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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第二章 天才アンドロイド
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STEP14 常識外れのストーカー

「違うっ! そいつの言っていることは全部でたらめだ!」


 鬼のような形相でエミリアが否定した。


『悲しいこと言うなよ。僕と君は運命の赤い糸d』


 タブPCがディスプレイに突き刺さった。


「サラちゃん! 今すぐ通路を閉鎖してくれッ! 一刻も早く追い出すんだ……っ!」


「あ、無理です」


 彼女は無表情で首を振った。


「設計上閉じ込めることは不可能なんです。どこかに扉があって通過できる仕組みです。はぁ……だれがこんな船作ったんですかね?」

「だって……ネロくんが」

「人のせいにすんな」

「私の言う通りセキュリティを強化しておけばよかったのに。身から出た錆ってやつです」



 エミリアは絶望していた。

 最悪の天敵と接触してしまったばかりか対面で会うことになってしまったのだから。

 ウン百年生きてきた中で5本の指に入る失態だった。

 もう泣きそうだ。



「ごめんよサラちゃん……キミの努力をバカにして」

「それには同意します。でも、あなたなら特捜官の一人や二人追い払うくらい楽勝でしょ?」

「ムリさ。なんてったって奴は‟常識外れのストーカー”だからな」


「「常識外れのストーカー?」」


 ストーカーとは、異性あるいは同性をしつこくつけまわし、相手の私生活に支障を与えるような行為をさすものである(連盟政府データベースより抜粋)


「奴は気に入った犯罪者をつけ回し、本来の任務を放っておくイカれた性格してんのさ」

「だとしても」

「しかも気に入らない奴には使っちゃいけない(アブノーマルな)兵器をためらわずに使うのさ」


 何年か前に大きめの犯罪組織が壊滅した事件覚えてるか、と彼女は続ける。


「ええ、確か……自滅でしたっけ?」

「自分らが流してた武器が全部暴発した、だったか。自業自得ですね」

「と、いうのは建前さ……本当は奴が”超新星爆弾”を使ったんだ」


 宇宙最悪の兵器の名前が出てきて血の気が引くネロとサラ。


 超新星爆弾とは惑星系一つを軽々と破壊できる威力を持つ爆弾だ。

 原理は簡単。重元素を限りなく圧縮、それが崩壊したときのエネルギーで疑似的な超新星爆発を起こすのである。


 ……と、字面だけではなんともないように感じるかもしれない。

 しかしこの兵器の真髄はその副作用にある。

 超高濃度の放射線が周辺惑星の生物を容赦なく死滅させる。

 元素圧縮の際に発する引力の影響で惑星軌道をめちゃくちゃに乱す。

 といった効能は起爆前に敵を仕留めるのに十分なスペックなのだがすべてを灰燼に帰さんと言わんばかりの爆発が〆に残っている。


 オーバーキルにも程があると連盟が判断しめでたくお蔵入りしためでたき兵器である。


「ちなみに使った理由――『お前らにかまう時間がもったいない』」

「ひぇぇぇぇ……」

「これほかに方法あったはずですよね……?」

「なあサラちゃん、食い止められないの…………」

「ブービートラップを仕掛けてみたんですけど、常識外れの方に効くかどうか……」

「そんなもん……引っかかるわけないよな」


 三人はどんよりと落ち込んでしまった。エミリアは倒れたソファの上で燃え尽き、ネロは深――――いため息をつき、サラは今は亡き母へ祈りをささげている。

 しばらく沈黙していると、ガタン! 音がした。


「来た……」

「来たみたいですね……」

「きちゃいましたよっ!」


 ドアが少しだけ開き、かすかな異臭が流れ込んできた。

 宇宙一くさいといわれるあの食品とも(自主規制)とも違う強烈な刺激臭。脳髄をえぐってくるような吐き気をもよおすような、そんな感じ。

 開ききったドアからその正体が現れる。


「会いたかったよ! エミリア――」



「「「くっさぁぁぁぁっ!!」」」



 様々な塗料、変なにおいを発しているサムシング、頭上から落ちてきたと思われる何かの跡。

 見事にすべてのトラップにかかっているこの男こそ……。

 常識外れのストーカーと呼ばれている連盟政府特別捜査官、フレデリック・ソーン(愛称、フレッド)

