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二十二歳、限界魔法少女  作者: みそ
第二章 黒百合学園の甘い罠
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第九話 ようこそ、百合とチョコレイトの楽園へ

 学園内のいたる所に親切にも体育館への順路を示す看板が置いてあり、これは罠かと疑った。

 警戒しつつも看板に従って移動すると、拍子抜けするほどあっさりと体育館の出入り口に着いて、ピュアホワイトは唖然とした。


「なにこれ…」


 出入り口から見える体育館に広がる景色が、ピュアホワイトの知っている体育館のそれではない。

 本来ならば平坦な木目の床張りであるその場所に、花咲く草原が広がっている。天井には巨大なシャンデリアがぶら下がり、バスケットのゴールにはツルが生い茂り、リングのある場所には花の形をしたランプがぶら下がっている。

 これは夢かと目をこすり、ほっぺをつねるという月並みなことをしてみた。ピュアホワイトの中でいつかはしてみたいと思っていても、なかなかする機会に恵まれなかった仕草をできてちょっと嬉しい。

 しっかり痛い、これは夢ではない。

 草花の間には水路が縦横無尽に走り、陸地を群島のように分割している。水路をトロトロと流れているのは水ではなく、甘い匂いのする黒い液体。


「チョコのにおいだ」


 チョコの水路の上には真っ白なアーチ状の橋がかかって島同士を繋ぎ、絵本の世界を目の当たりにしたような気持ちがした。

 やはりこれは、何かの罠なのだろうか。メルヘンな景色に気を取られているうちに攻撃してくるとか、あるいは流れるチョコが濁流のように襲いかかってくるとか。

 しかしここで臆しているわけにはいかない。そうこうしている間に被害者が増え続けてしまうかもしれない。

 意を決して草原に飛び込み、咲き誇る花々を間近に見てその正体がわかった。


「これは、百合の花?」


 一面に咲いていたのは白と黒の可憐な百合の花。寄り添い合うように、必ず白と黒がワンセットになって咲いている。

 飾り付けられたステージ上には、水路に流れるチョコの大元が置かれていた。優雅な百合の彫刻が施された、巨大な噴水のような装置。それが絶え間なくチョコを送り出し、濃密なカカオ臭を漂わせている。

 何の意図があるのかわからないが、校内放送を使って宣戦布告してきた闇魔法少女、リーリエ・ショコラーデの仕業であろう。

 

「どうしてわざわざこんな、手の込んだマネを…」


 ステージに近寄りながら、ピュアホワイトはほうけたようにつぶやいた。

 個人差はあるものの、一日で使える魔力の総量には限りがある。RPGのマジックポイントみたいな感じで。なので誰もが戦闘前の余計な消費は避けたい。これだけ大掛かりな仕掛けを魔法で手掛けるには、ピュアホワイトなら魔力の半分は持っていかれてしまう。

 それなのにわざわざこんなことをするなんて、よっぽど魔力の総量に自信のある強敵なのか。

 そうだ、そうに違いない。さっきの宣戦布告といい、自分の魔力を誇示するようなこんな無意味な仕掛けといい、相手は一筋縄ではいかない強敵に違いない。


 ピュアホワイトはゴクリとツバを飲み込んで、気を引き締めた。

 出てくるのはきっと、これまでにないおそろしい相手だ。さっきの放送でリーリエ・ショコラーデと名乗っていた闇魔法少女。

 だけど負けるわけにはいかない。


「私を辱めていいのは、シュバちゃんだけなんだから」


 ピュアホワイトが固い決意を口にするのと同時に体育館の照明が落とされ、薄暗かったステージがパッと明るくなった。

 まるでミュージカルでも始まるかのような、派手できらびやかな照明に照らされるチョコの噴水。


「フフフ、お待ちしておりましたわ、ホワイトねえさま。ようこそ、百合とチョコレイトの甘美なる楽園へ」


 耳にしたものを身悶えさせる、作った感がぷんぷん漂うアニメ声。それに呼応するかのように、噴水の真ん中から激しくチョコが吹き出し、チョコに押し上げられてくる人影が見えた。

