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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第二章 天才アンドロイド
14/80

INTERVAL 施設案内

閑話のくせに重要だったりする

☆☆☆






「この際だからサラちゃんが仲間になるのは認めよう。そしたらさ、やるべき事が沢山あるよな」


 エミリアがシリアスに語る。


「確かにそうですね」

「ん、まずはオリエンテーションだな」

「……なぜ?」

「必要だろ、な?」

「ま、まぁ……施設の事は全然把握していないので」

「と、いうわけさ」

「なぜ俺を見る……?」

「よろ」

「…………はぁ」

「す、すいません……私のために」

「別に、俺も暇だからな」


 ネロはサラを連れて最初の案内場所へと連れていった。



















☆☆☆


――――船底


「何だか……不気味な所ですね」

「灯りを点けてないからな」


 とか言いつつネロよりも早いペースで歩いていくサラ。


「おい待て、早すぎる」

「え…きゃっ!」


 振り返るとその勢いでぐるぐると回ってしまっている。


「何やってんだ…………?」

「すみません、なんだか、体がふわふわしてて」

「重力酔い、か」

 

 当然ながら、各惑星によって重力の大きさが違う。0Gに近い星から10Gを超えるとんでもない星までピンキリである。

 つまり惑星間の旅行を行えば体の重さが変わったりして、時差ボケならぬ重力ボケが起こる。

 だがその症状が酔っぱらいの動きに似ていることから“重力酔い”と呼ばれている。


「言い忘れてたが、この船の重力は1,5Gに設定をしてある」

「ど、道理で体が軽いんですね…………」


 因みに、彼女の出身であるエクセルシアの重力は3Gである。単純計算で二分の一重さになったようなものだ。


「重力の変化に戸惑うな、慣れろ」


 ネロは灯りのスイッチを入れる。


「ここが格納庫だ。上陸用のシャトルとか色々置いてある」

「な、なんというか……ごちゃごちゃしてますね」


 シャトル以外にもどこにでもありそうなホバーカーやドローンタイプのヘリコプター、本当に動くのかと思ってしまうくらい古い乗り物の数々がある。


「まぁ、半分はあの人の趣味だからな」

「……そういえば、ネロさんはどうしてエミリアさんのことを名前で呼ばないんですか?」

「言われてみると、そうかもな…………なんていうか、気恥ずかしい」


 彼は頬を赤く染めて答えた。恋する乙女のような横顔に見えるが、実際は男である。


「と、とにかく次行くぞ!」


























☆☆☆


――――1F


「次はここのフロアなんだが……特にないから、説明だけしておく」


 スライド式のドアが開くと、暖かい光が漏れてくる。


「ここで食料を育ててる。主に植物類だけどな。別の区画では人口肉を作る機械が置いてあるし、きのこ類の栽培も行ってる。食べたいものは大体食べれるって寸法だ」

「すごい……どうやって管理してるんですか?」

「よくは知らんが、その辺のプログラムを改造して使ってるらしい」


 実のところ、ネロは機械音痴である。

 普段使う通信機なら扱えるが、複雑で精密な機械はてんで駄目である。


「で、二階には動力室があるけど、俺は立ち入り禁止だからまた今度な」

「あ、はい」



「次は三階。メインデッキと食堂がある」


 二階の入り口をスルーし、出発点のデッキにまでやって来た。


「ありゃ? もう終わったの」


 エミリアは自分専用のソファーで電子新聞を読んでいた。


「まだ途中です。後で動力室の入り方教えてあげてください」

「ん、わかった」


 エミリアが大きなあくびをし、ネロとサラが部屋を出ようとしたとき、警報が鳴った。


「っ何かあったんですか!?」


 驚いたサラが悲鳴をあげる。


「救難信号を感知したんだ。連盟政府が発するやつを、な」


 エミリアが面倒くさそうに計器盤を操作する。


「た、助けなくていいんですか……?」

「普通の船ならそうする。だが、連盟の船だと罠の可能性があるんだ」

「そーいうこと。遭難船はフダツキの連中にゃとびきりのカモですからねぇ……それを利用して一網打尽ってわけさ。ほう! こりゃマジもんのやつだな」


 船外のカメラ映像がスクリーンに映し出される。


「これは……V.I.P.専用のチャーター機、だよな」

「はい、私も何度か乗ったことあります」


 翼の両端に付いたエンジン。流線形のボディ。側面には連盟政府のシンボルマークがペイントされている。


「ふぅむ、ボクの見立てが正しけりゃ――正しいけど、乗り心地よりも足の速さと丈夫さをウリにしてるS-Ⅲ002モデルだな」

「きな臭いですね……」

「向こうと通信はできますか?」

「ムリだな。多分……生きてる人間は居ないんじゃないか?」

「そんな………………」

「まー心配するな。一応様子は見に行くから、ネロくんが」

「はいはい、行ってきますよ」


 反論するだけ無駄だと悟ったネロは大人しく部屋を出ていった。


「ごめんな、いきなりエグい話して」

「いえ、覚悟はしていたので……」

「ん、よろしい! じゃいいもん見せてあげるよ」

 


























