37話 西海岸
ゲルマニアを出て1年と半年。
ウェンディ達はライアンの西海岸の海岸線にいた。
森の中に開かれたエルフたちの扉のおかげでずいぶんとショートカットすることが出来、2人はスルという岬で海を前に立っていた。
「…おっきい海だね。」
「東海岸からここまで、3ヵ月以上かかっちゃった。ここから船で、瑞穂ノ国まで一体どれくらいかかるんだろうね。」
「とりあえず、町を探そう。そうすればこの海を越えてる船を探すこともできるでしょ。」
「そうね。じゃぁ行こうか。」
跨っていたモトルのキックを踏み込んでエンジンをまわると、スタンドから降ろして右手のクラッチを握り込んで左足のギアを踏み込みスロットルをまわしながらクラッチを離して走り出した。
太陽真上まで登り切ったころ、2人は入り江にできた大きな港町に到着した。
モトルを亜空間収納にしまい、すぐに冒険者ギルドを探し、そこまでの旅で倒した魔獣やエルフたちを救出するときに倒した悪魔たちの討伐報告をする。
とりあえずいつも通りの事だが、カウンターでギルドカードを出した途端、裏のギルド長室に通されギルド長が直接相手をすることになった。
あまり知らなかったのだが、ここはどうやらライアンの中でも大きな町らしく、東海岸からの鉄道路線も北部を通る遠回りなルートながら通ってるらしい。わざわざ3ヶ月も馬やモトルで旅をする必要はなかったのだ。
討伐した魔獣の討伐場所や時期などを報告し、ギルドの職員たちが鑑定をしている間、ウェンディ達はギルド長の部屋で待つことになった。
今までの経験から、冒険者ギルドのギルド長室はどこも同じような感じらしい。
しばらくしてギルド長が戻ってきて、一通りの買取金や討伐依頼が出ていた魔獣への報奨金。また、悪魔たちの殲滅に対しての報奨金が支払われた。
「さて、じゃぁギルド長、ここから東に向かって出る船か何かはないかな。私たちはここから東にまっすぐ行った国に行きたいんだ。」
「東かぁ…。あんたたちがどこに向かっているかは知らないが、この太洋を越えていく船は存在しない。ただ、太洋に浮かぶ小さい島国に向かう連邦政府の連絡船があったはずだ。ここの町からは出ていないが、入り江の入り口にある大きな街から出ていたはずだ。探ってみるといい。」
ギルド長室をでた2人は、そのままギルドを出ると、町の中の銃砲店を探す。
店の中に入り、店内を見渡すとおもしろいものを発見した。
「ライフルとショットガン?」
「へ~。欧州のマスケットとかとは違うのかな。」
「そこいらの銃はこの国で作られた最新式だよ。」
見ていると、銃砲店の店主がカウンターから声をかけてきた。
カウンターから出てきた店主が壁に掛けられたライフルを手に取ると、構えて見せる。
「いい銃だよ。狩猟で使うんでもいい。だが護身用で持つんならこいつは大きすぎるかな。あと、お嬢ちゃんたちみたいな子供には、まだまだこんな銃は速いかも…。」
銃を持っていた店主は、2人の腰にある銃と刀を見て、一瞬で表情が変わった。
持っていた銃を壁に戻すと、静かに身体をかがめて2人と視線を合わせた。
「で、お嬢ちゃんたちは何を買いに来たんだ?」
余計なことは何も聞かず、必要なことだけ聞いてくる店主に、2人は顔を見合わせてから店主の顔を向いた。
「私は近接戦闘でピストルより強い銃が欲しい。」
「私は遠距離での攻撃がしやすくて魔術と並行して使うのにも扱いやすい銃が欲しい。」
それぞれが欲しい銃をそれぞれ伝えると、それを聞いた店主が何種類かの銃を持ってカウンターに置いた。
カウンターの中に戻った店主がカウンター内の棚から厚紙の箱を取り出してくる。
「まずは、そっちのメイド服のお嬢ちゃんだ。遠距離ならライフルだろう。こいつは、嬢ちゃんたちが使ってるようなリボルバーとは違い火薬や弾丸に雷管までひとつの金属の筒に封じ込めた薬莢と呼ばれるものを使う銃だ。装填速度も早ければ湿度にも強い。水につかっても撃ちだせるから雨の中でも撃つことが出来る。」
説明されながら、ロッティがいくつか並べられた銃から一つ手に取って構える。
ウェンディより少し身長の低いロッティには少し大きいように見えるが、握り込んだり少し向きを変えたりしている。
そのままいくつか構えてみてから、結局最初に持っていた銃が気にいたようだ。
「ロッティそれにするの?」
「うん。これが一番しっくりくる。構えたときに無理もないし。少し重いけどこれくらいなら全然大丈夫。」
「M66ブラスラードか。そいつに決めるのか?装弾数は17発。弾丸はこれだ。44リムファイア。50発で5Pだ。」
「これこの国の外でも手に入るかな。」
