STEP33 本当の姿
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「おいM.I.C.データはとれたか?」
【はい。全データベースにアクセスし、目玉展示品の“飛び上がる猫”の全情報を入手してまいりました】
端末に猫じゃらしに飛びついている猫の彫刻の画像が表示される。
しなやかな体を余すところなく表現されており、思わずため息が出てしまう出来なのだが、やはりエミリアにはその良さがわからない。
【博物館内の公開展示の中で、最も厳重に保管されています。一般公開の終了後は動的センサー、サーモセンサー感圧センサー赤外線センサーその他諸々方式で厳重に守られております】
実際に取りに行くのはもちろん、床に触れないようにしてもマニピュレーターで取ろうとしても警備員に化けてこっそり近づいてもアウト。
「絶対に不可能、です」
「ん? 興味があるのかい?」
「う、安全のため、です」
「まー、それならいいけど……ちなみに、警備システムをダウンさせることは?」
【警備員に気づかれてしまうため現実的には不可能です。逆に警備員を無力化したければ先にシステムをダウンさせなければなりません】
厳重に守られているなら、外堀を埋めていこう作戦は現実的ではない、ということだ。
「うん、じゃあの作戦が十分使えるな。で、気になってたんだけど“ここ掘れにゃんにゃん”と“招き犬”ってのはどんな作品なんだ?」
「それは……」
【データベース上には限られた情報しかございません。すべて噂、与太話の類なのですが犬派猫派の抗争を終わらせるきっかけとなったといわれている作品である、といった曰く話だけは共通しております】
「画像は?」
【残念ながら存在しておりません】
誰も知らない彫刻。なるほど、確かに怪盗を名乗るものなら心をくすぐられそうな作品であろう。
だが、そこで疑問が出てくる。
「ミテッド、君は知ってるんだろ? いったいどうやって隠したっていうのさ」
「う……秘密、です」
「へぇ……なーんか、怪しいなぁ」
壷を被った頭が左右に揺れる。が、これ以上言っても仕方はない。
「M.I.C.、準備するぞ」
☆☆☆
仕事終わりの一杯、ストレスで身を削っている自分にとって欠かせない習慣だ。
特に、度数の強い酒で一気に酔ってしまうのがたまらなく快感だ。
「相席、よろしいですか?」
「ええ……」
きれいな人だ。酔っているのか顔がひどく真っ赤だ。もしかしたら、を期待してしまう。ぜひともこんな美人と熱い一夜を過ごしたいものだ。
「ここには……よく来るんですか?」
「ええ、仕事の気晴らしに、ね」
「仕事?」
「美術館の警備ですよ。全部機械様に任せればいいのに……」
グラスに口をつけた。よく利く鼻にはきついアルコール臭だ。
嗅ぎ慣れない匂い、これは自分のではない。
「ああ、すいません。間違えてしまいました」
「構いませんよ。私も一口、いただきますね」
ぐいっと、彼の酒を一気にあおってしまった。女性にはきついものがあるだろう。
彼女は新しいものをすぐに注文している。
「大変そうですね。警備のお仕事」
「ええ。面倒なことに、いたずらのような手紙が届いてしまって、余計にね」
「面白そうですね」
「笑い事じゃないですよ」
新しく運ばれてきた酒を受け取ると一気に半分流し込んだ。くらくらするほど強かった。
目の前がゆがんでいる、周りの音がストレートに入ってきて……。
「あれ? ……どうかしたんですか?」
「いや、少し…………」
眠気に耐え切れずに、テーブルに崩れ落ちてしまった。
☆☆☆
「――惑星時間2730。予告の時間だね」
【それでは、全警備システムをダウンさせます】
システムダウンから復旧まで約30秒。
無論、誤差はあるが最大限遅くなるよう、専門の人間を今日のシフトに入れないように誘導した。そのせいで今も頭痛がする。なんて酒を飲んでいるんだあの男。
「それでは、予告通り」
センサーの無力化が終わった瞬間展示室に飛び込んだ。天井から蜘蛛のように垂れ下がり、素早くブツを回収した。
復旧し、警備員が異変に気付き警戒網が作成されるまで時間はかからない。
「“飛び上がる猫”はいただきます。それでは」
見えてはいないだろうが、監視カメラに手を振って再び天井裏に消えていった。
「あーあ、食料調達だけが目的だったのに、どうしてこうなったのさ」
盗んだはいいが、何一つうれしくはない。
「すごい、です……」
「いやーそのくらいお茶の子さいさいってやつですよ。はぁ……」
しかし、ミテッドはどのようにして外の様子を見ているのだろう?
その壷にはのぞき穴がない。そんなものがあればすぐさま川の底に沈んでしまう。
音と臭いのみ。不可能ではないが、そこまで感覚が発達している条件は? 祖先が草原に進出していたことだ。だとしたら足が逆関節なのは? 祖先が森林部に進出していたからだ。
そもそも、ミアキスの住人が二通りの進化を辿っているのは彼らが対立していたから――犬派か猫派かで争いをしていたからなのだ。
両者の性質を持っているのは、ありえないことなのだ。
「なぁミテッド」
「はい……っ!?」
一瞬の隙をついて彼女の被っていた壷を脱がせた。
中に入っていた色々なものがこぼれ出たが、彼女の姿が拝めた。
犬のようにつんととがった鼻。これまた犬を思わせる耳。なるほど、草原部の――犬派の系統を汲む者の証である。
しかし、足は逆関節。しなやかに引き締まり無駄がない。これは森林部の――猫派の系統を汲む者の証でもある。
「そうか。君は――」
つまるところ、彼女は両者の血を引いている、ハーフだったのだ。




