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第5話 異世界級ヒロイン、隣に降臨す。

「お、お前……未来でも見えるのか?」


言ってから気づいた。

やっちまった――まさかの“お前”呼ばわり。

しかも、よりによって、相手は俺なんかよりも超絶格上の美少女。


いつもの俺なら、そんな呼び方絶対にしない。

けど、それくらい衝撃だったんだ。

あの予言のような一言が、あまりにも現実離れしていて――脳が処理しきらないまま、口が勝手に動いていた。


(……うわ、やべぇ。ほぼ初対面の女の子にいきなり“お前”って……俺もう地獄確定じゃん)


絶望感で頭が真っ白になる。

心の中ではすでに人生のエンディングロールが流れ始めていた。


――その時だった。


窓の外で春風に揺れる桜を見ていた安城が、ゆっくりとこちらを振り返った。


「……は? そんなわけないじゃない? それと、“お前”って呼ぶの、やめてくれる? 聞いてて不愉快だから」


鋭い瞳で言い放たれ、俺は即死寸前。

心の中で「はい、ごめんなさい!」と土下座していたその時――


(……くそっ、やっぱり怒ってるよな。入学早々にこんな可愛い子に嫌われるとか、最悪だ……)


そんな俺の“心の声”が脳内でこだまする。

――と、その時。


安城の肩がピクリと反応した。

まるで……俺の心の中を読んだかのように。


「……まぁ、今回は許してあげるわよ」


頬に手を添え、目をそらしながら、安城はポツリとそう呟いた。


表情は相変わらずクールなまま。

けれど、その耳の先がほんのり赤く染まっていたのを、俺は見逃さなかった。


(……な、なんだ今の……)


ツンとした態度の奥に、ほんの一瞬だけ見えた優しさ。その柔らかさに、俺の心は――跳ねた。


(嫌われてなかった……?)


緊張の糸がふっとほどけたその瞬間。

俺の視線は、彼女――安城恵梨香に吸い寄せられていた。


(やっぱり……よく見ると更に綺麗な子だよな)


パッチリとした目に、すっと通った鼻筋。

凛とした横顔は、教室の喧騒とは別世界の空気を纏っている。


しかも、あの壇上でのスピーチ。成績優秀。容姿端麗。どう考えてもスペックが高すぎる。


(……これはもう、三次元の最高到達点だろ……!!)


感動が止まらない。

脳内の語彙が次々と弾け飛んでいく。


(クソッ……なんで俺のボキャブラリーって、こんなにも乏しいんだ!?)


(この“可愛い”を表現するにはあまりにも言葉が足りなさすぎるっ……!!これは軽い可愛いじゃない……もっと奥深い可愛いなんだ……)


怒りと情熱が入り混じったような心の声が、内側からどんどん膨れ上がっていく。


(てかさ、“可愛い”って言葉ひとつで全部まとめるの、無理があるだろ!?)


(赤ちゃんの可愛いと、動物の可愛いと、安城の“可愛い”は全然違うじゃん!!なのに世の中はそれをまとめて“可愛い”という。そんなの受け取る側の感性によって左右されまくるだろ!)


(よし、決めた……!俺が政治家になったら“可愛い”をもっと細分化して、安城専用の最上位カテゴリ作ってやる……!!俺が国会で安城のこの可愛いさを徹底的に議論してやる。)


俺は心にマニフェストを掲げて、妄想はもはや政策レベルの暴走モード。

そんなバカみたいな妄想に熱中していると――


ふと気づく。


クールビューティーの安城が、ほんのりと頬を赤らめ、口をポカンと開けたまま、こちらを――俺を、見ていた。


下唇をきゅっと噛むようにして、視線を伏せがちにそらす仕草。


それはまるで──


(……え? どした? え、え、まさか……デレ……?)


思考が一瞬止まる。


(いやいやいや、冷静になれ俺。さすがに気のせいだろ!? だって、デレるような展開なんて……なかったし!)


(でも……いや、あの顔、完全に赤かったよな?)


(いや……まて。もしかして、体調が悪いのか?)


心の中で警報が鳴る。不安と混乱の波が押し寄せる。


「どうかしたか? 安城?……顔、赤くないか? もしかして、体調悪いのか?」


俺の問いかけに、安城はぴくりと肩を震わせた。

一瞬だけこちらを見て、慌てたように視線を逸らす。


そして、小さく口を動かした。


「なっ……なにもないわよっ!!」


その声は、いつもよりもわずかに高かった。


(……あれ? ちょっとトーン上がってない?)


驚いている間に、彼女は席を直し、そっぽを向いたまま、先生の方へと顔を向けた。


「そ、そうか? なら、よかったけど……」


俺がそう返すと、微かに、誰かの呟きが聞こえた気がした。


「……私なんか可愛くないわよ……てか、わざわざ国会で私の可愛さを議論しないでよ……他に話すこといっぱいあるでしょ……バカじゃないの?……」


(……ん? 今、なんか聞こえなかったか?)


「おい、今……何か言ったか?」


「なにも」


安城はそっけなく答えた。まるで、何もなかったかのように。


(……あれなんか言ってたような?気のせいか?てかさっき絶対、“照れてた”よな?)


けど、その理由まではわからなかった。

そんなモヤモヤを抱えているうちに、チャイムが鳴った。


キーンコーンカーンコーン――


放課後の訪れを告げる、静かでやさしい音。

教室に、先生の声が響く。


「今日はここまで。明日から本格的に授業始まるから、配った教科書は絶対忘れるなよー!」


そう言いながら、遠坂先生はプリントをまとめて教卓にドンッと置いた。


俺が椅子を引いて立ち上がろうとしたその時──


「ゆ〜ういちっ♪」


声とともに、俺の机に肘をついて体を乗せてきたのは、幼なじみの如月 聖だった。


「どうなのどうなの〜? 隣の美人さんとは、もうお近づきになれた感じ〜?」


「うるさい…レベルの差がありすぎる」


俺はそっけなく返す。

が、聖は全くこたえていない様子で、へらりと笑って俺の顔を覗き込んでくる。


「顔赤くなってんじゃん、ゆういち。やっぱ見惚れた? てか、あのスピーチやばかったよね〜!本当に異世界から来たヒロインって感じでさ!」


──その言葉を聞いた瞬間、俺の中にひとつの確信が芽生えた。


(異世界……?)


(いや違うな)


(あれはもう、ラスボス級だ)


彼女の笑顔、心の揺らぎ、そして何気ない呟き。

全部が、俺の中の“日常”を少しずつ狂わせていく。


だけどなぜか、嫌じゃなかった。


むしろ、その“非日常”の中心にいる彼女に……もっと近づきたくなっていた。



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