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1.チャラい、ちょろい

「ようこそ、我らが宮殿へ、プリンセス・マコ。私は海の王子、コムラ・ケンです」


日焼けした甘い顔に、磨き上げたような白い歯、そして完璧なウィンク。

(あ、チャラい!)

とプリンセス・マコは思ったが、そんな様子はちらりとも見せず、少し戸惑いを載せた微笑みを返した。


「あ、ハズしたかな~、ごめんね。僕、新歓担当のコムラって言います。ド平民だから、ちょっと緊張しちゃってて、うん、プリンセスに来ていただくのは光栄なんだけどさ、あくまでも大学では学生同士ってことでくだけてもらいたいなって思って、ちょっとワルノリしました。でも、サークルの活動自体は真面目だからね。そこは信頼してくれる?」


(うん、やっぱりチャラい。そして打たれ強いよね。ハズしたって分かっても、めげず、テンション落とさず、リカバリーにかかれるなんて)

 そして気づく。

(この人、手、震えてるじゃない)

 手だけではない。微かに身体も震えている。リラックスしたように見える笑顔の口元は、力を入れて口角を上げているのが分かる。ちょっとどころかめちゃくちゃ緊張してるのを、何とか軽口でねじ伏せようとしてる。案外、健気だなぁ、と思う。


「はい、よろしくお願いしますね、コムラ先輩」


 プリンセス・マコは、微笑みの明るさを少し上げて答えた。


「んっ、うん、こちらこそ、よろしく」


平静を装いたくても、頬に赤みが差すのは堪えようが無い。

(チャラくて、ちょろいけど、カワイイかも…)

プリンセス・マコは聖女のような穏やかな笑みの裏側で、そんな失礼なことを考えていた。



 プリンセス・マコはヤマト王国の国王の姪にあたる。

 ヤマト王国の国王は象徴的君主で、自らは統治の権力を有しない。国の体制は議会制民主主義だ。更にヤマト王国の国王は男系継承に限られており、女王は認められていない。しかし王室というものは血統によって成り立っている。国王の姪ということは、尊い血統であるということになる。だからプリンセスなのである。


 マコは王室の一員として、様々な儀式に参列を求められ、また他国との親睦の場に出席しなければならなかった。そのため幼いころから礼儀作法を学び、呼びかけられれば必ず穏やかな笑顔を向けるよう心がけた。興味のない式典に出席する時も、事前に下調べをして、適切な言葉で語り掛け、いかにも関心が高いように振る舞った。それが王室に連なるものの責務だったから。


 一方で彼女は王室の外の世界の常識もしっかり学び、一般的な意味での学問・教養も身につける必要があった。彼女はいずれ王室を出なければならないからである。女王になることもなく、近い年齢に王室の男子がいないので王妃になることも考えにくい。王族以外の男性と結婚すれば、王室を抜けて一般人になると決まっている。


 となれば、収入も夫と自分自身のものしかなくなり、住宅、食費、被服費から光熱費までをやりくりしなければならない。医療費なんて王室にいる間は考えもしないだろう。仕事上や住まいの近所での人付き合いも相応に生まれる。子どもが出来ればPTAにだって参加する。食事も今のように王室の料理番に用意させるわけにはいかない。収入があればハウスキーパーを頼む選択肢もあるが、それでも家族の身の回りの家事一通りはできなければ不便だろう。当たり前の、しかし彼女がこれまで経験していない、普通の人生を歩まなければならなくなるのだ。


 結婚せずに、独身で王室に残ることは、できなくはない。つまり永遠のプリンセスだ。求められる役割は子どもの頃からずっと同じ。象徴君主の威光の一部を体現するだけである。さすがにそれだけを一生続ける気もないし、お婆さんになってまでプリンセス・マコと呼ばれるのも嬉しくない。


 国王になることのない王室の女性は、制限は色々とあるが、公的な組織へなら就業が可能だから、どこかで専門職につき、結婚の目途が特に立たなければ、できるだけ静かに王族の身分を返上しようと、プリンセス・マコは考えていた。まだ例はないが、王室の離脱は、適切な理由と十分な経済的自立の目途があれば認められる。


 プリンセス・マコの妹、プリンセス・ケイコは活発な美少女で、時には少し羽目を外した言動で世間をざわめかせることもあったが、そこがより親しみやすい、と国民的な人気が高かった。マコは自然にケイコをおっとり優しく見守る賢い姉のポジションに馴染んでしまう。何せ王族というのは何かとブームになりやすく、そうなると四六時中、国民の注目を浴びるから、どうしても求められる構図にはまってしまうところがある。色白でふっくらとした顔立ちと優し気な笑みの形の目もイメージにぴったり。


 マコは、

(私って、本当におっとり優しくて真面目なんてタイプかなぁ?)

