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花子さんを見ている人たち  作者: れいる
3/3

第3話 内山マネージャーの恋

花子さんの想い人の親友、内山律人のお話です。


あっ、また来てる……。

高瀬花子さん。

俺と同級生だが、1年も2年も別クラス。 合同授業も一緒じゃないし、まともに話したこともない。

だが、俺も彼女も互いをしっかり認識していると思う。

なぜなら――

彼女とは、ことごとく目が合う。

別に俺に気があるわけじゃない。

理由は簡単だ。

俺の親友……いや、腐れ縁の相沢陸を見ているからだ。

花子さんの視線は、いつもあいつを追いかけている。

そして、その近くには大抵俺がいる。

だから目が合う。

ただそれだけの話だ。

まあ、本人は隠しているつもりなのかもしれないが、たぶん周りはほとんど気付いているだろう。

あれだけ分かりやすければな。

今日も目が合った。

すると花子さんは、慌てて俺の後ろを探し始める。

相沢陸を。

俺は思わず苦笑した。

「あっち」

親指でグラウンドの方を指す。

花子さんは一瞬目を丸くしたあと、小さく頭を下げて駆けていった。

……分かりやすい。

本当に分かりやすい。


そんな彼女が、ある日弁当を作ってきた。

きっかけは野球部の女子マネージャーだった。

「高瀬がお弁当作ってくるって言ったら食べる?」

練習後、そんなことを陸に聞いていた。

「え? マジで? 食べる食べる」

陸は深く考えもせず答えていた。

それを聞いた花子さは、結局弁当を作ることになったらしい。

そして大会当日。

隣市の球場で行われた試合に、花子さんは弁当を持ってやって来た。


花子さんは12時前に渡すつもりだったらしい。

だが大会の日の昼飯は決まった時間じゃない。

空いた時間に食う。

それを知らなかったんだろう。

結局、花子さんが来た頃には選手たちは昼飯も終わりウォーミングアップ中だった。


「花子遅かったよー」

女子マネは駆け寄るとそう言った。

「相沢もギリギリまで待ってたんだけどね。次の試合が始まる前に食べてもらったよ」

そう言って女子マネが、自分が予備で持ってきていた弁当を陸に食べさせたことを説明していた。

花子さんは、慌てて謝っていたけど、俺から言わせてもらえば陸と女子マネの説明不足だと思う。

そもそも、自転車で来れる距離じゃないんだから。

でも、

「相沢には、あとで渡しとくね。」

と弁当を受け取っていたから、陸の手には渡る事にはなったようだ。

その日の帰りだった。

遠征バスの中で事件は起きた。

「何だこれ!」

「うまそう!」

「開けろ開けろ!」

陸に渡された弁当箱を見た瞬間、部員たちが群がった。

止める暇もなかった。

あっという間に蓋が開き、

唐揚げが消え、

卵焼きが消え、

気付けば弁当箱の中身は戦場だった。

俺も一口もらった。

黒崎も食っていた。

陸本人より周りの方が食っていた気がする。

そして最後には――

弁当箱まで少し壊れた。


数日後。

陸は珍しく気まずそうな顔をしていた。

「なあ、高瀬」

昼休み。

廊下で花子さんを呼び止める。

「弁当、ありがとう。あと、ごめん」

そこまでは良かった。

本当に良かった。

だが次の一言で全部台無しになった。

「今度なんか奢るからさ。昼休みどっか行く?」

俺は思った。

ああ、こいつ分かってねぇな。

花子さんも、どこか拍子抜けしたような顔をしていた。

少し驚いた顔をしたあと、

「あっ大丈夫!大丈夫!」

と笑った。

そして断った。


その日の放課後。

「お前さ」

俺は陸の頭を軽く叩いた。

「ちゃんと礼ぐらいしろよ」

「しただろ?」

「そういう意味じゃねぇ」

だが、説明するのも面倒だった。

たぶん陸は分からない。

いや、分かっていたら苦労しない。

こいつは1年の時も2年の時も、それで振られているんだから。

1年の時に付き合っていたのは、見ているだけで癒やされるような同級生だった。

決して美人じゃないけれど、いつもふわふわ笑っていて、まるで春の日向みたいな人。

正直、彼女を選んだ陸に驚きはあったが、長く続いていくんだろうなと思っていた。

だが、数ヶ月後には振られた。

理由は、

「陸君が悪いんじゃないの」

だったらしい。

そして、彼女は別の先輩と付き合い始めた。

2年の時に付き合ったのは、今度は真逆だった。

頭が良くて、美人で、成績も優秀。

歩いているだけで目立つような人だった。

だが、その人も結局は陸から離れていった。

理由はやっぱり、

「陸君が悪いんじゃないんだけどね」

だったらしい。

その後、その人は幼馴染と付き合い始めた。


俺には未だに分からない。

同じように振られているのに、どうしてこいつは毎回気づかないままでいられるのか。

そして今。

弁当一つで浮かれていた陸は、

きっと今回も何も分かっていない。

「なんだよ」

不満そうな顔で俺を見る陸に、俺は肩をすくめた。

「別に」

説明したところで分からないだろう。

たぶん花子さんも言わない。

だから今日も、あの恋は陸の知らないところで進んでいく。

もっとも。

俺にも、人のことばかり言えない事情があるんだけどな。

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