カミラちゃんの悪巧み その4
バーンと体育倉庫の扉が開いた。日の光をバックにしたシルエット。そのシルエットは手にしたものをこちらにぶちまけた!
ざばーっ…と冷たい感覚に俺は我に返った。全身ずぶ濡れでしかも上半身裸。リィが仁王立ちでバケツを下げている。
「魔王様…いや、夏!お前は女と見ると見境なく、こんな少女まで手を出すとは」
「えっ?少女?」
傍らを見ると裸で倒れているカミラちゃんが…
(うそ!まさか、俺、やっちゃたのか?うそだろ?犯罪者だ~)
カミラちゃんは魔界人で見た目はともかく、自分よりもずっと年上であるとはいえ、やはり浮かぶのは
「犯罪者」の3文字である。
「ファナといい、カミラといい、お前は敵の女をモノにするのがお得意と見える」
「いや、これはその、カミラに襲われていたのは自分の方で、えっ?敵?」
「カミラはドミトル伯の妹だ」
「えっ?ドミトル伯の?」
「カミラ・ラ・ツエッペリよ…」
カミラちゃんの自己紹介の回想シーンが巻き戻される。
「ええええええ…」
背中に冷たいものが走った。
「あん…もうカミラダメ…魔王様にもうメロメロなの…」
寝言を言うカミラちゃんを見て、俺はあのキモイケメンのドミトル伯爵に
「お兄さん、カミラちゃんを俺にください!」
と言っている自分の姿を想像した。いや、それよりも立松寺になんて言おう。いや、それよりも目の前のリィだ。立松寺に嫉妬深いのどうの…と言っている割には、このダイナマイトボディのお姉さんも結構な焼きもち屋さんだ。ファナとの一件がばれた時も、最初は殺させかねない勢いだった。こっちは主人たる魔王様であるのに。といっても、リィに対抗できない一般男子程度の力しかない俺。本当に魔王様なのか?
カミラちゃんの首筋に14の文字が…魔王にキスされないと覚醒しない側室の証である。
「序列14位とは、魔界の貴族令嬢の割には低いな。だが、キス以上をしたとなると、その力は侮れない。お前、ちゃんと責任取れるんだろうな」
「俺も男だ。食っちゃった以上は責任を取る!」
「ほう…さすが魔王様だ。それでは華子ちゃんを呼び出すとするか…」
リィが携帯電話を取り出す。
(お前、魔界の悪魔のくせにケータイ持っているのかよ!)
「ちょ…ちょっと待て!リィ、それはちょっと待て」
俺の心臓がバクバク言っている。リィはともかく、彼女の立松寺に見つかったらヤバい…
「何を言う。これで魔王様は戦力増強、ついでに夜の生活も増強ではないか」
(こいつ、完全に俺をいじめているな)
「いや、立松寺には俺から話すから、呼び出すのはやめてくれ!」
「ふふん…じゃあ、止めてやってもよいが、そのなんだ。カミラにしたことを今晩、私にしてくれるなら、その、あの、許してやっても…よ、よいぞ。べ、別にさみしいとかそんなんじゃないからな。お前は最近、私のところに来てくれないから、たまには来てもいいというぐらいで」
(えっ、ここでデレかよ…)
急に顔を赤らめ、モジモジする悪魔のお姉さん。とにかく、立松寺に知られるという最大のピンチは逃れそうだ。
「わ、分かった。今晩、リィのマンションに行くから」
「本当だろうな。約束破ったら、魔槍で一突きだからな」
洒落にもならないセリフ。リィのフィン・マークルで一突きされたら、間違いなく滅殺されてしまう。
「ああ。約束するとも。だから、立松寺にはしばらく内緒で…」
「じゃあ、約束の証だ。私にキスしなさい」
「えっ、今、ここで?」
「わ、私のこと愛しく思っているなら、で、できるはずだ。キスしなさい…というか、キス、してくださいというか」
まともに俺の顔を見ないで話すリィ。こういうところがたまらなくいいのだ。
俺はリィの腰をぐっと引き寄せるとそっと唇を重ねた。
甘い香りが広がる。