第二十歌
ダンテは、新たな呵責を詩にして、地下に沈んだ者たちの歌である第一編第二十歌の主題を書き示さなければならない。
すでに覚悟を決め、視界に広がる谷底を見た。
谷底は、苦悩の涙で濡れていた。
円形の谷底を、現世で祈りながら列を歩くようにゆくっりと、黙ったまま涙を流し進む者たちを、ダンテは目にした。
彼らの下の方へと視線を移す。
全員が顎と胴の付け根の間を捻じ曲げられ、顔は背中側を向いた異様な姿だった。彼らは、前を向くことを禁じられ、後ろ向きに進むしかなかった。
かつて、神経が麻痺し、このように完全に首が捻じれてしまった者がいたかもしれないが、ダンテは見たこともないし、いるとも思えなかった。
読者よ、この詩を読み果実を手にすることを、神がお許しになりますように。
そして、あなた自身のこととして、考えて欲しい。
目からあふれる涙が割れ目を伝い、尻を濡らすほど捻じ曲げられた人間の姿を間近に見た時、目を潤ませずにいられるだろうか。
実際、堅く険しい岩の橋から突き出した岩にもたれて、ダンテは泣いていた。
それを見たウェルギリウスは、ダンテに言う。
「あなたは、まだ他の知恵なき者と同じなのですか。ここでは、憐憫がなくなってこそ、敬虔が生まれるのです。神の審判に自分の心情をぶつけるような者より、不遜な者がいるでしょうか。さあ、頭を上げて見るのです。
テーバイ人たちの目の前で、あの男の足下で大地は大きく口を開けました。彼らは『どこに行くのだアムピアラーオスよ。なぜ戦場を去るのだ』と叫びましたが、あの男は、誰一人として逃さず審判を下すミーノースの所まで谷を堕ちたのです。背を胸に変えた姿をよく見るのです。度を越して前を見ようとしたために、今は後ろを向き、後ろに進んでいます。
肉体が変化して男から女に姿を変えたテイレシアースを見てみなさい。再び男の髭を取り戻すためには、絡み合う二匹の蛇を杖で打たなければなりませんでした。
テイレシアースの腹に背を付けているのが、アッルンスです。カッラーラ人が開墾するルニジャーナの山中に、白い大理石に囲まれた洞窟を住まいにしていました。そこからの星や海の眺望を遮るものはありませんでした。
あなたからは見えませんが、振りほどいた髪で乳房を隠し、毛の生えた肌の側を反対に向けている女がマント―です。多くの地をさまよい、落ち着いた先が、私の生まれ故郷でした。しばらく私の故郷の話を聞いてもらえると嬉しいのですが。
彼女の父がこの世を去り、バッコスの都市が隷属の地となった後、この女は世界を巡り歩いたのです。
地上の美しきイタリアに、ゲルマーニアとの境界となる山脈の麓チロルの近くにベナーコという名の湖が横たわっています。千の、私が思うにそれ以上の水源は、ガルダとヴァル・カモニカとアペンニーノの間の谷を流れ、この湖に注ぎ込んでいます。その中心は、トレントの司教でも、ブレッシャやヴェローナの司教でも、辿り着ければ祝福を授けることができる場所なのです。一段と低くなる湖岸には、強く美しい城塞ペスキエーラが、ブレッシャ人やベルガモ人から護っています。ベナーコ湖に収まりきれない水は、ここから落ち、緑の牧草地を下る川となります。水は、流れ始めると、もはやベナーコではなくミンチョ川と呼ばれ、ゴヴェルノロでポー川へと流れ込みます。そう遠くまで走らぬうちに窪地に出合い、川は広がり湿地帯を作ります。夏場は、渇水に見舞われることもあります。
放浪する女は、この地を通りかかったとき、沼地の中央に耕作もされず誰も住んでいない土地を目にしました。人との関りを避けるため、下僕たちを率いてその地に留まり、占いを行って生涯を過ごし、空ろな亡骸を遺したのです。
後に、散り散りになっていた人々は、四方が沼に囲まれた堅牢なこの場所に集まってきました。人々は、亡骸の上に都市を建設し、占いに頼ることなく、その地を最初に選んだ女の名に因みマントゥアと名付けたのです。かつて、愚かなカサローディがピナモンテに欺かれる前は、都市の人口は今よりも多かったのです。
あなたが私の故郷の違った起源を聞いたとしても、真実が偽りに欺かれないうよう、よく心得ておいてください」
ダンテは言った。
「師よ、あなたの説明に疑う余地はなく、私の信頼が揺らぐことはありません。他の説は、私にとって火の消えた炭も同然です。
では、歩き続ける者たちの中に、注目に値する者がいれば、教えてください。また、それに気が取られているのです」
ウェルギリウスは答える。
「背中の銅の上に髭を垂らしている者は、ギリシャから男たちが姿を消し、辛うじて揺り籠の中にいた者だけが残った時、アウリスでカルカースと共に最初の艫綱を断つための時機を進言した占い師です。エウリュピュロスという名前でした。私の格調ある叙事詩は、ある箇所でこの者を歌っています。この詩をよく知るあなたには解っていることでしょう。
あれほどまでに身体が痩せ細った男は、魔術師として人を欺く技に精通していたミカエル・スコトゥスです。
グイード・ボナッティを見てみなさい。アスデンテを見てみなさい。革と紐に打ち込んでおけばよかったと、今は後悔しているのでしょうが遅すぎます。
惨めな女たちを見てみなさい。針や機織り、糸紡ぎを投げ出し、占い師となり薬草や人形を使って呪いを掛けたのです。
もう立ち去りましょう。茨を背負うカインは、両半球の境界線を掴み、セヴィーリャに寄せる波に触れています。昨夜は満月でした。私は、あなたを深い森の中で見捨てることはしませんでした。あなたも覚えているはずです」
このようにウェルギリウスが話しながらも、ダンテたちは歩き続けていた。




