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隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい  作者: 夕凪虚音
第1章 心を読む少女 ― 推し爆誕編
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第32話 ドヤ顔Tシャツ、爆死――そして奇跡へ

最愛の妹を喜ばせるため――

俺は、自分のドヤ顔をプリントしたTシャツを、文字通りドヤ顔で贈った。


そして――爆死した。


(……どうやら俺は)


(プレゼント選びに、失敗したらしい)


時刻は夜。


我が家の食卓は、やけに賑やかだった。


色とりどりの料理。

壁には派手な飾り付け。

誕生日を祝う準備は、完璧すぎるほど整っている。


……なのに。


その中心にいる妹――姫花の表情だけが、致命的に曇っていた。


「…………」


無言。


だが、わかる。


あれは“怒り”じゃない。


“呆れ”でもない。


――“失望”だ。


さっきまで「これで姫花は絶対に喜ぶ」と確信していた俺を、今すぐ過去に戻って全力で殴り飛ばしたい。


しかも重い一撃で。


「……はっ!?」


乾いた笑いが、喉から漏れた。


(いや、違う……まだ終わってない)


自分に言い聞かせるように、俺は小さく呟く。


(落ち着け……落ち着け俺……)


そうだ。


終わりじゃない。


まだ――“希望”は残っている。


俺のプレゼントは、三つ。


一つは死んだ。


だが、まだ二つある。


ならば――ここから巻き返せばいい。


終わりよければ全て良し。


人類はそうやって歴史を紡いできたはずだ。


俺はゆっくりと顔を上げる。


視線の先には、テーブルの上に置かれた残り二つのプレゼント。


そして――


その前で、どこか興味なさそうに立っている我が最愛の妹。


「…………」


さっきまでの期待に満ちた顔は、もうそこにはない。


あるのは――


“とりあえず最後まで付き合ってやるか”みたいな、完全に消化試合モードの姫花だった。


(やめろ)


(その目で見るのはやめろ)


心の中で土下座しながら、俺は必死に思考を回す。


(落ち着け……分析だ……冷静に状況を分析しろ……)


(残り二つ……けど、このうち一つはTシャツ……)


(しかもプリントが違うだけ……)


(……うん、これダメだな)


ほぼ確定で爆死ルート。


むしろ二撃目でトドメを刺される可能性すらある。


となると――


残るは、たった一つ。


(安城にアドバイスをもらった、あのプレゼント……)


俺は息を殺すようにして、その箱を見つめた。


姫花は、さっきまでとはまるで別人みたいに――

やけに“丁寧”に、包装を剥がしていく。


ビリッと破ることもなく、

指先でそっと、慎重に。


……まるで。


“中身にはもう期待してないけど、一応開ける”


そんな、優しすぎる諦めの動きだった。

俺はただ、心の中で祈ることしかできない。


――頼む。


――頼むから、姫花の心を掴んでくれ。


そして――


……運命の瞬間。


箱の中身が見えた、その瞬間。


姫花の表情が――変わった。


「――えっ、これって!」


ぱっと、目が見開かれる。


その瞳に、一気に光が灯る。


「リルスチュアートの新作コスメ!?」


その瞬間――


姫花の顔に、“幸せの花”が咲いた。


さっきまでの空気が、全部吹き飛ぶ。


ぱあっと、明るくて、無邪気で、どうしようもなく愛おしい笑顔。


(……よし!)


(この顔だ)


(この笑顔のために、俺はここまでやってきたんだ)


胸の奥が、じんわりと熱くなる。


「これ……もう諦めてたのに……!」


「並んでも買えなくて……!」


「てか、なんで、にぃに私が欲しいって知ってたの?」


「誰にも話してないのに……!」


……ああ、確信した。


呼び方が“お兄ちゃん”から“にぃに”に戻った時点で、


この勝負――完全勝利だ。


甘えモード、再突入。


俺は軽く鼻で笑って、余裕ぶった顔を作る。


「へっ、何年お兄ちゃんやってると思ってんだよ」


「妹の欲しいもんくらい、わかるに決まってんだろ」


――もちろん、嘘だ。


新作コスメ? 何それ美味しいの状態だ。


だがいい。


妹に「センスある兄」だと思われるためなら、俺は喜んで道化になる。


(……てか待て)


ふと、違和感がよぎる。


(“誰にも話してない”って言ってたよな……?)


