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第20話 アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

 2017年のアメリカ映画だ。

 アメリカの女子フギュア選手ーートーニャ・ハンディングの半生を描いた実話ドラマ。

 主人公のトーニャは貧しい家庭で育ったんだけど1992年のアルベールビル五輪、そして1994年リレハンメル五輪に米国代表として出場している。


 話が横道に逸れるが、「あれ? オリンピックって4年毎なのに1992年の次が2年後の1994年って…なんで?」と思った人の為に説明しよう。

 ズレたのです。1992年大会が終わってからズレたの。理由は明確ではありません。なぜ明確ではないかというとオリンピック委員会からの正式発表がないから。

 但し、大よそな想像はつく。

 元々は夏のオリンピックも冬のオリンピックも同じ年に開催してたんだけど、今でも夏の方が参加国が圧倒的に多いせいもあって、冬のオリンピックって「夏の前座」のような感じだった。それ故に冬のオリンピックの注目度を上げようとして開催年をズラした、っていうのが第一で、次にテレビスポンサーもその方がちょうどいい具合にスポーツ番組を組めるーーこれってスポーツ大好き国家のアメリカの都合が大きいのだろうけど。


 この映画は確かに実際に起きたスキャンダルを基に描かれてはいる。

 そのスキャンダルというのを簡単に説明すると、アルベールビル五輪米国女子フギュア代表だったトーニャ。そのトーニャはどうにも男運が悪くて、夫のジェフがアメリカ国内におけるトーニャのライバルと目されていたナンシーに脅迫状を送り付けようと計画して友人のショーンに依頼するが、そのショーン、何を考えていたのか勝手に襲撃計画に変更して実行してしまい、トーニャ本人までがナンシー襲撃事件の中心人物として訴えられる、というのがこの映画で描かれていた実際にあったスキャンダルの真相なのだろうが、どこまでが真実なのかが全く分からない。というのも本当にトーニャのあずかり知らぬ所で起きた事件であってトーニャはある意味で被害者のような描き方をなされいるが、どうなんだろう?

 ただ、リレハンメル五輪後にーートニャは残念ながら8位ーー裁判にかけられ、執行猶予がついたものの、もろもろの罰金と全米スケート協会からの抹消によってフギュア大会に出場することが禁止される旨の判決を聞き、「服役する。執行猶予なんていらない。だからスケートを続けさせて!」と涙ながらに訴える。このトーニャの発言が事実なのであれば、この映画で描かれた真相なるものーートーニャも被害者というのは事実なのかもしれない。


 主役のトーニャ役を演じたのは1990年生れのマーゴット・ロビー。この女優と言えば2016年公開の「スーサイド・スクワット」でハーレイ・クイン役ーーめっちゃかわいくてセクシーでハチャメチャなキャラクター役で大ブレイクしたのは有名だが、同年公開の「ターザン」ではジェーン役、そして2019年公開の「二人の女王メアリーとエリザベス」ではエリザベス一世を見事に演じている。この映画ーー「二人の女王」って最近観たんだけどハーレー・クインと同じ女優が演じているなんて全然判んなかった。出演している映画を観たくなる女優だわ。


 話を「史上最大のスキャンダル」に戻すが、主役のトーニャってアメリカのフギュア女子で初めてトリプルアクセルを成功させた物凄い選手なんだよね。そんなアスリート役を演じるマーゴット・ロビーはフギュアスケートの猛特訓ーー四か月間週5日で1日4時間ーー自分の結婚式の前日までリンクにたったらしく、映画の中で1991年全米選手権でトリプルイアクセルを成功させるシーンがあるんだけど、実際の当時の映像と、マーゴットが滑ってるのを比較させる映像になっているんだけど、いやいやいや、マーゴット姉さん凄いわ。当然トリプルアクセルなんて飛べる訳がないんだけど見事なスケーティングなんだよね。


 しかしこの映画ってどうなんだろう?