 湧き上がるチョコの先端につま先立ちして、自分を抱きしめるように手を回している、小柄で華奢な少女。その目は自分に酔いしれるかのように密やかに閉じられている。

 その姿を見たピュアホワイトの背筋を戦慄が走り抜けた。 


 あっ、これあれだ、名乗りを上げるやつだ。さっき放送でしっかりリーリエ・ショコラーデと名乗ってた気もするけど、それは一旦忘れてあげよう。

 私にも覚えがある。最初の出動で魔法少女ハイになってて、一晩かけて考えてきた登場の演出やポーズや口上をやっちゃう、後に黒歴史になるやつだ。

 とうとう私もあれの目撃者になれるなんて、感無量だわ。魔法少女の神さま、ありがとう。


 ピュアホワイトは魔法空間からスマホを取り出し、迷うことなく録画モードにした。

 相手は闇魔法少女だから無断撮影しても良心は痛まない。これも後に精神攻撃に使えるかもしれないのだから、立派な魔法少女としての仕事の一環だ。

 そう割り切って我が子の姿を撮影する保護者のように、堂々と録画を開始した。


「儚く可憐な立ち姿は百合の花の如く」


 流れるような動作でスッと右手を顔の上にかざして、左手は胸に添えるだけ。眼差しはピンと伸ばされた指先を見つめて、儚げな表情をしている。

 撮影するピュアホワイトはおしりのあたりがむずむずしてくるような恥ずかしさと、湧き上がってくる期待感に頬を紅潮させた。


「内に秘めた激情はチョコの如く甘くとろけて」


 今度は右手を胸にあて、左手をほほに添えて首をすこしかしげ、うっとりしたような顔。

 それを見るピュアホワイトは、うんうん、いっぱい練習してきたんだね、と保護者のようにうなずいている。これから戦う敵のことを、彼女はいったい何目線で見ているのだろう。


 そして少女は吹き上がるチョコの上で華麗に一回転。百合の花びらのようなスカートの裾がふわふわと揺れて中が見えそうになるが、際どいところで見えない。

 脳裏に焼き付いた、スカートとニーソックスの間の真っ白な太ももの残像。すなわち絶対領域にピュアホワイトの胸はトクンと高鳴った。チョコの香りと相まって鼻血が出そうだ。


「あれっ…?」


 しかし高鳴るピュアホワイトの胸とは裏腹に、チョコの上の闇魔法少女は首をかしげていた。しばらくその体勢のままフリーズし、やがて申し訳なさそうな顔になり、拝むように両手を合わせてきた。


「あの、ごめんなさい。ちょっと間違えちゃったんで、もう一回やってもいいですか?」


 そして自然な、素に戻ったような低い声と、申し訳なさと悔しさがほどよくブレンドされた口調で言った。潤んだ瞳でお願いされたピュアホワイトは悶絶している。


「くぅっ…!」


 これまでとのギャップにピュアホワイトは胸が爆発しそうなくらいにキュンキュンしていた。

 ダメだこの子、どうしても推せてしまう。かわいいがすぎる。

 ごめんねシュバちゃん。でも私の最推しは、シュバちゃんが不動の一位で殿堂入りだからね。


「もちろん、何回でもやっていいよ!私しっかり見てるからね!ファイトっ!」


 ピュアホワイトはこれ以上ないほどいい笑顔を浮かべて、両手でガッツポーズを作りエールを送った。敵に塩ならぬエールを送る魔法少女、ピュアホワイト。


「ありがとうございます!ホワイトねえさま!」


 闇魔法少女もチョコの上で笑顔になり、ガッツポーズを返した。なんという優しい世界。

 しかし次の瞬間、ピュアホワイトの背筋を再び戦慄が走り抜けた。

 なんと吹き上がるチョコの勢いが弱まり、映像を逆回しするかのように闇魔法少女がチョコの噴水に沈んでゆくではないか。


 まさか、もう一回最初からやり直してくれるの!?あれをもう一度最初から、見せてくれると言うの!?


 また最初からやるつもりかよではなく、そう思うのがピュアホワイトなのであった。

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