第四十一話 あなたは立派な魔法少女です
「ホワイトねえさま…」
強い眼差しでシュバルシャーフを見つめていたピュアホワイトは、ゆかりの声に振り向いて笑みを浮かべた。
「私が来たからもう大丈夫ですよ。グラップレッドも、よくがんばりましたね」
ピュアホワイトは歩み寄ると、羽織っていたマントで戦いを終えた新米魔法少女をふわりと包みこんだ。
「でもアタシじゃあいつの足元にも及ばなくて…こんなんじゃ魔法少女になった意味がない…」
悔しそうに唇を噛むかんなの肩をピュアホワイトは優しくたたいた。
「そんなことないです。あなたは一生懸命戦って、ちゃんとお友だちを守りました。あなたの戦いをブランさんが脳内中継して見せてくれてたから、私わかるんです」
脳内中継で映像を見せられながら飛翔の魔法を使うのは、二重写しになる映像に脳をシェイクされているような気持ち悪さを覚え、それに加えて墜落や激突の危険も増して地獄のフライトだったが、それは言わぬが花だろう。
今もちょっと余韻が残っているが、ピュアホワイトはそれを押し込めて先輩魔法少女っぽくキリっとした顔をした。
「グラップレッド、あなたは立派な魔法少女です」
「ううぅ…!」
我慢するように唇を噛み締め、でも目からポロポロと涙を流すグラップレッドの頭をいたわるように撫でて立ち上がる。
「あとは私に任せてください。あの悪い羊をこらしめてあげます」
燃えるような闘志のこもった瞳で見やると、悪い羊はひょいと肩をすくめた。
「おいおい、ひと勝負終えたばかりだってのにオマエとも遊んでやんなきゃならねえのかよ」
「かわいい後輩を可愛がってくれたお礼をしなければなりません。シュバちゃん、私怒っていますからね」
「何にそんなに怒ってんだよ。血圧上がってシワが増えちまうぜ、二十二歳」
「余計なお世話です!シュバちゃんこそ新人相手にあんな容赦のない戦い方、しかも約束を守らぬ外道の行い。こんなんじゃせっかく魔法少女になってくれたのにすぐ辞めちゃうじゃないですか。新人が居着かなくて育たないブラック企業状態になっちゃいます」
「そいつはお気遣いできなくて悪かったな。今日のうちはサイッコーに虫の居所が悪いんだよ!」
シュバルシャーフがステッキを振るうとピュアホワイトの背後から無数の漆黒のハサミが躍り出た。
「後ろっ!」
ゆかりの声よりも早くピュアホワイトは反応し、飛来するドレス断ち(シュナイダーシェーレ)を防壁魔法で防いでいる。
そして流れるような動作で防壁魔法を展開していた手で矢をつがえて次々と発射する。
「瞬け星ぼしの煌めき!トゥインクルアロー!」
流星雨の如く迫る純白の矢の群れ。
「ちっ!」
シュバルシャーフが展開した防壁魔法に矢が乱れ飛び、閃光となって弾けて白煙が上がる。またたく間に防壁魔法がひび割れて砕け散り、無防備になった黒い羊に純白の流星雨が襲いかかった。
もうもうと立ち込めていた白煙が消え去り、そこにはシュバルシャーフの姿が、
「いない!?」
叫ぶようなゆかりの声とともに上がる高らかな哄笑。
「クハハハ!とろいんだよ牛乳女!這い寄る影!」
足元から飛び出してきた漆黒の旋風の一点を、ピュアホワイトは熟練の狙撃手のような冷静さで射抜いた。
「ガァッ…!?」
正確無比な一矢に弾き飛ばされて床を転がるシュバルシャーフに向かい、息付く間も与えず攻撃魔法を放つ。
「使い魔召喚、一斉掃射!」
召喚された使い魔たちから発射された魔力の奔流が、シュバルシャーフを飲み込んで弾けて大気を揺らした。
もうもうと立ち込める白煙が晴れると、そこにはボロボロになった衣装を体に引っかけ、ほぼパンツ一丁になったシュバルシャーフが跪いていた。
「はあはあ…クソがっ…」
頬を紅潮させて荒く息を吐くその姿に、ピュアホワイトはよだれを垂らしそうになったがぐっと堪えた。
「強い…」
「こんなに圧倒的だなんて…」
後輩とその友だちに見られている。先輩としての威厳を保たなければ。
「負けを認めますか、シュバちゃん。そうすればパンツだけは勘弁してあげます」
「ああーもう、わかったよ。降参だ降参。腰が抜けちまって起きれねえから、ちょっと手貸してくれよ」
まだ恥じらいが残っていたのか、片手で胸を隠しながら手を伸ばす姿にピュアホワイトの萌えがフルスロットルで加速したが、おくびにも出さずに手を差し伸べた。
「もう、しょうがないですね」
「ホワイトねえさま、いけませんわ!」
手が重なろうとした瞬間、作ったようなアニメ声に引き止められ、
「へっ?なんかその声、聞き覚えあるような…」
首を傾げたピュアホワイトの手を獲物を呑み込むヘビのような狡猾さで、シュバルシャーフの手がガシッと掴んだ。
「油断したなあ!消えない痛み(デア・シュメルツ)!」
「痛っ…!」
手を伝って全身に通う神経に流れ込んでくる純粋な痛み。振り払おうともがくも、ヘビのような黒い縄が絡みついて離れられない。
もう抵抗する気力も魔力も残っていないだろうと思い、すっかり油断していた。
「クハハハハハ!感じるだろ!痛えだろ!」
「くうううぅぅぅ…!」
魔力を体に流して痛みを中和しようと試みていたが、効果的ではないようで痛みは和らがない。それどころかさきほどの脳内中継の影響か、脳内スクリーンに奇妙な映像まで浮かんできていた。
長いまつ毛と細い眉、鋭い目つきが繊細さを現しているようなゴスロリ好きの女の子。彼女が田舎から上京してきて初めてのゴスロリ店に行き、大学デビューに失敗してからのあれこれが一分でわかるように編集されたドラマのように超速で流れている。
(この目つきの悪さ、それに胸の平坦さは、まさかシュバちゃん…!?)