 確かにとんでもないスキャンダルである事は間違いないんだけど、トーニャがトリプルアクセルを飛べる超天才であったのは事実で、その事実がどれだけ凄い事なのかの知識が無い人がこの映画観たら、ただのスキャンダラスな女子フギュア選手って印象を持ってしまいそうだ。


 あえて書こうと思うのだが、実際にトリプルアクセル(3A)ーー3回転半ジャンプの成功を国際スケート連盟が認めた女子選手は次に記載の人しかいない。


 ① 伊藤みどり(日本)            1989年世界選手権

 ② トーニャ・ハイディング(米国)      1991年全米選手権


 ※ 10年間 新たな成功者なし


 ③ 中野友加里(日本)            2002年スケートアメリカ

 ④ リュドミラ・ネリデイナ(ロシア)      上記と同じ大会

 ⑤ 浅田真央(日本)             2005年世界ジュニア選手権


 ※ 10年間 新たな成功者なし


 ⑥ エリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア) 2015年世界選手権

 ⑦ 紀平梨花(日本)             2016年ジュニアGPスロベキア大会

 ⑧ 長州未来(米国籍の日本人)        2017年USインターナショナルクラシック

 ⑨ アリサ・リウ(米国)           2018年アジアフィギュア杯

 ⑩ アリョーナ・コストルナヤ(ロシア)    2019年フィンランディア杯

 ⑪ ユ・ヨン(韓国)             2019年スケートカナダ

 ⑫ 樋口新葉(日本)             2021年ジャパンオープン

 ⑬ カミラ・ワリエワ(ロシア)        2022年北京オリンピック


 現在ーー2022年において国際スケート連盟が認めた3A成功者はたったの13人。中でも、トーニャが成功してからの10年間と、真央ちゃんが成功してからの10年間は、新たに成功した人が現れていないという事を考えても、超ウルトラ高難度で奇跡的な技であることが解る。


 併せてが、真央ちゃんは3Aを初めて成功した2005年以降も、何度も何度もーー何年ものあいだ成功させ続けているので、それをTVで視聴していた日本人の大半は、「3Aの新たな成功者が10年間も出ていなかったなんて知らなかった」という人が大半でしょう。いかに真央ちゃんの存在が大きかったかというのが解るエピソードなのだが……それにしても腹が立つのは、「キ〇〇ナ贔屓の疑惑の採点」と「真央ちゃん下げ」に終始した日本のテレビ局……今思い出してもハラ立つわ~~。

 参考までに書くが、オリンピックという基地外じみた舞台で3Aを決めたのは、伊藤みどり、浅田真央、長州未来、樋口新葉、カミラ・ワリエワの5人しかいない。 


 この映画ーー史上最大のスキャンダルで描かれたトーニャは、当時のアメリカでは相当に叩かれた…なんてもんじゃなくって、アメリカ中から憎まれ、嫌われた女性なんだけど、3A成功者が未だに13人しかいない中の1人なんだよね。女子選手で3Aを決めることが出来て、それを公式に認められたトーニャは「神に選ばれた一人」なんだと俺は思うな。


 話が映画から大幅に逸れまくるが、世界で初めて3Aを決めた女子選手ーー伊藤みどり氏は恐ろしい選手なんだよね。

 当時は「100年に一度の天才」って言われていたけど、もう伊藤みどり級の選手が現れることなんてないんじゃないかな。なんて言ったらいいのか……「3Aを決めることが出来るようにジャンプを練習した」って感じじゃないんだよね。「恐ろしいほどに飛べるから、誰も決めたことのない3Aをやってみよう」って感じだったんだと思う。彼女のジャンプはとにかく凄い。ジャンプに入る直前のスピードも凄いし、飛んだ高さも凄いし、飛んだ距離も凄い。

 真央ちゃんも超天才なのだけれどレベルが違い過ぎる。YouTubeで真央ちゃんが決めた3Aと伊藤みどりが決めた3Aを横に並べて比較している映像があるんだけど、「うわ…なんだこれ?」って思っちゃうから。


 伊藤みどりが3Aを認められてから33年が経って、彼女以降12人が認められてはいるんだけど、その中で「ああ、これは伊藤みどりの再来だ!」って思えるジャンプは誰一人できていないのが現状で、それはこれからも同じだろうな。

