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第31話 妹の誕生日にドヤ顔で自爆した兄は、天使の「は?」で現実に引き戻される

(やべぇ……時間ギリギリじゃねえか)

(これは姫花怒るかもな)

脇に抱えた紙袋が揺れるたび、心のざわめきがひとつ大きくなる。

ほんの少しの不安を押し殺しながら、俺はドアノブに手をかけた。


「――ただいま〜」


ガラリと開いたその瞬間――


「お兄ちゃん、おかえりなさいっ♪」


出迎えてくれたのは、満面の笑みを浮かべた我が姫花、天使だ――いや、違う。

すまない、逆だ。我が天使、姫花だ。


その柔らかくも眩しい笑顔に、思わず息をのむ。


……怒ってるかも、なんて思った自分を殴りたい。

いや、土下座して殴ってもらうべきだ。


なぜなら――


天使は、怒らないのだ。


「ご飯できてるよ〜! 今日は姫花の誕生日パーティだもんねっ」


リビングに入ると、テーブルには色とりどりのご馳走が並んでいた。

手作りハンバーグ、ミニオムライス、カプレーゼ風の前菜――


まるで、物語のワンシーンみたいだった。


「姫花、誕生日おめでとう!」

俺は満面の笑みで言いながら、紙袋から包みを取り出す。


「……これ、プレゼント」


一つ、二つ、三つ――

テーブルに置かれた箱の数を見て、姫花が目を見開いた。


「えっ……三つも!?」


驚きと嬉しさが交じった声が、リビングにふわりと響く。

その表情は、まるでプレゼントよりもプレシャスな、最高の贈り物だった。

「ねぇ、にぃに……」

姫花が少し照れたように俺を見上げる。


「プレゼント、あげてもいい?」


……来た。

これは“甘えモード”の合図だ。

普段は「お兄ちゃん」呼びなのに、こういうときだけ「にぃに」になるのだ。


――そう、妹は“ギア”を入れ替えた。

俺の3つのプレゼントによって、甘え仕様フルスロットルVer.姫花が発動されたのだ。


「もちろん!開けてみてくれ!」


俺が胸を張ると、姫花は一番上の、黄色い包装紙の包みを手に取った。


……が。


ビリィィッ!


「お、おおっ⁉︎」


普段の姫花なら、端っこを丁寧に破るタイプ。

だが、今日の彼女は違った。感情の高ぶりからか、ラッピングを容赦なく引き裂く――


まるでそこに敵が潜んでいるかのように。


そして、中から出てきたものを目にした瞬間。


「…………は?」


明らかに思考が停止したような、乾いた声が漏れた。


そこには――

“姫花の顔がプリントされたTシャツ” が入っていた。


全力でドヤ顔を決める俺。

感動と笑顔に包まれるであろう未来を思い描き、胸を張ってこう言った。


「姫花、オシャレ好きだろ? 服もよく見てるし。だから考えたんだよ……どんな服が、姫花にとって一番なのかって!」


そして、満面の自信を込めて――


「――自分の“好きなもの”をプリントするのが、最高じゃんってさ!」


腕を組み、うんうんと得意げに頷く俺。

しかし。


視界に映る姫花の表情は――


「……え、マジ引くんですけど」


まるで石像でも見るような、無表情のドン引きだった。

「……は?」


姫花の口から漏れた、その短くも破壊力抜群の言葉。


「お兄ちゃん……は?」


二度目は、さらに低いトーンだった。

さっきまで「にぃに」だった呼び方が、まさかの「お兄ちゃん」へ逆進化している。


それはつまり――甘えモード、強制終了。


感情のスイッチは完全に切られたのだ。


実際の距離は、たったの1メートル足らず。

手を伸ばせば届くはずなのに――


……遠い。

感情の距離が、冗談抜きで国境越えレベルに離れていた。


あれ?

もしかして俺、やらかした……?


いや、もうバカな俺でもわかる。

このプレゼントは――


爆死だ。


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