第二十二歌
騎士たちが進軍し、突撃を始め、閲兵の隊列を組み、時には身を守るために撤退するのを、ダンテは以前に見たことがある。先鋒の騎士たちが、アレッツォ人たちの領地を駆けて急襲したり、馬上試合で槍を繰り出すのを目にしてきた。ある時には喇叭で、ある時には鐘や太鼓、城からの狼煙など国内外の合図を使っているが、あれほど奇妙な楽器で進み始める騎兵や歩兵、陸からの合図や星の徴によって出航する軍船は見たことがない。
ダンテたちは、十匹の悪魔たちと共に進んだ。
恐ろしい連れではあるが、教会では聖人と、食堂では大飯食らいと席を並べなければならない。
ダンテは、このマレボルジャで煮られている者をはじめとする全てを見ようと、瀝青に注意を向けていた。
イルカの群れが背中を弓なりにして、船が嵐を避けるよう船員に合図を送るように、罪人たちは、時折、苦痛を和らげようと背中を見せては、すぐに身を潜めている。
また、堀の水際で脚や胴を潜め鼻だけを外に出している蛙のように、両岸の至る所に罪人がいたが、バルバリッチャが近づくと、煮えたぎる瀝青の中に引っ込んでいった。
仲間の蛙が逃げる中、一匹だけ取り残されることがあるように、逃げ遅れた男をダンテは目にした。今なお、ぞっとする光景だ。
一番近くにいたグラッフィアカーネが、その男の瀝青で固まった髪を鉄叉に引っ掛け、吊るし上げる。カワウソのようだ。
ダンテは、悪魔たちが呼び出された時に注意し、その後の呼び合う様子を窺って、十匹の悪魔の名前を覚えていた。
「ルビカンテよ、こいつの背中に鉤爪を掛けて皮を剥いでしまえ」
呪われし者たちが一斉に叫んだ。
ダンテは、ウェルギリウスに言う。
「敵の手中に落ちた哀れな男はいったい誰なのですか。できれば訊いていただきたいのです」
ウェルギリウスは、男に近づきどこの出身かを尋ねた。
男は答える。
「私は、ナヴァラ王国の生まれです。母は、身を滅ぼし自らの命を絶った宮廷人との間に生まれた私を、領主の従者にしました。その後、私は勇ましいティボー二世に迎えられましたが、そこで賄賂を受け取っていたため、こうして熱湯の中でつけを払っているのです」
その時、猪のように口の左右から牙を突き出しているチリアットが、一本の牙でもいかに肉を引き裂けるのか、その男に思い知らせた。性悪の雌猫たちの中に迷い込んでしまった鼠のようだ。
しかし、バルバリッチャが両腕で男を囲んで言った。
「俺が捕らえている間は、お前たちはじっとしているんだ」
そして、ウェルギリウスに顔を向けて言った。
「もっと知りたいことがあるのなら、手下たちがこの男を八つ裂きにする前に、尋ねるがいい」
ウェルギリウスは尋ねる。
「教えてほしい。瀝青の下にいる罪人の中に、誰か知っているイタリア人はいましたか」
すると、男は答えた。
「その近くの出身の者なら、つい先ほど別れたばかりです。そいつと一緒に隠れていれば、鉤爪や鉄叉に怯えずに済んだろうに」
その時、リビコッコが「俺たちは、もう我慢できない」と言い、男の腕を鉄叉で突き刺し、引き裂き、二の腕の肉片を削いだ。
ドラギニャッツォも、男の足を引き裂こうと下から狙っている。
十人隊の隊長は、目を剥き周りを睨み渡す。
悪魔たちの騒ぎが少し収まると、自分の傷に目を奪われている男に、ウェルギリウスはすかさず尋ねた。
「岸辺に来ようとして、不運にも別れてしまったという相手は、誰だったのですか」
男は答える。
「そいつは、修道士のゴミータです。ガッルーラ国の出身で、あらゆる欺瞞を詰めた器です。奴は、主君の敵を手中にすると、金を懐に入れ、奴の言うところの『略式放免』で敵を無罪にし、お互いが満足するように取り計らいました。他の職務でも堂々と汚職をし、大物ぶりを発揮したものです。奴といつもつるんでいるのが、ログドーロ国のミケーレ・ザンケ様です。サルデーニャの話になると、二人の舌は疲れることなく喋り続けていました。
もっと話してあげたいのですが、あの牙を剥いて脅してくるあいつを見てください。私を引っ掻こうとしていて恐ろしいのです」
偉大なバルバリッチャは、白目を剥いて今にも突き刺そうとしているファルファレッロの方を向いて言った。
「向こうに行ってろ。凶悪な鳥め」
「もし、あなたたちがトスカーナ人やロンバルディア人に会って話を聞きたいのなら」
怯えながら、男は再び話し始めた。
「私が何人か来させましょう。だが、彼らが罰を恐れずに済むように、マレブランケたちには少し離れていてもらいたい。私一人でこの場所に座り、誰かが瀝青から外に出たときに合図としている口笛を吹き、七人を来させましょう」
カニャッツォは、この言葉に鼻をひくつかせ、首を振りながら言った。
「おい、聞いたか。俺たちを騙して下に飛び込もうとする魂胆だぞ」
悪だくみには不自由しない男は言い返した。
「確かに、仲間をもっと酷い目に遭わせようとしているのだから、私は悪知恵が働き過ぎるのかもしれない」
アリキーノは、他の悪魔たちとは違い、堪え切れずに言った。
「もし、お前が下に飛び込んでも、馬のように走って追いかけたりせず、俺は翼を使って瀝青の上まで飛んでいく。堤から離れ、下がっていよう。斜面が盾になり俺たちを隠すが、お前一人で俺たちを出し抜けるか見ていよう」
読者の方よ、世にも奇妙な勝負をお聞きください。
悪魔たちは、後ろの斜面を向く。気乗りしなかったカニャッツォが、最初に振り向いた。
その好機を逃さず、ナヴァラ人は地面に足を突っ張る。
悪魔たちの監視から逃れ、一瞬で瀝青の中へと飛び込んだ。
この結果に、皆が自分の失敗を責めた。
とりわけ、失敗の原因を作り出したアリキーノは、誰よりも悔やんだ。すぐさま後を追い「追いついたぞ」と叫んではみたが、無駄だった。恐怖の方が翼より速く、男は瀝青の下へと沈んでいた。舞い降りた鷹が、狙った鴨に水中に潜られ、落胆して上に引き返すように、アリキーノも胸を起こして舞い上がった。
この茶番に怒ったカルカブリーナは続けて飛び立つが、アリキーノに喧嘩を仕掛けるため、男には逃げおおせて欲しいとまで思っていた。
汚職の輩が姿を消すと、カルカブリーナは濠の上で鉤爪を仲間に向け突き立てた。
一方の相手も、獰猛なハイタカである。敵に鉤爪を食い込ませる。
ついには、二人とも煮えたぎる沼の中央に落ちていった。
熱さによって二人は離れるが、瀝青が翼に粘り付き、もはや飛び立つことはできない。
バルバリッチは、部下と共に苦々しく思いながら、鉄叉を持った4匹を対岸へと飛ばせた。
素早くあちこちの岸に降りた悪魔たちは、鳥もちに掛かった二匹に鉄叉を差し伸べる。
しかし、すでに二匹の皮は固くなり、その中で茹で上がっていた。
騒ぎで足踏みしている悪魔たちを横目に、ダンテたちはその場所を後にした。




