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神曲リノベーション・地獄篇  作者: Dante_Alighieri
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第十九歌

 魔術師シモンよ、哀れな追随者どもよ、忠実な花嫁となるべき神の下の聖職者たちは、強欲にも金銀と引き換えに春を売る。お前たちが第三のマレボルジェにいるからには、今こそ裁きのラッパが鳴り響くであろう。



 ダンテたちは、すでに次の墓場に差し掛かり、谷の底の中心を真上から望む場所まで岩の橋を登り切っていた。


 おお、至高の智よ、偉大な御業を、天に、地に、悪しき世界にお示しになるのか。しかも、あなたの力が、なんと公正に配置されていることか。


 谷の壁面から底に広がって穴だらけの青黒い岩盤が見える。どの穴も同じ大きさで丸かった。美しい聖ジョヴァンニ洗礼堂にある洗礼を受けるために造られた水瓶の穴より大きくも小さくもないように見えた。

 それほど昔ではないが、ダンテは水瓶の中で溺れかけてる子を助けるために、そのひとつを壊したことがある。この文章が、人々の誤解を解くきっかけになることを祈ろう。


 それぞれの穴からは、罪人の両脚が腰から下を外へと突き出し、残りを中に留めている。全員の両脚の裏は燃えていた。彼らの膝は、紐や縄で縛られていたとしても、引きちぎるほどの勢いで激しく震えていた。油を塗った物に火を点けると、その表面を炎が伝うように、踵から爪の先へと炎が広がっている。


「運命をともに苦しむ他の者たちより、激しくのたうつあの者は誰ですか。ひときわ鮮やかな紅蓮の炎に包まれています」

 ダンテが言った。

 ウェルギリウスが答える。

「あなたが望むなら、緩やかな傾斜を伝い、崖の下に運んであげましょう。あの者が何者か、どんな罪を犯したのか直接聞きなさい」

「あなたが望むものは、私の喜びとなります。あなたは我が主君、私が従うことも、何も言わぬことも察していられます」


 ダンテたちは、四番目の堤の上にやってきた。左に向きを変えると、穴だらけの狭い底へと降りる。ウェルギリウスは、ダンテを脇に抱えたまま、獣の脚となって苦しむ男のいる穴まで運んでいった。

「上下を逆さまに杭のように打ち込まれた哀れな魂よ、誰かはわからないが、口が利けるのなら話してみなさい」

 逆さに埋められた殺し屋が死を先延ばししようと、呼ばれた修道士が話を聞くように身体を傾け、ダンテは答えを待った。


 男が叫ぶ。

「おまえは、すでにここに立っているのか。おまえは、すでにここに立っているのか。ボニファーティウスよ。私は、予言の書にそれは数年後のことだと騙された。おまえは、麗しい女性を騙して奪い身を売らせたくせに、こんなにも早く富と権力に飽きたのか」

 ダンテは、その言葉を聞いても意味が理解できず、何と答えてよいか解らずに呆気にとられ立ち尽くしていた。

 ウェルギリウスが言う。

「この者に『私はあなたが思っている者ではない』と伝えるのです」

 ダンテは、命じられた通りに答えた。


 魂は、その言葉を聞き、足に力を入れこわばらせた。

 ため息をつき、泣き声でダンテに言う。

「では、私に何の用があるのか。崖を降りてきてまで、私が誰かを知りたいのなら教えてやろう。私は大いなる法衣をまとう者であった。名前のとおり熊の一族であったが、子を活躍させるために欲深くし、地上では金を、ここでは自分自身を袋の中に入れている。私の頭の下には、私より前に聖職を汚した教皇たちが引きずり込まれ、岩の裂け目の中で潰されている。私が唐突に問いかけたのも、私がおまえと勘違いした者がここに来ると、私も同じように下に堕ちていくからなのだ。

しかし、私の足が焼け、こうして逆さまでいた時間よりも、その者が足を赤くし打ち込まれる時間の方が短いだろう。その者の後に、もっと汚れた行いをする無法の羊飼いが来るからだ。そいつの腐敗ぶりには、私も後の者も覆い隠されてしまう。そいつは、マカバイ記に記されるヤソンの再来となるだろう。シリアの王がヤソンに操られたように、フランスの王もそいつに操られるだろう」


 ダンテは、自身でもわからぬほど憤りに我を忘れ、怒りの口調でその魂に言った。

「それでは、答えてもらおう。我らの主は、天国の鍵を聖ペテロに託される前に、どれだけの財宝を求めたか。もちろん、何も求められずに『私の後に付いてきなさい』と仰られただけです。邪悪な魂が失った座にマッティアがくじで選ばれた時も、ペテロも他の使徒たちも金や銀を求めなかった。

お前には相応しい罰だから、ここにいるのだ。せいぜい、シャルル・ダンジュール一世に取り入った不正な金を守るがいい。喜ばしい現世でお前が手にしていた至高の鍵への敬意によって控えているが、それがなければ、もっと厳しい言葉を使っていたところだ。お前たちの貪欲さによって、善人を踏み台に悪人どもがのさばり、悲しみに満ちた世界になった。

福音を記す聖ヨハネは、大きな水の流れの上に座る女性が諸王に身を売る姿を目にした時、お前たち羊飼いに気付いていた。七つの頭を持って生まれてきたその女性は、夫が得を好んでいた間は、十の角から活力を得ていた。

お前たちは、自分のために金や銀の神々を作り上げたが、偶像崇拝者と違わない。ひとつの偶像か、百の像に祈るかの違いだけだ。コーンスタンティーヌス皇帝よ、あなたの改宗ではなく、最初の父が富を得たあなたの寄進が、いかに大きな悪の母体となったことか」

 ダンテが、こう罵る詩を詠う間、この者は怒り、屈辱に身を引き裂かれ、彼の両足は激しく空を蹴っていた。


 ウェルギリウスは、ダンテが発する言葉の響きにずっと耳を傾け満足そうにしていた。

 導師は嬉しく思っているだろうと、ダンテは信じている。


 ウェルギリウスは、ダンテを両手で抱えると、身体ごと胸の高さまで持ち上げ、降りてきた道を引き返し登った。疲れも見せず、胸にしっかりと抱えたまま、第四の堤から第五の堤へと渡る弧の頂へとダンテを運んだ。

 ウェルギリウスは、山羊にとっても厳しい急峻な岩の橋を通り、丁寧にそっと荷を降ろした。


 その頂からは、新たな深い谷が広がっていた。

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