 伊藤みどりの最盛期に決めた3Aって「70㎝超のジャンプ」で、そもそも女子フィギュアの到達点を遥かに超えちゃってて、男子の最高レベルと肩を並べるらしい。

 昔ーー女子バレーボールでキューバがとにかく世界一だった時代、キューバの選手って全員が凄いジャンプ力で、確か1メートル飛ばなかったら「飛んだ」とは言わずに「跳ねた」というって聞いたのを覚えているんだけど、伊藤みどりがスケート靴履いてリンクの上で70㎝飛んだ当時、床の上でそれ専用のシューズ履いて走り込んだら1メートル飛べたんじゃないかな。とにかくそれほど身体能力がずば抜けた人ならどんなスポーツやっても成功するだろうけど、そんなバケモノみたいな身体能力の人が子供の頃からフギュアにどっつりハマる環境に生まれ育つってのは、今後ないだろうな。


 俺は伊藤みどりの事を映画にしてほしいと、この映画ーー史上最大のスキャンダルを観てつくづく思った。

 伊藤みどりって女子フィギュアの概念をぶっ壊した人なんだよね。彼女が国際大会にデビューするまではーーいまでもそう言う部分ってあって「優雅さ」ってものが最も求められていて、採点方法も「この技は〇〇点」というのは一切なくて審査員の主観がメインで「流れが良かったから〇〇点」てな感じ。おまけに「ショート」と「フリー」のほかに「規定」ってのがあって、決められた図形通りに2回、3回と滑るって競技なんだけど、伊藤みどりはこの規程が苦手でカルガリー五輪の時の「規定」では10位通過だったんだけど、フリーでその憤懣を爆発させた伝説の演技を披露するんだよね。

 それは、男子以上の高さでジャンプして、どんどん加速して三回転トゥループの連続コンビネーションなんかをバンバン決めて、しまいには演技中なのにガッツポーズをガンガンやちゃって……もう衝撃的な演技。今でもYouTubeでこの時の伊藤みどりの演技が観れるけど、あれは最高なんてもんじゃない。うんうん、決して「優雅」って印象じゃなくって、俺なんか「これは突撃小僧だ!」って思ったけど、フギュア女子のルールまで変えさせた演技だから「破壊神」って言った方がいいのだろうな。とにかくすんげー勢いで滑り続けて飛びまくって、カッコいいんだよな~~。そうしたら大勢の観客ーーオリンピック会場なんだから数万人はいたと思うんだけど、もう総立ちのスッタンディングオペーション。

 でも結局は5位でメダルには届かなかった。要は技術は凄いんだけど優雅ではない…とかなんとか。


 オリンピックのフギュアってエキシビジョンってあるだろ。あれの出場者の順番って本戦で下位の人から出場ってルールらしくて、この時も3位の人から出てきたもんだから「5位だった伊藤みどりは出て来ない」って判った途端「なんで伊藤みどりを出さなんだ! ふざけるな! 伊藤みどりを出しやがれ!」ってな苦情が殺到。その結果、エキシビジョンが終わった直後に伊藤みどりを登場させて滑らせたの。そう彼女が大トリ。本戦で5位だったのに。この年の五輪ーーカルガリーオリンピック主催者者側の粋な計らいは後世の語り草だ。

 ちなみにこのオリンピックから「フギュアは芸術なのか、それともスポーツなのか」って論争が今でも続いている。

 併せてだが、カルガリー五輪の翌年に行われた世界選手権で伊藤みどりは世界一になってるんだけど、技術点では9人の審査員の内5人が満点を出してフギュア史上最高得点をマークしている。その後、審査基準が変更となったので、旧基準では伊藤みどりの点数が最高としてギネスに登録されているそうだ。


 映画の話とはまるで違った話になっちまったけど、「史上最大のスキャンダル」を観て俺が意の一番に思ったのは、前にも書いたが「誰か伊藤みどりの映画を作ってくれ!」だ。エンディングは「優雅さなんてどうだっていい! あたしゃ飛ぶぜ!」てな感じでバンバン飛びまくって、ガッツポーズやりながら強烈なスピードで滑る伊藤みどりの雄姿で締めるってのはどーよ。「オオオオオオ!!」とか雄叫びも上げて欲しいわ。

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