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断頭台でも絞首刑場でもお白洲でも調理場でもなく

僕の首には、白髪女性から剣が向けられている。


ただ目前の白髪女性の目がとても静かで、わかりやすい殺気がない。


いつこの剣を突き出しても、それが自然なことであるかのようで……


解りやすい殺気や劇場なら感情の揺らぎで相手の動き出しが表れるけど、ただ『そう』であるような動作だと相手が動いている事も認知できない。


僕の首に剣が向けられて、どれ位の時間がたっただろう。

時間の感覚は無くなっている。


実は、僕は既に首を貫かれていて、これが最後に認識できた光景なのかもしれない。

なんて考えだしていると、相手が息を吐き、剣を引いた。


どうやら、僕は生きていたようだ。


そう思うと、全身の力が抜けて全身から汗が噴き出した。


白髪女性は剣を鞘にしまうと、ニヤッと笑って振り返り、入ってきた扉から出ていった。

お付きの衛兵たちも一緒に出ていく。


部屋には椅子に座ったままの僕と、僕を抑えている隊長の部下の人、そして各扉に二人ずつの衛兵がいるだけになった。


「すごいな、お前。ベス様の剣に向き合って目をそらさないなんて」


隊長の部下の人が小声で僕に言ってきた。

やっぱり有名人なのか。この世界の高齢者が皆同じようだとしたら、若者には厳しい世界になる。


RPGみたいにレベルアップしかなければ必ず高齢者の方が獲得経験値が多いから、若者はずっと高齢者から顎で使われる、そんな世界は御免こうむりたい。


僕はしばらくの間、体に力が入らない状態だった。

まだ体に力が入らない所で、向う側の扉が開いて、入ってきたのは侍女らしき人達だった。


侍女の一人が僕を抑えている隊長の部下の人に耳打ちすると、肩を抑えられていた手の力が抜けた。


そして、僕はまだうまく歩けない状態だったが、侍女経達にどこかへ連れていかれた。

連れてこられた先は、大きな浴場だった。


そして、まだ体がうまく動かないところで、侍女達に全身の服を脱がされ始める。


「え、ちょっと待っっつぁ」


すぐに、侍女たちの前で僕の全裸がさらされる。


そして全身くまなく洗われた。


生まれて、前の世界も含めての、初めての体験だったが、やはりうれしいより恥ずかしいが強い。

なにせ、2度目の思春期なんだから。


侍女達がにこやかだったのが尚更恥ずかしさを強めた。

ついでに変なところも触られたし。


風呂が終ると、また侍女達に全身をくまなく拭かれる。

そして、元の服とは似ても似つかない、清潔な服に侍女達の手によって着替えさせられる。


これはあれかな。

死ぬ前にきれいな体で、ということなんだろうか。

それとも王城では食人の習慣があって、食べる前の下ごしらえの可能性もわずかだがあるかもしれない。


その後連れてこられた部屋は、断頭台でも絞首刑場でもお白洲でも調理場でもなく、謁見の間だった。


「この王城までの長旅、大変だっただろう。私がそなたに直接会いたい、と頼んでな。浴室はどうだった?あそこは私もお気に入りなんだが」


一番奥で、椅子に座っている人が話しかけてきた。

なにあれ、あそこって玉座じゃない?あそこに座ってるってことは、王様?


僕がきょとんとしていると。


「あぁそうそう、まだ名乗ってなかったね。私はカイゼルド・ホーンベルク。君の父上の弟になる。そして、この国の王だ。公の場所以外は、身内にはカインと呼んでほしい」


なにこの態度?何がどうなったら国王がこんなにフランクに話してくるの?


「順番的には次は私よね?!」


とウキウキした感じで王の隣の椅子に座っている女性が周りに確認を取っている。周りの人達は了承するように頷くと、女性が嬉々として話し出した。


「えぇ~、こほん。私の名前はロゼリンド。みんなはロゼって呼ぶわ。カインの奥さんになりま~す。あなたからすると、おばさん、になるのかしら?えぇ、私がおばさんだなんて、いや~ね~。でもおばさんって呼んでも仕方ないから許しますよ?でもやっぱりロゼさん、って呼んでほしいかな?」


