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神曲リノベーション・地獄篇  作者: Dante_Alighieri
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第十七歌

「尖った尾を持つ獣が、山々を越え、城壁も軍隊も打ち砕きます。世界を悪臭で満たす獣がいるのです」

 ウェルギリウスは、ダンテに話した。

 そして、通ってきた大理石の道の端、崖の縁まで来るように獣を手招いた。

 穢れた欺瞞の化身は岸に近づき、頭と胴を浮かばせるが、尾は隠されたままだった。

 その顔は、義を持つ善良そうな面構えをしている。

 しかし、胴体は蛇のそれであった。

 鋭い爪を持った両腕は付け根まで毛で覆われ、背や胸、両脇には、交差する線と輪の模様で彩られていた。タタール人やトルコ人でさえ、布の下地やデザインをこれほどまで多彩に染め上げたことはなく、アラクネ―によって織られたこともない。

 時々、岸に繋がれた小舟が、半分は水の中、半分は陸にあるように、あるいは、大喰らいのドイツ人の土地で、かわうそが獲物を狙い身構えているように、凶悪な獣は、砂漠を囲む石の縁に留まっていた。

 蠍のように先端を武器とする二股の毒針を巻き上げながら、尾は虚空の中を動いている。


 ウェルギリウスは言う。

「私たちは、道を曲げ向こうで横たわる邪悪な獣のところまで、行かなければなりません」

 ダンテたちは、右手に降り、熱砂と炎の雨が完全に除けられるよう、石の縁を十歩進んだ。

 獣のところに来たとき、すぐ先の熱砂の上、崖のすぐ前に人々が座っているのが見えた。

「この圏での経験が完全なものとなるよう、彼らの様子を見てきなさい。ただし、長居は無用です。私は、あなたが戻るまでの間に、こいつの強い肩を貸すよう話をつけておきましょう」


 ダンテは、第七の圏の縁をたった一人で、煩悶する人々のいる場所まで進んだ。

 彼らは、苦しみを目から外に溢れ出していた。

 夏に蚤や蠅や虻にくわれ鼻先や足で体を掻く犬のように、炎の雨や灼熱の地表を避けようと、手をあちらこちらに、せわしなく動かしている。

 ダンテは、何人かの顔に目を向けるが、苦痛の炎が降りかかる彼らの誰ひとりとして、見分けることはできなかった。

 誰もが、首から決められた色と文様の財布をぶら下げ、それを見ては喜んでいるようだった。

 彼らを注意深く眺めながら進んでいると、黄色の財布に青い獅子の姿形の紋章が見えた。さらに視線を移すと、血のように赤いもう一つの財布が見える。バターよりも白い鵞鳥が描かれていた。


 すると、一匹の腹を膨らませた青い雌豚が描かれた白い袋をぶら下げた男が、ダンテに言った。

「このほりで何をしている? さっさと消え失せろ。おまえはまだ生きているから、教えてやろう。おれの同郷のヴィタリアーノは、ここでも俺の左側に座ることになる。この大勢のフィレンチェ人の中にいるおれは、パードヴァ人だ。奴らは、頻繁に『至高の騎士よ、三匹の雄山羊がついた財布を携え来たまえ』と喚くので、騒がしくてかなわない」

 そう言うと、鼻を舐める牛のように口を歪めて舌を出した。

 これ以上ここにいては、長居は無用と忠告したウェルギリウスを怒らせてしまうとダンテは心配になり、惨めな魂たちのいる場所から引き返す。


 見ると、ウェルギリウスは残忍な獣の背に跨っていた。

 ダンテに命じる。

「さあ、勇気を奮い、これを梯子に下に降りていきましょう。あなたは前に乗りなさい。あなたが尾に傷つけられないよう、私が間に座りましょう」

 ダンテは、その言葉にマラリアの悪寒を感じ、爪から血の気が失せ、陰を見るだけで全身を震わせる者のようになった。

 しかし、恥に後押しされ心を決める。

 勇ましい主君の前では、家臣も強くなるものだ。


 ダンテは、おぞましい両肩に座る。「私をしっかり抱えておいてください」と言いたかったが、思うように声は出なかった。

 しかし、以前も危険を感じたときに手を差し伸べたウェルギリウスは、ダンテが乗ると、その身体を両手で支えてくれた。

「ゲーリュオーン、さあ、飛び立ちなさい。かつてない荷を背負っていることを忘れずに、大きく旋回し、ゆっくりと降りていきなさい」

 ウェルギリウスが命じた。


 小舟が岸から後ろに漕ぎ出すように、ゲーリュオーンは縁から離れた。

 やがて、自由に飛んでいけることがわかると、胸があった場所へと尾をまわしては伸ばし、鰻のように尾をくねらせ、鋭い爪を持つ脚で空気を掻き込みながら進んでいった。

 パエトーンが手綱を手放し、今もその痕が見えるほど天が焼け焦げてしまったときも、哀れなイカーロスが、父の「道を間違えている」という叫びとともに、熱で蝋が溶けて背の翼が抜け落ちるのを感じたときですら、ダンテが味わった恐怖には及ばないだろう。

 周囲は空気だけとなり、獣の姿以外は見えなくなった。


 ゲーリュオーンは、ゆっくり、ゆっくりと、泳ぎながら進む。下から顔に吹き付ける風によって、旋回しながら降りていることがわかった。

 右手の下から、滝つぼからの凄まじい音が聞こえてくる。顔を突き出し、下を覗き込んだダンテは、炎を目にし、嘆き叫ぶ声を聞き、それまで以上に降下することに恐怖を感じた。

 ダンテは震えながら、必死にしがみつく。


 今まで見えなかった責め苦が、旋回しながら降りていくダンテたちの四方八方から迫ってくる。

 ずっと飛び続けた鷹が、呼び戻す小鳥の模型や獲物を見つけることなく、「もう降りてくるのか」と鷹匠を落胆させ、飛び立った場所へと百度の旋回の後に元気なく降り立ち、鷹匠から離れた場所で不機嫌そうにしているように、ゲーリュオーンは谷底へと降り立ち、ダンテたちを切り立つ崖の際に降ろした。


 厄介な荷を降ろしたゲーリュオーンは、弓から放たれた矢のように姿を消した。

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