 容姿はとても素晴らしく、ファッション雑誌のモデルをやっていても違和感のないイケメンであり、スタイルも上の上である。

 しかし、自己中心的な倫理観とハイスペックな頭脳を打ち消すほどのドジっ子属性のせいか、周囲の人間には嫌われている。


「さあ! 再開を喜んで語り合おうじゃ――」

「ま、待て来るなッ! 臭いんだって自覚し――うわっ! それに触んなっ!」


 エミリアは必死になって汚れから船を護ろうとしている。


「ま……うっまさか、全部に引っかかるとは……ぉえっ」

「正直に言え、何を仕掛けた?」


 ネロはすでにガスマスクを装備しており、サラにもそれを渡している。


「えっと……宇宙一、臭いと呼び声の高い、あの生物の体液……を薄めたものと、他のも(危ないもの)とか(やばめな液体)とか」

「船が壊れたらどう責任取るつもりだ!?」


 事態の原因を突き止めようとしているネロは放っておくとして、エミリアは臭いの元(フレッド)と格闘していた。


「お、落ち着け! まずはその場にとどまって――」

「恥ずかしがることはないさ……あ、そうだ今晩はディナーに」

「違う! えーと、じゃまずはシャワーを浴びてにおいを――」

「ふっ……時間の感覚が鈍っているのかい? 今はそういうことをする時間じゃ」

「もういい! はっきり言うがお前は臭いッ!!」

「そんな些細なことを気にしていたのかい? 安心したまえ、僕はきにしな」

「よっ寄るなぁぁぁぁぁぁっ!」





(しばらくお待ちください……………………)









「はは、済まない。君に会えると思って舞い上がっていてね」


 ひと悶着あって消臭してきたフレッドは相変わらずのイケメンスマイルで語る。

 そんな彼に帰れオーラをぶつけているエミリア。その後ろでネロがにらみをきかせている。

 ちなみにサラは責任をとって修復作業を行っている。


「へーそーかそーか」

「つれないなぁ。君はいつもそんなだね、どうしたら斜めなご機嫌を直してくれるんだい?」

「すぐに消えろッ! そして二度と現れるなッ!!」

「君がエミリアの新しい相棒か。よろしく頼むよ」

「話ををきけよ……っ!」


 この瞬間、ネロはなぜエミリアがこの男を苦手としているのかを悟った。


「ふん……」


 彼は握手を求めてきたフレッドを冷たくあしらう。


「安心したまえ、僕はエミリア以外の女性に手を出すつもりはないよ」

「…………」


 それでもなお無視を続けると向こうもあきらめたのか手を引っ込めた。


「……おい、今」


 少し遅れてネロは女扱いされていたことに気付いた。


「それにしてもこの船、少し不用心すぎるね」

「……否定はしないな」

「実は連盟政府が開発していたAIが暴走していて――おっと済まない、関係ないことだったね。今度食事に行かないか、エミリア」


 そう問われ、彼女は思考をめぐらせる。

 今フレッドがもらしたAIの話。この男は無意味につぶやくことはしない。すべてを計算しつくし、己の都合の良い方向へしようとしているのだ。


 つまり、船のセキュリティに不安があることを自覚させ、それを補えるかもしれない物の存在をちらつかせた。ということは彼女に件のAIを処理させようという魂胆がある、と読める。ゆえにこの招待には乗るべきではないかもしれない。


 が、裏を返せばチャンスともいえる。連盟政府の開発しているものに手を出すのならば、その中核――どんな手段を用いても手に入れられない情報を盗れるかもしれない。その機会を逃してもいいのか――いや、積極的につかんでいくべきだ。


「考えてやってもいい。が、ボクの安全が保障されないようなら」

「もちろん、無粋なことをするつもりはない」

「決まりだな」


 彼女は差し出された封筒を受け取った。


 



 それが罠であるということも知らずに……。






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