たな宇宙の」
「は……?」
宇宙の材料、すなわち様々な元素の素があれらに詰まっているとでもいうのだろうか?
それとも秘宝をすべて集めると謎の神様が現れ新世界を作るのか?
どちらにせよ、平凡なネロの頭で理解するのは難しかった。
「そんなことはどうでもよい。今すぐに秘宝は破壊するのじゃ。そうしなければ命が危うい」
「ネロ、従うことはなっっったたたっ!?」
やはり、天敵というだけのことはある。
エミリアの脚が想定外の方向へ曲がっているのは気のせいではないだろう。
「あんなものに頼らずとも、魅力的な宝物はごまんとあるわい。どうしてそれがわからんのかのぉ」
「ほしいんですよ! 私は、綺麗なものが。だから盗むんです! それ以外に理由はぁっない」
途中で何かが折れる音が聞こえたが、決して彼女の骨からではないだろう。
「聞き分けのない弟子じゃ……この辺で張っておいて正解じゃったの」
「見張っていたんですか……?」
「……あの阿呆が“シヴィラの書”を手に入れおった」
「え?」
「っあの殺し屋が言ってたやつか……!」
ネロは不思議な殺し屋のことを思い出す。
その言葉が本当ならば。
「すべての運命が記されている、書物」
「よく知っておるのぉ……とはいっても、ほとんどが眉唾物の偽物じゃ。奴が手に入れたものが偽物であることを祈ってはいるが……」
「だが、本物の可能性だってあるんだろ?」
その問いに、ラズワルドはわずかに顔をしかめた。
「もしそうなら……事態は一刻を争うことになるがな。さて、そうこう言っている暇もないわい。とっととこの星域からにげ」
【お話の最中に失礼いたします。不幸にも当船は連盟軍のレーダーに引っかかってしまいました】
「お師匠様、こうなったら行くしかありませんよ」
深い、深いため息が漏れた。
「仕方あるまい。付き合ってやるとするかの」
☆☆☆
熱い……。
ここはどこ……?
空気がすごく乾いていて、息をするたびにのどが痛い。
思わず水がほしくなるけど、周りには乾いた土しかなくて。
日差しがつらくて日陰を探すけど、周りには何もなくて。
そんな私をあざ笑うかのように、熱い風が吹く。
快適な場所を求めて歩いていると、なぜか私は王宮に――自分の家にいて、高圧的な将軍や頭の固い大臣たちの話を延々と聞かされる。
こんな退屈な場所など、出ていきたい。
お話の中に出てくる、自由気ままな主人公たちのように、自由になりたい……。
でも、そんな度胸はない。
父に反抗する勇気すらなくて、自分らしさを素直に表現できなくて、押し付けられる“理想像”に歯向かうように、自分を偽った。
求められなくて済むように、期待されずに済むように、姉を身代わりにして、逃げた。
「――ぁ……ああああああああっッ!!」
気が付けば、誰も彼もが血まみれで倒れていて、自分の両手が血まみれであることに気付く。
不意に、のどが焼け付くように痛むのを思い出す。
一番合理的に痛みを緩和する方法がこれだった。
私は肉塊からあふれ出す血を口へ運び、喉を潤した。
いつだってそうだ。
いつだって、私は合理的に自分の欲を満たしてきた。
何を犠牲にしてでも、望みを……。




