三十九本目
彼女が敵であることが分かれば、後は簡単だ。
お父さんに会いに行くまでに何かしらの武器を手に入れればいい。
何でもいい。
包丁でもすり鉢でも、縄でも。
彼女を確実に一息で殺せる何かを。
どこか途中で、彼女にばれないようにしないと。
僕以外の皆が彼女の言葉を信じたことを考えると、僕の味方はいない。
本当に僕は一人ぼっちだ。
周りに人はいるけれど、みんな敵なんだ。
誰にもばれてはいけない。
阻止されたら僕の負けだ。
そうなってしまえば僕もお父さんも死んでしまう。
いや、殺されてしまうだろう。
彼女は黒い影が僕らを殺しに来ると言っていたけれど、あれも嘘だ。
彼女が僕らを殺して回ったのだ。
咲希ちゃんは死に際に黒い影を見たと言っていた。
本当はその黒い影は、桜花の影だったのだ。
死ぬ寸前の咲希ちゃんに判断する力があったとは思えない。
村の誰も黒い影の話なんてしなかった。
そんなもの存在しないという決定的な証拠だ。
彼らが知らない事は、ないのだ。
間違っているのは、
嘘を吐いているのは、桜花なのだ。
僕は背中に力を入れて、みんなを先導する明樹を見た。
この中でも一番背の高い彼は、この暗い中見えているのだろうか。
彼の目には、この世界はどのように映っているのだろうか。
僕には到底想像できない事だ。
殿を務めるなんて、大仰にいって最後について歩いている僕。
誰も疑問を持たなかった。
もしかしたらみんなは疑うことを知らないのかもしれない。
気づいているのは僕だけなのかもしれない。
そうぽつり、ぽつりと雨が大地に広がっていくように疑惑が心に染みる。
ふと地面を見れば、棒が落ちていた。
迷うことなく静かに拾った。
余り長いものではないから、背中にかくして持っていけそうだ。
ズボンについている後ろのポケットに刺して、上着で隠した。
・・・誰も気づいてはいない。
同じような要領で、食事の時に使うナイフを手に入れた。
これだけでは少し心もとないけれど、機会を逃さなければ大丈夫だろう。
確実に彼女を殺せば大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせる。
僕ならできる。
大丈夫だ。
僕は世界を守る救世主だから。




