ボクと虹
梅雨が明けた7月のこと。 ボクが拾ってきた犬が、いつも 寝ているクッションの上にいた。
名前は、アチャウ。お母さんと おばあちゃんの好きな不思議の国 アリスに出てくる『アリス』『チ シャ猫』『白ウサギ』から名前を 考えたんだ。 アチャウは、茶色と白の柴犬。 初めて触ったとき、思ったよりも 毛が固くて驚いたのを今でも覚え てる。 散歩も大好きで、一緒に走った りした。 泣いてしまったときはそばにい てくれたし、寒い日は一緒に寝た りもした。
そんなアチャウが、冷たい塊に なっていた。
最初は悪い冗談だと思った、そ うやって逃げた。声をかけても、 アチャウの好きな煮干しを取り出 しても動かない。 人生で初めてっていうくらい、 泣いた。 外は土砂降りの雨が降っていて 、ボクの心を映しているようだっ た。
少し落ち着いた頃、おばあちゃ んが手招きしていた。後を追いか けると、田舎って感じのする我が 家の縁側に腰を下ろしていた。ボ クも腰を下ろす。 相変わらず、雨が降っていた。
「落ち着いたかい?」
優しい口調でいうおばあちゃん の声が、心に染みて、涙目になる 。
「ほれほれ、泣くんじゃないよ。 アチャウが天国に行けないでしょ う?」
ハンカチ......というより手ぬぐ いを取り出しボクの涙を拭き取っ ていく。
「おばあちゃん、なんでアチャウ は死ななくちゃいけなかったの? それに、天国なんてないよ!! 天国なんかよりボクの所に居た かったはずなのに......」
知らず知らずに出てくる言葉を 吐き出し続けた。おばあちゃんは 、うんうんと聞いていた。
「お茶飲みなさいな」
2時間くらい言葉を吐き出し続 けたボクは疲れきっていた。 いつの間にやら、雨は止み、綺 麗な夕日が辺りを包んでいた。 僕はお茶を受け取り啜っている と、おばあちゃんが「あれを見な さい」と指をさしていた。
顔を上げると、七色に輝く虹が あった。夕方で見たのは初めてで 、七色というより全体的に赤っぽ くなっていた。
「虹というのはね......」
寂しそうにおばあちゃんが、ポ ツポツつぶやき出す。
「虹は、心なんだよ。あの色は、 きっとアチャウの色。アチャウの 思い出と、願いなんだよ。怒った り泣いたりして楽しい日々を送っ た。それを虹で表しているんだよ 。でも、大好きな御主人様が泣い ていちゃ、天国に行けないでしょ う。確かに天国は無いかもしれな い。私はあると信じてる」
一言一言強く話すおばあちゃん は、優しい顔をしながらも震えて いた。トントンと背中を叩くと、 少し震えが治まった。 お茶を飲んで話を続けた。
「アチャウは、笑うことを望んで るはずだよ。泣いてたら、傍にい なくちゃって、助けなきゃって頑 張っちゃうからね。 虹のように、輝く人生を歩きな さいな。アチャウの為にも」
真剣な顔でそういうおばあちゃ ん。ボクは、少しだけ元気になれ た気がした。 天国なんて信じてないけど、ど こかで笑ってるといいな。幸せだ といいな。
「うん、ボクはアチャウの為にも 、笑う! ずっと笑って、笑って る!!」
「それがいいさ。おばあちゃんも 、笑ってる顔が大好きだからね」
ボクは笑ってることを約束した んだ。
「アチャウ、もう大丈夫。ボクは 、元気だよ!」
そういうと、アチャウが安心し たかのように、虹は消えていった 。




