56話 新たな旅立ち
「ねぇ、本当にウェンディなの?」
神社の一室、畳に座る金髪の少女が目の前で着替える暗い茶髪の少女に話しかける。
「私はそう思ってるよ。ロッティは、私が別人に思う?」
腰に脇差を差し、ガンベルトをつけてドラグーンをしまうと、茶髪の少女が振り返りざまに金髪の少女に問いかけた。
金髪の少女は少し気まずそうに視線をそらしってから、もう一度茶髪の少女を見上げた。
「本人なら、うれしいなぁ。って思ってる。」
「ならそれでいいんじゃない?私はそれがいいな。」
「…わかった。ウェンディ、これからどうするの?」
少しこわばっていたロッティの表情が和らいだ。
打刀を腰に差しながら、ウェンディはロッティの方を向き直る。
「美濃を目指すよ。せっかく瑞穂ノ国まで来たんだ。そのあとは、また海をわたろう。今まで来たのとは逆方向。」
「逆方向?」
「そう。見てみたくない?世界の端っこ。さらに西に進むと何があるのか。」
とはいってもウェンディにはなんとなく答えが分かっていた。
西へ西へと進んできて、今までの国々はウェンディが前世で見知った地理とほとんど同じだった。
つまり、今のこの国を出れば荒れ狂う日本海があってその向こうには朝鮮と中国があるはずだ。
「…思い出すね。あのブリタニアの森を。」
畳に正座していたロッティがほほ笑んだ。
「あの時も、ウェンディは新大陸に行くって言ってた。…すっごくワクワクした。」
「ロッティ…。」
「生まれてからずっと使用人として生きることが決まっていた私には、まぶしく見えたし楽しそうに見えた。多分、この人と一緒にいると楽しいんだろうなぁって思った。」
ロッティは、立ち上がってウェンディの前に立つと、優しく微笑みかけた。
「どこまでも、一緒に行くよ。ウェンディ。その先にどんな戦いがあっても、最期まで、ウェンディの味方で、ウェンディのそばでずっと旅をしていく。」
「……よし。じゃぁそうと決まれば、さっさと京の街を出てさらに東に向かおう。今回の旅の目的地がある。」
ウェンディの顔が少し微笑むと、2人とも羽織を着て襖を開けた。
縁側に出ると、巫女装束を着た少女たちと神職の初老の男性が立っていた。
「ウェンディさん、もうよろしいのですか?もう少しゆっくりしてから旅立っても良いのでは?」
「ありがとう。でも、もう行かないと。あまり長い間お世話になるのも皆様の負担になってしまいますし。」
少し会釈してから、2人は神職たちの横を通り過ぎる。
神職たちの横を通り過ぎる時、少し心配そうな目をウェンディ達に向けていた。
境内をゆっくりと、鳥居をくぐり右に曲がると、街道を人に交じりながらまっすぐ歩く。
関所を抜け、山を登り叡山寺と書かれた門のある山頂の寺の中に入った。
「そういえば、あのなんだっけ。あの侍の人たち…。」
「えっと、新選組?」
「そうそれ。挨拶でもしなくてよかったの?」
「挨拶はいらないかなぁ。次会う時は、多分もっと強い新選組に出会えると思いながら旅をつづけるよ。きっと、また会える。まぁそれまでに私か彼らか、死ぬかもしれないけどね。」
「なら大丈夫ね。ウェンディは死なせないし、多分あの人たちは大丈夫。あの鬼女ってのに出会わなければね。」
「そうね。どちらかといえば私は鬼女の方にまた挨拶したいけどね。」
大講堂に向かう道すがら、2人は久しぶりの穏やかさを感じ、山の下には美しい湖が横たわっていた。




