39話 バーでの話
ゲルマニアを出て1年と半年。
薄暗い中でろうそくの明かりの中、グラスの中の氷がウィスキーに浸りながらグラスの壁にぶつかって軽い音を響かせていた。
静かなブルースが店の中に流れ、テーブル席が3つとカウンター席が6つだけ並んだバーの中で、一番端のカウンターにメイド服の少女と剣を二振りかけけている少女の2人が座っていた。
ウェンディとロッティだ。
静かにライアン特産のウィスキーに口を付けながら、2人はいつもよりトーンを落として話している。
「よかった。本当にここにいらしたんですね。」
急に話しかけられた2人がゆっくり振り向くと、そこにはメイド服姿の茶髪の少女が立っていた。
2人ともどこかで見たことあると思っていたところで、少女が自己紹介を始めた。
「わたくし、ジャンヌと申します。アンリエッタ様のメイドを務めさせていただいております。」
アンリエッタの名前を聞いて、ようやく誰なのかを思い出した。
数日前に、サンノゼとシスコの間の森で助けた盗賊に襲われていた2人組の少女だ。
「まさかお2人がこんなにも早くシスコに移動しているとは思いませんでした。」
「もともとシスコに向かってる途中であそこの道をとおりかかったからね。それはそうと座りなよ。ここは酒を楽しむ場だ。」
ウェンディの提案に素直に乗っかったジャンヌは、ウェンディの横の椅子に腰かけた。
壁側のロッティがウェンディを挟んで覗き込んできている中、ジャンヌはマスターに注文を出した。
「ミルクを一杯ください。」
まぁ当然と言えば当然だろう。
いくらこの世界では子供でも酒を飲めるとは言え、子供で普通に飲酒したり喫煙しているウェンディ達の方がおかしいのだ。
「で、私たちを探してたみたいだけど、何か用事?悪いけど護衛とかは引き受けられないよ。」
「いえ、お嬢様がお2人を探していましたので。先日のお礼がしたいのと、お願いがあるとのことです。」
「お嬢様?そういえば君はメイドだもんね。いいところの貴族様なのかなあの娘は。」
「そうですね。お2人ならいいでしょう。我々は、ここの者です。」
そういってジャンヌが取り出したものは、紋章のかたどられた首飾りだった。
首飾りには家紋と国旗が書かれていて、その国旗には見覚えがあった。
「…これ、ガリアの国旗だね。」
「はい。ご存じでしたか。」
「生まれがガリアだからね。育ちはゲルマニアだけど。」
「そうだったのですね。アンリエッタ様はガリアの貴族ポワティエ家の三女に当たります。本名はアンリエッタ・ド・ポワティエ。現当主様はかのソフィ・ラプラスとともに剣を振るい戦を戦い抜かれた英雄です。ラプラス様ほどではありませんが、ガリア国内では英傑と呼ばれているのですよ。」
「へ~母さんと戦った人の家系なんだ。そんなすごい家の人がなんてこんなところに。」
「社会経験の一環としてお嬢様と私はこのフロンティアに旅立ったのです。しかし、こんなところまで来るとガリアとの連絡も一苦労で…。ちょっと待ってください。今なんて言いました?」
「え?そんなすごい家の人がなんでこんなところに?」
「その前です!」
ジャンヌが取り乱したようにウェンディの方を睨む。
何を言ってるのかわからないというような顔をしているウェンディの向こうで、ロッティが何かを察したような顔でグラスに口をつけた。
「いやだから、母さんと一緒に戦った人の家系なんだなぁとって。」
「か、母さん?」
「ああ自己紹介してなかったかな。私、ウェンディ。ウェンディ・ラプラス。あんたが今言ったソフィ・ラプラスの娘だよ。もっと小さいことはゲルマニアの父のもとで育てられたんだけど、嫌になって旅に出たんだ~。」
軽く言うウェンディの横で、ジャンヌが固まっている。
それに気づいていないウェンディを見て、ロッティが一言添えた。
「本当だよ。この娘、ガリアの英雄の娘なの。何ならギルドカード見る?ミスリルランクだからギルドも本気で調べたものだし、本物だよ?」
「はいこれ。」
そういってウェンディが差し出したギルドカードを受け取ると、ジャンヌはカードを凝視していた。
しばらく凝視してから、ジャンヌはカードを置いてから、ミルクの入ったコップを一気に飲み干して、カウンターにコインをおいて立ち去る。
「…お、お嬢様にご報告にまいります。ついてきていただけますか?」
「え?あ~それ明日でもいい?」
「明日?」
「うん。だって、貴族様に会うっていうのに私たちもう結構飲んじゃってるんだよね。宿の場所だけ教えてくれれば明日会いに行くよ。」
「では、中央広場の宿に泊まっておりますので。お待ちしております。」
静かに出ていくジャンヌの背中を横目に、ウェンディ達はグラスに残っていたウィスキーを一気に流し込んだ。