(……でも安城、普通に知ってたぞ?)


一瞬だけ、頭に疑問が浮かぶ。


だが――


それを考える暇すら、次の瞬間には消し飛んだ。


「にぃに、ほんっっと大好き!!」


妹の姫花は、食卓の椅子から飛び上がるように立ち上がり――

そのまま、俺に抱きついてきた。


「うわっ!?」


不意打ちだった。


けど、その腕の力は思っていたよりもずっと強くて――

離れたくないみたいに、ぎゅっとしがみついてくる。


その瞬間。


――ドーンッ!!


俺の脳内で、盛大なファンファーレが鳴り響いた。


勝利確定演出。


――任務完遂。


妹を笑顔にするという、兄としての最大ミッション。


完全クリア。


「お兄ちゃん、毎年、毎年……本当にありがとうね」


ぽつりと零れたその言葉は、


少しだけ大人びていて。


でも確かに、“妹”の声だった。


──俺と姫花は、ずっと二人だった。


母は、早くにいなくなって。


父は、格闘技のプロとして世界を飛び回っている。


誰よりも強いはずなのに――

誰よりも遠い存在だった。


だから。


俺が、守らなきゃいけなかった。


この小さな背中も。


この笑顔も。


絶対に――曇らせちゃいけないって。


……ここまでは、完璧だった。


物語としても、出来すぎなくらいに綺麗で。


まるで“主人公補正”が全開にかかったみたいな、そんな結末。


――あの箱を見つけるまでは。


「ところで、お兄ちゃん……もう一つのプレゼントは?」


(……はっ!?)


血の気が引いた。


(しまった……三つあるって言っちまってたのか……!!)


脳内に、あの言葉がよぎる。


――終わりよければ全てよし。


つまり。


終わりがダメなら――全部終わり。


「こ、これはだな……」


俺は引きつった笑みを浮かべる。


「うん、忘れてくれ。頼む、記憶から削除してくれ」


必死の懇願。


だが――


「なんでよ! にぃに!」


「見せなさいよ〜!」


妹は、逃がさない。


むしろ楽しそうだ。


「だ、駄目だって!」


「順番ミスったんだって!」


「これは新作コスメに勝てるほどのポテンシャルないんだよ!」


情けない言い訳。


――当然、通じるはずもなく。


ビリビリビリッ!!


容赦なく、包装紙が引き裂かれる。


そして現れたのは――


一枚のTシャツ。


そこにプリントされていたのは、


小さかった頃の俺と姫花。


泥まみれの俺を指差して、無邪気に笑っている姫花。


――そんな、何気ない一瞬を切り取った写真。


(……終わった)


脳内で、静かに何かが崩れ落ちる。


“は?”


“誰がこんな服着るの?”


そんな言葉が飛んでくる未来を想像して――


俺は、そっと目を閉じた。


……が。


「ふふっ……」


小さな笑い声が、聞こえた。


「なんでこんな写真選ぶのよ、にぃにってば」


――え?


ゆっくりと目を開ける。


そこにいたのは――


Tシャツを胸に抱きしめている姫花だった。


まるで、大事な宝物みたいに。


その目尻には、うっすらと涙が滲んでいる。


「……にぃにのバカ」


「でも……すっごく嬉しいよ」


その声は、


さっきみたいな明るい喜びじゃない。


もっと静かで。


もっと深くて。


胸の奥に、じんわりと広がってくるような音だった。


(……あれ?)


(……プリントTシャツ駄目じゃないのか?)


理解が追いつかない。


だが――


確かなことが一つだけあった。


姫花は、笑っていた。


さっきよりも、ずっと優しくて。


ずっと、あったかい笑顔で。


「にぃに」


そっと、名前を呼ばれる。


「これからも……私を守ってね?」


その笑顔は――


ほんのりと頬を染めた、やわらかい笑顔で。


どこか照れていて。


でも、真っ直ぐで。


まるで――

桜色のリボンで包まれた“ありがとう”みたいな笑顔だった。


その瞬間。


胸の奥で、何かが静かに決まった。


俺は、笑った。


「おう! お兄ちゃんにまかせろ!」


軽く言ったつもりだった。


でも――その言葉は。


自分でも驚くくらい、まっすぐに響いていた。


守るって、こういうことだ。


この笑顔を、これから先もずっと――


何があっても、曇らせないってことだ。

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