「そうだな。手に入れようと思えばポルトやイスパニヤ、ガリアなら手に入るかもな。今でこそ交易をおこなっていないが、やろうと思えば手に入るはずだ。」
ロッティがおかれてた革のベルトの長さを調節していると、次に店主がカウンターの上のライフルを片付けて少し形の違う銃をおいて行く。
ロッティが選んだ銃と同じように引き金の後ろに指を入れて操作するレバーが付いているタイプの銃や、左右や上下に銃身が2つ並んだ銃もある。
「刀の嬢ちゃんには、このショットガンなんかどうだ?射程は短いが、複数発の弾丸を一度にばらまけるし威力も高い。近距離ならこいつの方がいいだろう。反動はでかいが、剣2本も振り回すような奴なら問題ないだろう。」
並べられたショットガンはどれもロッティのライフルと同じように銃床が付いている全長が長いものが多い。
並べられたものを見比べていると、銃床が付いてない短い銃があった。
「M87か?ソードオフならほかにもあるが…。確かに装弾数はこいつの方が多いし、悪くはないが重くないか?」
「大丈夫。これでいい。」
「わかった。銃弾はこいつだ。魔獣や人間相手に戦うんならバックショットがいいだろう。」
厚紙の箱がおかれ、ふたを開けて中から円柱型の金属製薬莢が出てくる。ロッティの弾丸とは全然形が違う。
「こいつは再装填しようと思えばできるが、どうする?雷管と弾丸いるか?」
「いやいい。ガリアでも手に入るんならそれでいい。ただできるだけ買い込んでいこう。」
「よし、じゃぁ調整しよう。まずは刀の嬢ちゃんのホルスターだ。腰の後ろでいいだろう。」
腰の後ろのつける形でショットガン用のホルスターを調整してもらい、銃や刀を付けて重くなったベルトをハーネスが付いたものに交換し、ハーネス部分に散弾をつけることにした。
一通りウェンディの調整が終わると、今度はロッティのベルトの調整に入る。
ロッティが調製している間、ウェンディは店の端の椅子にすわって煙管を咥えていた。
「ん?嬢ちゃん煙草を吸うのか?」
「これは煙草じゃないよ。どちらかといえば薬草かな。体力や魔力の回復効果と若干だけど怪我の回復効果がある。」
「なるほどな。なら、ライターなんてどうだ?最近オイルとフリントさえあれば水中以外どこでも着火できるぞ。」
「う~ん。まぁどこでも火がつけられるんなら、もらおうかな。」
「あいよ。」
銃を受け取り、ピストルの弾丸も購入して銃砲店を後にする。
2人は一度別れ、その町のことを調べるためにそれぞれで町を歩くことにした。
ロッティは町の中心街を、ウェンディは町の外縁部に当たる庶民街を見て歩き、地元の人と言葉を交わしながらこの町や周辺の事を調べ、日暮れ前に2人ともそれぞれ食事をとって日が暮れたころに宿の近くの酒場に集合した。
一通りまわってロッティが酒場に入ると、ウェンディがカウンターでグラスに口を付けていた。
水や牛乳を注文するよりも、酒を注文した方が実は安かったり確実だったりするのだ。
「お待たせウェンディ。何飲んでるの?」
「バーボン。」
「じゃぁ私はバーボンの炭酸割りで。」
バーテンダーがカウンターで酒を作るのを横目で見ながら、ロッティが懐から折りたたまれた紙を取り出して差し出した。
受け取ったウェンディが広げてみると、それはここいら一帯の地図だった。
「ここが今私たちのいるサンノゼ。中心街の商店とかいろいろ聞いてみたんだけど、ここから出てる船はどれも漁船とか入り江を出て湾岸を走る小型の連絡船だけなんだって。で、さっきギルド長から教えてもらった連邦政府の連絡船。それが出航するのがここ、入り江の入り口にあるシスコって街なんだってさ。」
「ハイボールお待たせしました。」
説明を終えたところで、ロッティの頼んだ飲み物が出された。
「私の方でも、ここより大きい港町については調べが付いた。湾岸線を通るよりも内陸をいった方がいいらしい。湾岸線は高低差が少ない分大きな荷物とかを運ぶ車列が多く通るらしい。こっちに通行量のあまり多くない道があるらしいから、そっちから行こう。」
「いいね。シスコに移動したら、そこで連邦政府の船に乗せてもらえないか掛け合ってみよう。」
「ダメだったらそのままさらに北上して氷続きになってるらしい道から行こう。」
「とりあえず、ここには今日一日だけ滞在して明日にはシスコに向けて出発しよう。」
ちびちびと飲んでたグラスの酒を一気に飲み干して、コインをカウンターにおいて店を出た。
宿に戻って2人ともそのまま床につく。
エルフと精霊の里や悪魔の基地などのあまり体験できない事や、大陸の反対側まで来たという達成感で、2人ともすぐ夢の世界へ意識をいざなわれた。
旅を始めて、ここまで深い眠りは、2人とも初めての事だった。