☆☆☆


――――5F


「まだここは見たことなかったろ?」

「ええ、立ち入り禁止……でしたよね」

「んふふふ……ここが一番重要な部屋だからねぇ」


 扉の脇にあるパネルに手を押し当て、ロックを解除する。


「さーて、と。覚悟は、できてるな?」

「はいっ!」


 ゆっくり扉が開く。

 真っ暗な部屋だ。何も見えない。

 しばらくするとうっすらと明るくなる。


 ――宝石だ。


 きらめくような輝きはすべてこれらの宝石が発していた。

 自ら輝くもの、光を受けころころと色が変わるもの、淡い光を優しく放つもの――これは夕日の欠片。


「綺麗……」

「んふふ、ボクのコレクションさ。悪くないだろ?」

「全部盗んだのですか?」

「もちろん! これが、最初のピース」


 エミリアが手に取ったのは七色にきらめく宝石。中心部にはバラを思わせるホログラムの彫刻がなされている。


「“レインボーローズ” ボクが初めて盗った獲物さ」

「すごい……です。こんなに美しいもの、初めて見ました……!」

「まだまだだなぁ。もっと美しいものが存在するんだぜ」

「?」


 サラはそれをもとの場所に戻しながら首をかしげる。



「――故郷の、星空さ」


 エミリアは昔を懐かしむように目を遠くにやる。



 ――――『ここは地獄だけど……空だけはきれいだな…………』



「ボクはそれを手に入れるために怪盗になった。こうやって獲物を盗み出すのはその過程に過ぎないのさ」

「そんなの無茶ですよ……」

「いや、あるんだ――――“あれ”を手に入れれば絶対に盗み出せる。ボクの望むものが」

「“あれ”……?」

「聞かなかったことにしてくれ。それじゃ、これで全部案内は終わったな?」

「はい。ありがとうございました」



 二人がメインデッキに戻ると、ネロから通信が入っていた。


「もしもーし、ネロくん応答しなさーい!」


『――すごい事になってますよ…………こっちは』


 うんざりとしたネロの返事。


「なんだ? 殺しでも起こったっていうのか」


『ま、簡単に言えばそうですね……』


 エミリアの頬を冷汗が伝う。

 サラは思わず息をのんだ。


『辺り一面、血の海って感じです。機械類は完膚なきまでに破壊されてますね……』


「道理で、通信しても通じないわけだ」


 救難信号のシグナルは船の中でも見つかりにくい場所に隠されており、さしもの犯人も破壊はできなかったのだろう。


『これ以上、ここに留まるのは、危険かと……』


「――ネ、ネロさん、帰る前に、データを、持ってきて、ほしいんです」


 吐き気がするのか、サラは口元を押さえつつ言った。


『話聞いてたのか……? 機械類は全部破壊されて』


「大抵の、AIには、バックアップ機能が、ついてます……それが連盟政府の、ものなら、確実です」

「ふむ、確かにそうだけどさ。そこも壊されてちゃ意味なくはないか?」

「問題、ないです……バックアップの、保存された、媒体は……欠片だけでも、再生できます」

「よーしネロくん。直ちに回収したまえ! あ、ちゃんと説明してあげたほうがいいかな? えーとまずは――――」


『そのくらい自分でできるッ!』


 機械音痴をからかわれたネロは拗ねたように通信を切ってしいまった。




















☆☆☆


「――修復できました!」


 ネロが持ち帰ったこぶし大のデータ結晶を解析していたサラが言った。


「ん、じゃ見てみようか」


 エミリアが起き上がるのを見たサラは再生のコマンドを押した。








 ――――zzzzzお・・・せよ!


 映像はない。音声データしか残っていないようだ。


 ――――頼む! つう・・・れっ!!


 何かが砕ける音、誰かの悲鳴と水っぽい音。


 ――――きっきた……っ!


 …………しろやぎさんからおてがみついた


 歌だ。

 大昔の童謡。


 ――――くっクルナッ!


 …………くろやぎさんたらよまずにたべた


 歌声とともに足音が近づく。


 ――――ヒィッ!


 …………しーかたっがないのでおーてがみかーいた


 突き刺さる音。

 落ちる音。


 …………さっきのてがみのごようじなぁに?














 データの再生が終わった。


「いかれてやがるぜ……この犯人」


 エミリアは久しぶりに血の気が引く思いをしていた。



 “歌う殺し屋”と彼らが出会うのは、もう少し先の話。









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