妙なテンションの人は、王妃だった。

王様が王様なら、その王妃も王妃だった。


よく見ると、王様と王妃様が座っている玉座から一段下がった場所の椅子に老夫妻が座っていたが、婦人の方は見覚えがあった。


僕を取り調べた、あの人外の動きをした白髪女性だ。


男性の方も品があるというか、老紳士といった感じだが、目には涙を浮かべている。

感極まったのか、老紳士が僕の方に向かって抱き付いてきた。


「うぅおぉ~、大変だったどう、苦労したんだなぁ。よくがんばったな、我が孫よ~」


僕に抱き付きながら、大泣きをされてしまった。

それをみた老婦人が呆れた顔をする。


「まったく、先の国王ともあろうお人がだらしない!もう少し威厳を持っていただかないと」


どうやら僕に泣きついている人は先の国王で、僕の祖父上のようだ。

そして、あの人とは思えない動きをした老婦人は、先の国王の妃?で僕の祖母上?その割には祖父上とのギャップが激しい。


「ほらあなた。自分の孫に名乗りなさいな。そうしないと私の番が回ってこないわ」


祖母上?が祖父上に促す。


「ぐすっ、そうじゃな、うん。あぁ~、儂はエスペリア・ホーンベルク。先のこの国の王で、今は息子のカインに譲って隠居の身じゃ。そして、お主の父ドルフは儂の息子じゃ」


祖父上が名乗った後、やれやれという感じで祖母上?が話し出した。


「やっとあたしの番さね。さっきも会ったねボウズ。あたしはこの先の王、エスペリア・ホーンベルクの妻、エリザベート」


先王妃だと、城内で剣を持っていたのも頷ける。ということは、この人が僕の祖母上?


「あぁ、あと勘違いしなさんなよ?あたしはあんたの祖母じゃぁないからね」


?どういうこと?


僕が首をかしげると、僕に抱き付いている先王様が思い出したように振り返った。


「おぉそうじゃった。ハンナ!!お前もこっちに来て孫の顔を見ないか」


エリザベート先王妃の後ろから、年老いた侍女が前に出てくるが、先王妃の方を振り返っている。


「いいよハンナ、あんたの孫だ、存分に可愛がっておやり」


先王妃がうなずくと、その侍女が僕に抱き付いてくる。

先王は侍女に譲るように僕を離した。


「本当に大変だったろうね・・・ゴメンね。私が息子をきちんと躾けられなかったから、その息子のあなたに大変なことを押し付ける形になって・・・」


えぇ~っと、まだ訳が分かっていない。父上は先王の子供だけど、その母親はこの侍女の人ってことだから、ということは妾の子ってこと?


だから先王と先王妃にリアクションの差があったのか。

しかし、きょうは死を覚悟していたのに、抱き付かれて泣かれるとは予想もしてなかった。


ハンナと呼ばれた僕の祖母上?に抱き付かれて泣かれていると、どうやら王妃様がなにかそわそわして、誰かに手招きをしている。

まだ何かあるのか・・・・


王妃が手招きした先から、小さな女の子が二人、侍女に連れられて前に出てきた。


「ハンナ、お孫さんとの初対面のところゴメンなさいね。でも、娘たちも早く紹介したいの」


王妃がそういうと、ハンナ祖母上は抱き付いている僕を離し、涙を拭いながら僕から少し離れた。


「いえ、王妃様大丈夫です、すみません」


とまだ涙を抑えている様子のハンナ祖母上をよそに、小さな女の子たちがモジモジしている。

僕より少し小さい位かな?


「わたくし、セレナ・ホーンベルク、この国の第一王女ですわ」

「わ、わたしは、ソフィア・ホーンベルクです・・・、第二王女です・・・」


二人の挨拶が終ると、王妃が二人に抱き付く。


「よくご挨拶できましたね~」



どうやら、僕の身内がここに勢揃いしたようだ。

感動のご対面、みたいなのもあったし、命は助かったのかな?ここから死刑になるのはあまりにぬか喜び過ぎるだろう。


そんな中、改めて、と咳払いをして王様が口を開く。


「遠方からはるばる王都まで、大変な道のりだったたろう、ご苦労であった」


王様は悪戯が成功した子供のように笑う。


「ちなみに、あの部屋は別の部屋から中の様子がわるようになっていて、会話も聞超える。なので、先ほどの君とベス母様の会話は、一緒に聞かせてもらった。その会話を聞いて、あと直接君に向き合ったベス母様のご意見も伺った結果、君を家族として迎えることにした」


そのまま、僕は膝から崩れ落ちて、地面に両手を着いた。

力が入らずに立っていられなかった。


そこに、ハンナ祖母上が駆け寄ってきて僕を抱き上げてくれた。


この世界にきて、僕は初めて肉親の腕の中で泣いた。


読んで頂いてありがとうございました。


一気に身内が出て来ました。

前話のひりひり感と最後の解放とのギャップを楽しんで頂けたら幸いです。


登場人物が増えましたので、今度キリの良いところでキャラ一覧をアップしようかと思っています。


今後もお付き合いいただける方はブックマークを、良かったらいいね、評価、感想をお願いします。

豆腐メンタルの筆者にはすごく励みになります。

無いと寂しいです。

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