と疑問に思いつつも、

(国民の皆さんの期待に応えるのも王室の務めだしねぇ)

と役割を引き受けて来たところがある。


真面目イメージのままに勉学に励めば、成績も上昇し、ますます優等生イメージが加速、難関大学を自力で突破すると、世間は称賛の拍手を贈った。


 そしていよいよ始まった大学生活、できるだけ一般学生と交流を深めておきなさい、という王家の方針に従ってサークル活動も探してみる。とは言え、公務もあるしハードな体育会は無理。飲み会が主目的のお遊びサークルも世間の目が許さない。といことで当たりをつけたバリアフリー推進活動のボランティアサークルを見学に行くことになった。



 コムラ・ケンは「海の王子」を名乗るが、もちろん王族とは縁もゆかりもコアラもない。夏場に海の家でバイトをしていた時、近くのビーチで開かれていた「海の王子」コンテストにバイト仲間全員でノリで応募してみたら、彼が選ばれてしまっただけのことである。だから自称ではなく本当に「海の王子」の肩書を有している。チャチだけど。そして、そんなコンテストで選ばれてしまう程度には健康的で甘いマスクである。ついでにこちらも難関大学の受験を突破できる程度に、勉強もできる。


 マスクが良くて健康的で頭も良ければ、当然モテる。だから女の子を次から次へとっかえひっかえかと言うと、そんなことはない。そんなことをしている時間と金がなかったから。


彼は母子家庭の苦学生だった。母親はそこそこ賢く、プライドの高い人だったから、絵に描いたような貧乏ということはなかった。学校も行けたし、私立の名門大学にも入れた。が、家計はいつも余裕はなく、彼も高校時代からアルバイトを始めていたし、奨学金も当然申請した。だから成績は落とせないし、アルバイトも続けなければならない。ナンパだデートだとコストパフォーマンスの悪いことをしている閑がなかった。


 サークル活動もそれほど熱心だったわけではない。バリアフリー推進活動のサークルは、活動内容も人脈も就職活動に有利なのと、福祉機器に使用する魔道具の魔力充填ができる体質だったからだ(異世界恋愛だから!)。


 福祉機器は複雑な動きと微妙な力加減を要するので、通常の動力を使う機械、器具より魔道具の適する範囲が広い。魔道具はパワーはあまり大きくないが、使用者の感覚に馴染むことで自然にカスタマイズされるからだ。しかし魔道具に魔力を充填できるほどの魔力を持つ者は人口の5%程度と言われている。魔力そのものを売買することは禁じられているので、魔道具の使用は無償提供に頼るしかない。希少な血液型の献血と同じである。


 魔力の豊かな人は、比較的高学歴、高収入層に多く、また昔は権力にも結び付きやすかったから名門旧家の出身者も多い。魔力提供が歓迎されるこのサークルの人脈が就職に有利となる理由である。


そして当然ながら、王族であるプリンセス・マコも魔力は豊富。彼女がコムラ・ケンのサークルを見学に来ることになったのも、当然の運びだった。


 まず、役所と大学運営から、プリンセス・マコの、一度見学に行きたいという意向の連絡が入る。サークルとしてはプリンセス・マコが入部しくれるのは凄いと思うけれど、王族なんてどう対応したらいいのか分からない、という戸惑いの方が大きい。


 一般の学生と同じように扱ってほしい、という指示らしいが、一般の学生の見学に、大学側から一々予告の連絡が入るはずがない。失礼があったら廃部? 場合によってはその場でお手打ち?などと物騒なことを言い出す者もいて、メンバーの大半の腰が引けている中、


「やっぱり姫には王子でしょう」

「いや、そういうの、やめて」

「だってコムラ氏、新歓担当だし」

「いやいや、ここはちゃんと部長が応対しないと失礼でしょう」

「あーっ、その日はゼミがフィールドワークなんだよね。学内にいないから無理」

「じゃ、日を変えてもらいましょうよ」

「おまえ、そんな連絡、王家に入れられる?」

「いや、でも」

「というわけで、王子、おまえしかいないんだ、頼む。学食Aランチ3回」

「いや、せめて飲み物つけて5回」

「んー、仕方ない、成立」

「あ~ぁ、分かりました。トラブっても責任は持ちませんよ」


というようなやりとりがあって…。

 幸か不幸かプリンセス・マコと海の王子は、運命の出会いを果たしてしまった。


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