第50話 私って……クラスの罰ゲームで“告白される係”なんですか?
(あわわわわっ……な、なんなんですかアレ!?)
洗面台の前、蜂須賀澄玲はハンカチを握りしめたまま、目を丸くして硬直していた。
(初対面なのに、いきなり「可愛い」って……えっ、なに!? それってもしかして――変態!?)
彼女はごしごしと手を洗いながら、自問する。
心の中ではアラートが鳴り響いていた。
(いや、でも待って?)
ハッと顔を上げ、鏡に映る自分の顔を見つめる。
(もしかして――新手のいじめ……!?)
想像が暴走し始める。
(よくあるでしょ!? 罰ゲームで「クラスで一番ブスに告白してこい」とかいう悪質なアレ!)
脳裏に浮かぶのは、あの仲良し三人組――安城さん、如月くん、そして神田くん。
(ま、まさか……そのメンバーで仕組まれたドッキリ!? それなら「いきなり可愛い」なんて、妙なセリフも納得いく気がする……)
自分の思考のスピードに軽く目眩を覚えながら、澄玲は静かに深呼吸をする。
「すー……はー……すー……はー……」
(大丈夫……大丈夫。冷静に、冷静に)
(澄玲は小さく頷き、結論を下した。
(――そうとわかれば、なるべく関わらないようにしないとね)
彼女の目は、洗面所の鏡の奥で、そっと感情の波を沈めていた。
(ごほっ、ごほっ……)
洗面所でひとり、蜂須賀澄玲は深呼吸のしすぎで小さく咳き込んでいた。
(すー……はー……ってやりすぎました……)
震える指先を握りしめ、彼女はそっと顔を伏せる。
一方その頃、教室では――
「……やっちまった……」
神田ゆういちは、机におでこを打ちつけていた。
(やらかしてしまった……!やっぱ慣れねぇことするもんじゃない……)
(初対面で「すげぇ可愛い」なんて……ばっかじゃねぇの、俺……!つかなんであんな良いタイミングで風が吹くんだよ!!ちくしょう!!!)
ガンッともう一度机にデコをぶつける。
その様子に隣の如月 聖が、心底驚いた顔で言う。
「ゆういち、そんなにぶつけちゃ死んじゃうよ?それ……」
隣で見ていた聖が、心底呆れたような、それでもどこか心配そうな目で俺を見てきた。
そんな中、別の席で本を読んでいた安城が、ふと呟く。
「……すげぇ、可愛い」
「……ッ!!」
俺はギョッとした。
唯一の救いは“誰にも聞かれていないこと”だったのに――
「や、やめてくれ~~~!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ俺。
だが安城は、静かにページをめくりながら返す。
(あんたが色んな人を可愛いっていうからバチが当たったのよ。別にあんたが他の子を可愛いとか思うなんて私には関係ないけど)
「なんで聞こえるんだよ!席めっちゃ離れてるだろ!?なにその耳ッ!地獄耳かよ!?」
もうどうにでもなれと、俺は机にうつ伏せた。
視界の暗闇の中、昔の記憶がふと蘇る。
(……でも、あの子……やっぱ、どこか姫花に似てた)
妹に似た面影。
俺の心に何かが引っかかっていた。
(落ち着け……落ち着くんだ、神田ゆういちよ…一旦、時間を置こう。全ての問題は時間が解決してくれるんだ。少し冷静になってから、また――話しかけよう)
そう決めた俺は、次の授業、美術の教室へと足を運ぶ。
どうやら今日は「隣の席とペアでお互いの顔のデッサンを描き合う」という回らしい。
ちなみに、安城は選択科目で音楽を取ってるため、この場にはいない。もし安城が隣なら1時間、推しの顔を見放題という、もはや授業ではなくご褒美になっていただろう。
(よし、切り替えていこう。……そういえば、美術の隣の席って誰だったっけ?)
何度も受けてる授業なのに、全然思い出せない。
まぁ、よくある話か。昔から人の顔を覚えるのは得意ではないし。
そう思いながら、俺は席について、隣を振り向く。
「デッサンのペア、よろしく――」
その瞬間。
「――っ……!」
俺は衝撃を受ける。そこに座っていたのは――
さっき“時間を空けよう”と決意したばかりの、蜂須賀 澄玲だった。
(う、嘘だろ……!?)
彼女もまた、俺に気づいて、震えるような目でこちらを見つめていた。
(あわわわわ、この人、変態さんじゃなくてストーカーさんなの!?)
この美術の授業、波乱の予感しかなかった――。




